春は芽吹かず桜は咲いて
俺は生徒指導室にいた。
「どうして僕が・・・」そう俺は訴えたが、担任は聞く耳を持たない。
「どうしてって君が彼女をいきなりぶったからに決まってるだろ?どうした?倫理観をなくしてしまったのか?それとも君はとんでもないサイコパスなのか?まぁ君にも君の考えがあるのだろう。俺に理解できるかどうかはおいといて聞いてやろう。どうして彼女をぶったのだ?」
先生は眼鏡を吹きながら俺に話しかけてきた。ちなみに先ほどまで号泣していた女は先生の隣で俺のことをゴミを見るような目で見つめている・・・
「えっと、窓際にいた女の子が放った輪ゴム銃が彼女の頬に直撃した結果、彼女が号泣してしまったわけで、僕が彼女をぶったなんてありえません!」無駄ではあるが一応正直に言ってみた。
「君は・・・」
「お前は・・・」
「「サイコパスか!」」
なぜか息ぴったりの二人だった。まぁそんなのは想定どうり。俺にも勝ち目はある。クラスのやつ聞けば一発だからだ。
「一番窓際の前から二番目の子です、その子が輪ゴム銃を持っています。それをみた上でクラスの人たちに聞いてみてください。僕は絶対無実ですから。」
俺は先生と号泣少女にそう言った。そうしてとりあえず入学式に出席することとなったのだが寝ていたので入学式の記憶がない。
そして教室に戻った俺らは明日からの予定説明も早々に今朝起きた事件についての事情聴取が始まった。
「今日の朝、上田が殴られた件だが、どういう状況だったか説明してくれるやつはいないのか?」
先生はクラスのみんなに問いかけた。入学式早々、質問に答えようとするものはいないと俺は予測していた。しかしいたのだ、答えたやつが。
「あそこの窓際の女の子がものすごく大きな割り箸銃で被害にあった女の子の頬を貫いたというのが事実です。実際クラスの多くの人がその光景を見ていたはずです。今疑いをかけられている彼は全くの無実です。」
真ん中くらいの席に座っているイケメンが俺の味方をしてくれた。ほんとありがとう。
「そのとうりだ。」
「私もそれ見た」
「あの男子は悪くない。」みんなが俺の味方になってくれた。二名をのぞいて・・・
「なるほどサイコ相田の言うことは真実だったのか?いやしかし、割り箸銃で人に激痛を与えるなんて物理的に不可能では・・・と言うかあんなにおとなしくて美人な子がいきなりそんなことを急に?はっ!これは相田の洗脳のせいか。クラスのみんなはサイコ相田に洗脳されたに違いない!」
後ろで上田がブツブツ呟いていやがる。誰がサイコだ、クソビッチ。
上田がビッチかどうかは置いといてこれで事は収まりそうだ。よかったー。
「えっと・・・三浦か、一緒に職員室にきてくれ。入学式早々ちょっとした事件があったみたいだが、みんな仲良く一年間やっていこう。よろしく。今日はこれで解散だ。」先生は頭を掻きながらやれやれといった様子で解散を呼びかけた。のだが・・・
「待ってください先生、あの男が上田さんを急に殴ったのにどうして私が割り箸銃で上田さんを撃ったなんて意味不明な虚言で加害者にならなくてはならないのですか?」
三浦はものすごい虚言をさらっと言い放った。俺が殴った?あいつ脳みそ田楽味噌なんじゃね?怖えーよ、怖すぎるよ。サイコ三浦の間違いだろ。な?上田、いやいや、なんでお前はそんなに三浦の意見にうなずいてんだよ。お前そもそも座ったまま寝てたんだからしらねぇだろ、どうせ俺の顔がブスだからそう判断しただけだろ、クソビッチがぁぁぁぁ!
「いやまぁ三浦と同じことを俺も思っていたのだが、クラスの皆が証言しているんだから・・・話だけでも聞かせてくれないか?」
先生も言葉を選びながらといったところだろうか、何よりも上田のことを気にかけてあげているのだろう。そうして解散することもできないまま十分くらい三浦は粘り続けた。
皆、帰りたそうな表情をしているが、先生は解散の指示を仰ぐ様子がない、どうやら三浦のペースに飲まれているからだろう。確かに三浦はすごい、先ほどから筋の通った説明しかしていないし、割り箸銃はすでに処分したようだ、カバンの中を堂々と見せることができたのはそのせいだろう。
あいつは何がしたいのかわからない、正直俺に対する嫌がらせにしては無駄が多すぎると言うかやり方が賢くない、俺のことが好きなのか?残念ながら俺はお前のことが好きじゃない。乙・・・?何いってんだ、てか思ってんだ俺。
「そもそもあんないかにも引きこもりみたいな男に犯人に仕立てられるなんてありえない!私はやってないし、彼の言う事は支離滅裂で証拠もない、皆そろそろ真実を話してよ。」訳のわからないことを三浦は言い続けている。
あれだ二重人格者なんだろう、きっと彼女はさっきの輪ゴム銃を持った少女ではないのだ。そう、だから今話している三浦はさっきの三浦ではない、きっとそうなのだ。わかったよ・・・
「すみません先生僕がやりました。とてもむしゃくしゃしていてつい上田さんを殴ってしまいました。」
俺は嘘をついた。誰でもない自分のために・・・
そのあと俺は先生にこっぴどく怒られ、上田に土下座させられた挙句、
「キモいんだよ。サイコ相田!」とか言われたし、ビッチのくせに・・・
まぁそんな事は予想済みこの上ない事だ。まぁ後ろの席の人と仲違いしたくらいで俺はどうも思わない。『たかが』上田だ。俺はまた自分の嫌いな部分を出してしまったことに後悔した、が親に二時間説教食らった後にその後悔も吹き飛んだ。
次の日相変わらず花粉症が治ることもなく、桜並木に癒されながら駅に向かっていた、俺は桜に決意を交わしていた・・・
俺は必ず国立の理学部に入る。
だからとりわけ問題を起こさずして俺はこの高校三年間を過ごしたいし、正直他人に興味を持ちたくもない。もちろん普通に会話して仲良くなったりもするだろう。
ただそれだけに過ぎないのだ。こんな考え方しかできない俺はなんて寂しいのだろうか、と同時になんて合理的なのだろうかとも思う。
今日の桜はいつもより少し、艶やかだった。
電車に乗り込み今日も可愛い人を探す、なんと今日は三人も可愛い人が乗っていた。しかし、花粉症で目が痒くて、少ししか見ていられなかった。やはり、春は嫌いだ。
俺は少し後ろめたい気持ちで教室に入った。今日は朝から気分が沈みがちだな・・・
「おはよう相田だっけ?俺、篠崎稔。一年間よろしくな。」
俺が教室に入ってすぐに昨日俺をかばってくれたイケメンが話しかけてきた。
「おはよう僕は相田裕太、昨日はありがとう稔、かばってくれて」僕は稔に感謝を述べた。
「いやいや俺らこそありがとう、君があそこで殴ったって嘘ついてくれたおかげであの空間から解放されたんだから。」稔は俺に感謝をしているようだ。
すると横からいかにも、うるさそうな奴が一人、俺に話しかけてきた。
「俺も助かったぜ!昨日早く帰って友達と遊ぶ約束してたんだよ。あの時間に終わってなかったら電車乗り損ねて確実に遅刻してたわ。あ、ちなみに俺は松優作、よろしくな裕太。」
松はとても気さくな奴みたいだ。話していても飽きなさそうな奴だと推測できる。
「あぁよろしくな、松。」僕は笑顔で答えた。うぇぇぇ自分のキモささに悶絶。
「いやーどうしたの?相田くん?昨日のはらしくないんじゃない?」そういえばこいつの存在を忘れてたな、だりー奴がきたもんだぜ。
「そうだったかな?」
俺はあたかも性格イケメンだと言わんばかりの口調で本多に言った。ヤベェ絶対笑われるわー。まぁこいつ俺の元のキャラ知ってるからな…頼むよぉ〜バラさないでくれよ〜、本多さ〜ん。
「何?その喋り方!」本多が大きく腹を抱えて笑っていやがる。まぁ気持ちはわかるけど、ちょっと抑えてくんない?ほんと頼むよ!
「なんでこの女の子こんなにゲラゲラ笑っってんの?」松は俺に問いかけてきた。
「僕の顔がおかしかったんじゃないかな。」と自虐を込めて言ってみたら本多がさらに大笑いしだした。
「裕太の顔に何もおかしなところなんてないだろ。」稔はカッコ良く言い放った。
なんだこいつ軽く俺を侮辱してんのか?いや言葉の意味を理解していないだけというのはわかるんだけど、ほんとイケメンってだけで殴りたくなるの俺だけなのかな?まぁクールキャラの僕ちゃんは君たちに何も言う気はないけどね。
そうしてようやく笑いをこらえ切った本多が真実を語り出そうという時がきた。俺はある程度の覚悟を決めた。だが甘いぞ本多!俺はお前よりはるかに賢い、ずる賢いのだ。ふはは。
「そもそも、相田くんは僕とか全く使わないもん。それに、こんなに優しい喋り方じゃないし、ホント考え方も変わってたし、さっきの『顔がおかしかったんじゃないかな』なんて相田くんがよく使ってた自虐ネタだよ。言い方が随分違ったけど。もしかして相田くんのこと顔だけでみて引きこもりのブスインキャだって騙されちゃいけないよ、少なくともクラスでかなりうるさい方だったんだから、引きこもりインキャなんてありえないよ。って言うか静かな相田くんって想像しただけで気持ち悪いなー。ははは」
実際静かである相田裕太を見て本多は大笑いしていた、それくらい柄にもないことを俺はしているのだ、いやむしろ何もしていない、静かに黙っているだけではないか。っていうか俺がブスだってことは否定しないのかよ。まぁいいんだけど事実だし・・・それに本多はビッチじゃないし。※あくまでも相田自身の見解です
「おいおいまじか裕太、入学そうそう面白いこと聞いちゃったぜ。」松が笑顔で語りかけてくる。
「俺は別に裕太がどんなキャラでも仲良くできると思っているから気にしないぞ、まぁ気兼ねなく俺に接してくれよ裕太。」稔は天使のように微笑みながらそう言った。
稔、お前は神か、神なのか?
「確かに僕が中学の時ものすごくやばい奴だったのは否めないな。だけど高校生になったから自覚を持った行動ができるようにって考えてるんだ。だからもうやばいやつは卒業なんだ、中学校で。」
決まったーーーーーー。ゴォーーーールウゥゥゥゥ。これで俺は陰キャラでいける。高校デビューがかなった。この陽キャラたちに目をかけてもらっておけば俺は少なくとも平和に一年を過ごせる。よし俺の陰キャライフスタートだぜ。ヤベェフラグのように思えてきたな、よーし落ち着け俺、本多はいまの説明で俺が静かになった理由を納得してくれるはずだ。まぁ自覚を持った行動なんてクソ喰らえだけどなギャハハ。
「なーんだそうだったの?でも別に相田くんはやばいやつだけど、私は意外に好きだったよ。とっても面白かったし、って言うかいろんな人に好かれてたんじゃない、中学の時の相田くん。」本多は言った。
は?残念だが俺はお前が好きじゃない、もちろん嫌いでもないが。好かれていた、というか嫌われていなかったそれだけだろ。まぁ彼女が言った『好かれてた』と言うのは恋愛的な意味ではないのだが・・・この二人は勘違いしてしまうのではないのだろうか。俺に恋愛沙汰など一切ないと言うのはあくまで中学の内輪ネタにすぎないからだ。
「マジなのか・・・?」松がものすごい顔でこっちを見つめている。
悪かったなこんな見た目で、だが案ずるな俺は見た目どうりモテていたと言う事実は一切ない。
「好かれてたっていうのは恋愛的な意味じゃねーぞ。きちーぃんだよ本多。」あ、ミスったいつもの喋り方が。
「そうそうその喋り方だよ、相田くん。絶対そっちの喋り方の方がいいって。相田くんの『きちーぃ』久しぶりにに聞いたな、今日いいことあるかも。」
本多が痛いとこを突いてきた。松も本多と一緒に大笑いしてやがる。
「おいおい、やめてやれよ、裕太がかわいそうだろ?」この男、篠崎稔はやはり神だった。
そんなこんな朝っぱらから盛り上がった。昨日のことなど気にならないくらい楽しかった、今日だけでいろんなやつと話すことができたし、昼飯を食う仲間もできた。とても有意義な一日だった。
だからだろう、今日の帰り道、桜の線に入った途端、俺は今日の朝感じていた後ろめたさが倍増し罪悪感となって襲っている。俺はわかっていたのだ、こうなることが。計算どうりと言いってはおこがましい、わかりきっていた・・・
昨日みんなが証言をしてくれた時点で俺の勝利(無罪)は確定していたのだ。それでいて、三浦がクラスでやばいやつ認定されるのは確定していた。そこで終わっていればよかったのだが、あいつは反論し始めた。俺はそれを絶好の好機だと思ってしまった。俺は一日先生に怒られるだけでクラスのみんなに良い印象を与えることができると踏んだ。
それもそのはずだ。ただでさえ訳のわからない三浦の行動のせいで教室に拘束されているにもかかわらず、三浦は自分の主張を曲げず、議論を終わらせようとはしなかった。
皆、『早く帰りたい』という共通の目的が生まれ始めたのだ。
その目的を俺は見た目だけの自己犠牲で果たした。リスクとリターンを考えた結果、三浦をクラスのみんなが嫌う対象になることをいとわなかった。
俺はそんな自分を否定することができない。なぜなら俺は大多数の人から見れば『良い』行動をとった。誰も俺を責めないし、自分にとって三浦とは自分の地位をあげるための道具にすぎない。
俺は自分のこういう考えが最も気に食わない、自分中心主義を貫いている自分が嫌だとはっきりいうことができない自分が嫌なのだ。だから俺はあい変わらず人を道具として見てしまうのだ・・・俺は綺麗な心を持ちたいと切に願っている。だが願うだけだ。俺は自分と対話する気など全くない。自分を客観的に見ているという主観論だけで満足する。
だから春は嫌いなんだ。
一人桜の線の中でカッコつけて歩いていると、目の前にある踏切がなった。ちっ!かっこよく歩いてたのに空気読めよ、踏切さん。三浦・・・正直どうでもいいかな……
とか思ってる時点でだいぶ気にはなってんだよな。好意があるなしじゃなくて普通にかわいそう。あまりに矛盾した自分の感情に吐きそうになるわ。
桜の木は凛々しく、儚げであり、俺を笑っているようにざわついていた。