始まりの春
『春が来た』
そんなありふれた言葉を胸に抱き線路越しに見える桜並木を見つめていた。
桜はさーっと綺麗な音を立てながら風に揺られている。
桃色に染まった景色を邪魔するものもなく、たかが十メートルあるかないかくらいの道はとても凛々しく気高い一本の線のように思えた。その景色に引き込まれ、ぼーっと桜の線を見つめているうちに、俺の足は動き出していた。この桜の線にいる、そんな気分になった俺は桜の線に自分という存在を重ねた。
すると自分がとても綺麗な存在になれる気がしたんだ。
だから俺は・・・
『春が嫌いだ』
その他理由はある。リア充カップルが桜を愛でながらイチャイチャし始めたり、新しい学校、クラスにウキウキした野郎どもがちらつきやがる。
何をそんなにウキウキする必要があるんだ。環境が変わることによりかかる精神的な疲労の方が大きいだろうに。他の奴らはきっと俺よりも精神耐久値が高いのだろう。
新しい環境なんて何がいいんだか。せっかく中学のとき作った友達がゼロになるし、勉強も先生も校舎も全部違うんだぞ、そう考えるだけで憂鬱だ。
まぁリア充はいつ見てもうざいから死ね。とりあえずそういうことだ。何よりも春が嫌いな理由は・・・俺が花粉症だからだよ!
春を存分に感じながら、駅へと向かった。その間くしゃみは七回しか出なかった。この回数が多いか少ないかは人それぞれである。
慣れない電車に揺られながら、俺は必死に可愛い子がいないか、探していた。しかしいなっかった。ちっ。
そんなこんなで今日初登校となる、いや入試の時にきてるから実質二回目の登校となる私立桜涼高校についた。私立だし俺の家より金持ちな奴が多いんだろうな。
俺の家はそこまで金持ちでもないが、入試の成績により俺はこの高校で授業料半額免除対象者であったため普通にこの高校に通えるのだ。半免って俺すごくね?そんなことをのたまうものなら全額免除者に何を言われるかわからない。
どっちにしたって俺はそんなに賢くはない。これは事実である。俺は周りから賢いと言われてきたがそうではない。勉強をしただけだ。本当に賢いと言われるべきなのは努力と才能を組み合わせた人であり、俺のような努力だけでのし上がる奴を賢いとは言えないのだ。あくまで自論だが・・・。俺は賢いと言われるのが嫌いだ、努力もしていない奴らに「お前は賢い」などと言われると『お前は勉強の才能がある』と言われているようで非常に鼻につく、俺に才能はない。努力する才能などというが、努力に才能なんて必要ない。努力はしようと思えば誰でもできる。俺は努力をしたくてしているわけではない。しなければならない、だからしているのだ。
「努力っていうのも俺が春嫌いである一つの理由なのかもな」と誰にも気づかれないように呟いてみた。
呟くことにより、なんかかっこいい、かっこいいのだ。ブツブツ呟きながら歩いている俺はきっと周りから見てもやばいやつに違いない。まぁ自意識過剰か・・・下駄箱で上履きに履き替え外履を自分の持ってきた袋に入れる、誰か忘れている奴がいれば俺は予備に十枚の袋を持っているのだ。貸してやらなくもない。ふはは。そんなことを思いながら下駄箱で袋を持たないやつを探していたが、見事な具合に皆、袋を持ち合わせていた。僕は何事もなかったかのように、いや実際なかったのだが・・・教室に向かうことにした。
教室に向かっている途中で袋を忘れた女に袋を渡していた男を見たような気がしたのだが見ていない、俺は何も見ていない・・・
一年三組の教室に俺は足を踏み入れた、そう、ここから俺の青春時代は・・・なんて展開を期待はしていないと言ったら嘘になるが、実際何も起きないのだから仕方ない。
俺は席について窓を見た。空は青く、そして遠かった。そりゃそうだ一番窓から遠い席だもの。なんで俺の名字は相田なんだよと思うのもこれで三、四回目か。まぁ、いいや。
ものすごく静かな教室だな、一つの空間に三十人以上いるというのになぜ誰も話さないのだ?きっと俺も含めみんな緊張しているのだろう。実に愉快だ。僕はこういう静かな空間が大好きなのだ。思わずにやけてしまう。
「あの・・・そこ多分わたしの席なんですが・・・」と女が話しかけてきた。
もちろん内容から察してクラスメイトだろう。どうしよ、やっちゃったな初日から席間違えるなんてやっちゃったな。しかも今絶対にやけてたの見られたよね。きちーぃ。まぁまぁでもこういうところから俺のラブコメは始まるんだよな、ビバ・俺の青春!
「ああーすみません悪気があったわけではないのですが。僕の席どこだったんだろう。あはは。」
すげー落ち着いたキャラで言って見た。これなら違和感ないよね。よしこの学校ではクールキャラで通そう。しかしよく感情を爆発させなかったな。エラいエラい俺!
「あれ?よく見たら相田くん?気づかなかったー、相田くんも桜涼だったんだね。三年間よろしく。ていうか私の席やっぱり向こうの席だったわ、ごめんね。あとその喋り方いいね。面白いよ。」そう言って本多楓は自分の席へと向かった。
「・・・」
やられた、完全にはめられた。同じ中学のやついないと思ってたのに・・・本多楓は俺とそこそこ会話を交わしたことのある女だ。可愛くはないが、悪い奴ではない。仲が悪かったわけでもなく、むしろ仲が良い方だっただろう。ではなぜ俺は本多がこの学校にいることを知らなかったのか?その答えは明確だ。俺はあいつに興味がなかった、それだけだ。しっかしあいつよく俺の存在に気づいたな、俺のこと好きなのか?残念ながら俺はお前のことが好きじゃない。乙!
そろそろ八時半か。先生来るんじゃね?そう思いながら窓際にいる一際目立った美少女を俺は眺めていたというか凝視していた。かわいいなぁ、という言葉よりもヤベェという言葉が先だった。どうしてかって?
その美少女はすげぇデカい割り箸銃で俺の席の後ろを狙いうちしようとしていたからだ。待て待て待て……理解が追いつかん、展開が急すぎんだよ・・・急に本多に話しかけらたと思ったら今度はやべー奴降臨?
きちーぃ。
「なんだあいつ・・・」思わず声に出た。一方後ろの席のやつは座ったまま寝ている、というのも背筋を伸ばした状態でいびきをかいているのだ。どうしてこうも変人ぞろいなんだよ。ここは人間テーマパークか!今の俺のツッコミ上手くね?そんなことを考えている刹那だった、
「パン!」と大きく音を立てた割り箸銃から輪ゴムが放たれ、放たれた輪ゴムはあの大晦日に毎回見ているビンタの勢いで彼女の頬に直撃した。僕は思わず拍手した。しかし、これはそういう楽しいお話じゃなかったのだ。割り箸銃という名のビンタをくらった彼女はその痛さゆえに号泣し始めたのだ。おいおいおいおい・・・。あまりにも痛そうだったので、
「大丈夫ですか?保健室行きますか?」と優しく声をかけた。自分でもキモいと思いながら、っておい本多、お前が笑いこらえてんのめっちゃ腹たつんだけど。そんなに俺のキャラがおかしいですか?はいはい。
そうこうしているうちに先生が入ってきて、号泣している彼女を見て言った。
「入学早々何やってんだ。」先生が呆れ顔で言った。まぁおっしゃるとうりですよね・・・
10分後、俺は生徒指導室にいた。