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第5話 私と拓海さんとの話し合い

「お帰り、美桂ちゃん。楽しかった?」

 家に帰ると拓海さんがキッチンで夕飯を作りながら訊いてきた。

「はい。とても」

 私も機嫌良く答えていた。久しぶりに、自分に記憶が無いことを忘れられていた。

「それは良かった」

 私の様子を確認してから、また夕飯を作り始めた。

 

 拓海さんは、常に私の事を気にしてくれている。

『あいかわらず、過保護だねぇ。あんたの旦那は……』って、友達も言っていた。

 あいかわらずって事は、以前から拓海さんはこんな感じだったのだろうか?

 それとも、やっぱり私が記憶を無くしているから……。


「ん? どうしたの? 早く着替えておいで」

 拓海さんをじっと見ていたら、そんな風に促されてしまった。

「そう……ね」

 私は、あいまいに笑う。

 友達は良い。たまに会う間柄だし、お互い気を使わなくて済んだ。


 だけど、拓海さんは……。

「疲れちゃうよね。毎日だもの」

 私は、着替えながらそうつぶやいた。




 夕飯が済んでおふろも入って、拓海さんはまたソファーを平らにしていた。

「あの、拓海さん? またそこで寝るんですか?」

「うん。また、今朝のようなことにならないとも限らないから……」

 拓海さんは、にこやかにそう言って、枕と掛布団を置いていく。

「寝起きは、意識がちゃんとしてなくて、何やらかすかわからないからね。僕は」

「あの」

「ん?」

「少し話しませんか?」

 拓海さんは、少し真剣な顔になって私を見る。


「何の話?」

「これからの事です」

 アルバムを見ても、誰の話を聞いても、私の記憶は戻る気配がない。

 それどころか、戻らないままでも不安を感じなくなっている。


 多分、私はこのままでも生活できる。

 拓海さんを同居人として職場復帰を果たして、それを日常として生きていける。

 だけど、拓海さんはこのまま記憶の無い私に気を使って生きていかなければならない。

 今だって、今朝の事を気にして自分はソファーベッドに寝ようとしてくれている。


「僕と居て何か問題でもあった? あ……いや、今朝の事は、本当にごめん。もう二度と」

「そういう話じゃない……です」


 拓海さんから、ホッとした気配がした。

「じゃあ、お茶入れるよ。テーブルのところに座っててくれる?」

「あ……私が……」

「いいから、座ってて……」

 そう言って、さっさとキッチンに行ってしまう。

 私はその後姿を見て、ため息を吐いてしまった。


「……で、これからの事って?」

「入院中を含めて、一か月近く私の記憶は戻ってません」

「ああ、もうそんなになるんだねぇ。ずっと記憶が戻らないかもしれないって話?」

 拓海さんの問いかけに私はうなずいた。


「う~ん、そうだねぇ。仕事の事とか、そろそろ考えないといけないね。今回は職場での事故だから、労災扱いだし。短時間勤務も認めてもらえると思うよ」

「いえ、そうじゃなくて」

「辞めたいって話なら、辞めてもうちは困らないけど。僕の収入でも、一応やってはいけるから……でもね」

「だから、そうじゃなくて拓海さんの事です」

 私たちの事を話そうとすると、必ず拓海さんは仕事の話をしようとする。

 なんだか、逃げるように……。


「僕?」

 拓海さんは、きょとんとしている。

「私は、このままこの状態を日常としてやっていけると思うんです。だけど拓海さんは、私にずっと気を遣うでしょ? 帰って来た時も、私の様子を確認していたし、今だって……」

「ああ、なんだ。何かと思ったら、そういう話。別に、気を遣っている訳じゃないよ。それが、僕らの日常だったから。美桂ちゃんだって、僕がいつもと違ったらすぐに気が付いてたよ」

 そして、拓海さんはチラッとソファーベッドの方を見る。


「あれはねぇ。美桂ちゃんが気にすることじゃないよ。寝ぼけて襲っちゃったら、シャレにならないし」

 襲っちゃうって……そんな、にこやかに言われても。

「それは、私が記憶が戻ってたら……」

「僕は、気にしないって言わなかったっけ。それとも、友達から何か言われた?」

 あ……拓海さんの顔から、笑みが消えた。


「いえ。友達は記憶の有る無しは関係ないって……。多分、拓海さんもそうだろうって」

「だよねぇ~、あの二人ならそう言うと思って会わせたんだもの」

「でも、拓海さんは以前の私と比べてるでしょ? 気にしないって言いながら、以前の私と変わらないって……」

 拓海さんはビックリしているようだった。

 そして下を向いてため息を吐く。


「馬鹿だな、僕は」

 そう言って、顔を上げ私の方をまっすぐ見た。

「ごめん。比べるつもりで言ったわけじゃ無いんだ。記憶なんか無くても、美桂ちゃんは変わってないよって言いたくて……。ごめんね、傷つけて」

「以前の私と変わらない?」

「うん。記憶が無くったって、他人行儀なところ以外は、あまり変わってないと思うよ。今だって、僕の事を考えて話し合おうとしてくれているんだよね」

 拓海さんの私を見る目が優しくなっていた。

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