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第3話 拓海さんと私

 私は、家の中の事を少しずつ拓海くんから教わっていた。

 何がどこにある……とか、それだけだけど。


「家事は、美桂ちゃんが思った通りにこなせば良いんだよ。僕だってそうしているし、元々僕と美桂ちゃんのやり方、違っていたんだから」

 拓海さんは、そう言うけど……。

 彼は、何でもできる。手際も、多分私よりはるかに良い。

 教え方も上手だと思う。

 私の夫は、かなりハイスペックだ。



 お……思い出さなきゃ。

 私、ダメダメすぎる。

 記憶を無くす前の私って、かなり色々出来てたんじゃないの?

 今は思い出したら元に戻るって思ってくれているから、見捨てないでくれているけど……。

 私は、ギクッとした。



 見捨てられる? 拓海さん……から?


 今日は僕の番だからと、家事にいそしんでる拓海さんを思わずじっと見てしまっていた。

 すぐに私の視線に気付く。いつも笑っている彼が、少し心配そうな顔でやってきた。

「大丈夫? 美桂ちゃん。顔色が悪いよ。疲れてるのなら、寝てた方が良いよ。寝間着洗っちゃったから、新しい寝間着は……と」

 拓海さんはベッドの奥のクローゼットから、私の寝間着を取り出そうとしていた。


「拓海さん。あの……」

 訊くのが怖い。

「ん? ああ、あったこれ新しい寝間着」

「もし……。もし、私がこのまま記憶が戻らなかったら、どうしますか?」

 目の前の拓海さんが、きょとんとしている。

 そして、寝間着をベッドに置きながら言った。

「別に、どうもしないよ?」

 どうもしないって。


「ああ、仕事の心配? 好きな仕事だから、またすぐに慣れるよ。女性の多い職場みたいだけど、上司の方もサバケル女性の様だし」

「そうなんだ……じゃ、無くて。拓海さんは……」

「過去は、過去だからねぇ。僕は、目の前に美桂ちゃんがいるから、それだけで良いけど……。美桂ちゃんは不安だよね、周りみんなが他人に見えて」

 どうしたもんかねぇって悩んでくれている。


「拓海さんは、自分の事忘れ去られて……。自分の事、好きだったことも忘れてしまっている状態が続いても平気なんですか?」

「美桂ちゃんは、僕の事好きじゃないんだ」

 ふむって感じで、こっちを見てるけど


「じゃあ、何であの時僕を選んだの? 僕、美桂ちゃんに実家の方を勧めたよね」

「それは、こちらの方が日常に早く戻れると思って」

「うん、そうだよね。僕と居るのも、日常の中の事と思ってくれたんだよね」

 拓海さんは、にっこり笑ってそういう。

「それで、充分だよ」

「でも……」

「不安なら、今日から同じベッドで寝る? 日常的にそうしてきたんだけど」

 え? それって……。

 目の前の拓海さんはにっこり笑ってるけど、それ以上は聞く勇気がなかった。


 




 夜中に目が覚めた。……静かだ。隣から寝息は聞こえるけど、いびきはかいてない。

 寝相も良い。むしろ私の方が拓海さんの足を蹴ってしまって目が覚めた。

 うん。確かに同じベッドに寝てるよ。いいんだけどさ。


 私の覚悟、返してって感じ?


 慣れた感じで私の横に入ってきて、そのまま寝ちゃうんだもんな。

 ちょっとムカついて、寝ている拓海さんのほっぺを突いた。

「う~ん」

 そうしたら少し顔をしかめて、手で私を探り……そのまま抱き込まれてしまった。

 あせる私とは、反対に拓海さんは穏やかな表情に戻っている。


 と……とにかく、この腕から抜け出さなきゃ、そう思ってジタバタしてるとさらに抱き込まれた。

「美桂ちゃん。大人しくしてて、寝らんない」

「はい」

 私は、ピタッと抵抗を止めてしまった。拓海さんの穏やかな寝息が聞こえる。

 暖かい。なんだろう、すごく安心して眠くなっている。


 そのまま、私は拓海さんの腕の中で眠ってしまっていた。

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