鏡よ、鏡よ、鏡さん!
ある日の晩、私は、お酒をチビチビと飲んでいた。
「初夜での失敗」が頭を掠めなくもないが、待っていてもあの扉が開くことはないのは、もう解っているので、最近は、たまにこうして気儘に自分の好きなお酒を、嗜む程度に飲んでいる。
大丈夫。
本当に嗜む程度だ。
NOTアル中!
お酒に頼らず、ちゃんと生きてるもん!
クリスの笑顔を糧に生きているもん!
でも、この日はちょっと飲み過ぎていたらしい。
いや、人寂しかったのかもしれない。
本当に何を血迷ったのか、あろうことか、話しかけてしまった、部屋に備え付けてあった鏡に映った自分に...。
「鏡よ、鏡よ、鏡さん!...なんつって!アハッ!」
「はーい、お呼びですか?」
「...。」
「...。」
今日、私は飲み過ぎてしまっていたらしい。
「えっと、無言はヤメテ~!」
「私、お酒飲み過ぎたかしら?いや、前回ほど飲んでいないし、まだグラス2杯目だし、とうとう精神的に逝っちゃった?いやいや、まだ正気保っているわよね...でも気づいていないだけで、本当は...。ハッ、鏡の裏に誰かいるの!?」
「ブッブー!どれも不正解でーす!」
「...。」
なんて陽気な奴なんだ...。
「えっと、カメリアと申します。あなたの名前を教えていただけるかしら?」
「僕の名前はスリン!気軽に呼んでね!」
ハッ!あれか!この世界にもひょっとしてアレがあるのか?
「ねえ、スリン。あなたの同業者にSi〇iとかアレ〇サとか、そういう名前の方いらっしゃらないかしら?」
「...。いないね。多分カメリアは何かと勘違いしているんじゃないかな。聞いて驚かないでくれよ!僕はね、なんと魔法の鏡さ!」
目と鼻と口しか見えないスリンが、胸を張っているのが鏡の向こうで見えた気がした。
なんと、ここは本当に剣と魔法の世界だったらしい。
「...なるほど。」
「アレッ、あんまり驚いていないね。」
「いやいやいや、結構、驚いているわよ。
人生のトップ3に入るくらい驚いているわ。」
「ほんとうに?」
「本当に!」
結構面めんどくさい奴だな、鏡。
「で、魔法の鏡さんは、なぜ返事をしてくれたのかしら?」
「えっと、カメリアが僕を呼んだから!」
なんとっ!「鏡よ、鏡よ、鏡さん」は、ヘイ、Si〇i!的なキーワードだったのか!
「あっ、でも面倒だったら、オイでもホイでもポイでも、なんでも良いよ!」
いや、ダメだろ。
もう最後のポイなんか呼びかけでもなんでもないし。
「まあ、それは考えておくわ...。
ねえ、スリン。魔法の鏡ってことは、何かできるのかしら?」
「ぼくに何か尋ねてくれたら、何でも答えるよ!
例えば、一週間後の天気とか、この屋敷の秘密の通路とか、料理長サムのコック帽の中は結構寒々しいとか...。」
なんだろ、あんまり彼に秘密は作らないほうが、良い気がしてきた。
特に、最後のポロッツといった事とか、気になる。
「そ、それって、無料なのかしら?」
「なんと今ならキャンペーン期間に付き、初回3回まで無料!4回目からは、記憶を少~し貰う感じ!でも、安心して!記憶って言っても、本当にちょこっとだけだからさ!あっ!でも、知りたい内容によってもらう量変わってくるか...。」
なんだそのキャンペーンって。キャンペーンじゃない時があるのか?
しかも、ちゃんと従量課金なのね。
金じゃないか、記憶か。
「...そうなの。とりあえず、今は知りたい事ないからいいわ。たまに私の話し相手になってくれれば。」
魔法の鏡相手に、話し相手ってなんだ。
きっと、お酒飲んで、心が弱くなっているに違いない。
最近はマリーすら、あんまり部屋に来なくなったし。
気が付いたら、ソファーに凭れたまま、朝を迎えていた。
変な夢を見た気がする。
多分、夢だ。
夢に違いない。
違いない。が、一応やってみよう。
「ね、ねえ、スリン?」
するとどうだろうか、映った私の顔とは別に、うっすら目と鼻と口のようなものが徐々に浮かびあがってきたではないか。
「はーい、カメリアなんだい?」
「...。」
やはり、夢じゃなかったらしい。
夜にもう一話アップする...かも。
出来なかったら、ごめんなさい。