図書室に行ってみれば
早速翌日、私は図書室に行ってみることにした。
ジェファー家の図書室は、実家のそれとは比べ物にならない位とても広く、天井にはフレスコ画の天使の絵が描かれており、その周りには金の装飾がなされていて、とても素晴らしい部屋だった。そして、蔵書も、ありとあらゆるジャンルの本が取り揃えてあった。
図書室というよりは、もう図書館ね。さすが侯爵家...。
ここだったら、色々領内の事とか書いた資料あるかしら。
今度、クリスに聞いてみるのも良いわね。
はっ!あれは、実家にもあった本じゃない!懐かしいわ~
久しぶりに読んでみようかしら!
手を伸ばして、うーんと背伸びをしたが、あと少しという所で届かない。
軽く飛び跳ねて頑張っていると
「やあ、こんにちは!お姫様。
何か私に手伝えることはありませんか?」
え?
誰もいないと思っていた為、ビックリしてバランスを崩し、尻もちをついてしまった。
イタタタタ
「私は、お姫様じゃないわっ!」
薄暗い図書室で誰だかわかならないという事もあり、
手を差し伸べてくれたが、私はその手は気にせず、自分で立ち上がった。
「これは失礼、ジェファー侯爵夫人!」
侯爵夫人と言われ、思わず苦笑いしてしまう。
だってねー。まだ、侯爵夫人らしいこと何一つしてないもの...。
「ごめんなさい。どなたかしら?はじめましてかしら?」
「重ね重ね失礼!
私はロビンソン・ジェファーと申します。
エドワード叔父さんの兄の子。甥っ子ですよ。義姉上!いや伯母上か。
結婚式でもお会いしたんですけど。覚えておいでではないようだ。これは、残念!」
「あら、それはごめんなさい。こちらこそ失礼しましたわ」
いや、無理でしょ、緊張してたし、人数多かったし...
と自分に言い訳しつつ、覚えていないのは、やはり失礼だと思い頭を下げる。
あとで、ロンバートに出席者リスト、借りられるかしら...
それにしても、叔母様ね。
そうよね、甥っ子になるのだもの、おばさんだよね。
子供に、おばさんといい、色々破壊力あるなぁ~
なんだか一気に年取った気がするわ~
「いえいえ、お気になさらず!まあ、あの人数でしたしね。覚えていないのも、無理ないでしょう。
私のことは、是非ロビンとお呼びください!」
「ありがとう。そうさせてもらうわ。私のこともカメリアと呼んでちょうだい。
これから、よろしくね。」
曇りで薄暗かった図書室だが、ちょうど晴れ間が広がって、彼の顔がようやく見れた。
なんとまあ、少年の顔を残してはいるが、エドワードに負けず劣らず黒髪の美大夫だった。多分、私よりいくつか年下であろう。
「クリスといい、ロビンといい、そして旦那様といい、この家はみんな美形ぞろいではないか...」
と考えていると
「挨拶も済んだことですし、これから私とお茶でもどうです?」
とへらっと笑い、軽~い感じでお茶に誘われた。
これは、さぞかし女の子にモテるんだろうな...と思いつつ
「ごめんなさいね。ちょっと調べたいことがあって...。ロビンは、この図書室詳しいのかしら?」
「そうですね。
小さいころから、慣れ親しんでいますからね。私が離れてから何年も経ちますが、本もそんなに追加購入されてないみたいだし...置き場所も、そう変わってないでしょう。」
「そうなの。もし良かったら、場所を教えてもらえると助かるのだけれど。
まずは、この家の事とか、この領内の事とか書いてある本は、どの辺りか教えてもらえるかしら?」
「おや、侯爵夫人は、ずいぶんと勉強熱心だ!」
ちょっと揶揄われた調子で、言われてしまった。
「いえ、そうではなくて、みんな忙しいらしく、教えてもらえそうにないから、ちょっとは自分で調べてみようと思って...。」
自分で言っていることが、恥ずかしくなってきて、だんだん声が小さくなってきてしまう...。
それを聞いたロビンは、目をわずかに見開いたが、すぐに思案顔になり
「そうなんだ。う~ん、家のことは、右奥の一番下の棚、領内に関しては、その一つ隣だったたかな。まあ、あの辺にうちの基礎知識っぽい本がまとまっているから、興味があるのから、読んでいけば良いかと思いますよ。とはいえ、まずはこの本から読むとわかりやすいいかな。」
と教えてくれた棚の近くから一冊の本を抜き出し、私に手渡してくれた。
「しばらく、この家に滞在するつもりですから、またお知りになりたいことがありましたら、聞いてください。」
と手をフリフリ、彼は図書館を出ていった。
ロビンが手渡してくれた本は、シリーズになっている一巻目で、この領の成り立ちを分かりやすくまとめた本だった。内容から察するに、きっとこの家の子弟が、習う際に使われるような本であろう。
若干失礼で軽い感じの青年ではあったけど、良い本を紹介してもらえて良かった。
でも、私、彼が滞在しているなんて、知らなかったわ...。
女主人として、これで良いのだろうか。
まるで、私のほうが客人扱いよね。
執事のロンバートも侍女長のモリスも、何も私に知らせてはくれない。
これは、抗議すべきことなのだろうと思いつつ、やはり気持ちは落ちていく。
その夕方、廊下であったロンバートに、ロビンのことを確認したところ
「ああ...お伝えしておりませんでしたか。
これは、失礼いたしました、奥様。
なにぶん、しばらくの間女主人なるものがいなかったせいか、今までの流れで行ってしまいました。」
と少し眉間に皺を寄せて答えた。
「そうなのね。ほ、ほらロンバートも徐々に覚えていけば良いって言ったじゃない?
せっかくの機会だし、教えていただけると助かるわ!」
「そうですね。今後からそういたしましょう。
ただロビン様に関しましては、いつも先触れもなしに突然いらっしゃいますし、屋敷内も勝手知ったるという感じなので、奥様がお気になさらなくても結構ですよ。」
「はあ...。」
良いのか、こんなんで...?
ちなみに、旦那様であるエドワードと私だが、今のところ特に何もない。
恥ずかしい初夜の件も、今だに何も聞けずにいる。
夜の訪れはおろか、朝晩と食事時に稀に会う事はあるが、全く親睦を深めるような話すら出来ていない。食事は話さずに食べるのがルールらしく無言だし、食後も、仕事を理由に執務室に戻られてしまうので、食事前後の声掛けは優しいのだが、話という話は特にない。結婚当初こそ、毎日お詫びのメッセージと花が送られてきていたが、それも今では、徐々に頻度が減ってきている。
あれっ、私「是非に」と言われて、この家に嫁いできたんじゃなかったっけ?
シーツはいつも綺麗だから、きっと屋敷中みんな気が付いているのだろう
と思うと気持ちがさらに落ちていく...。
その日の夕食は、珍しく全員揃っての食事だった。
そして、客人であるロビンも一緒だった。
客人がいれば、無下にされることもないかもと下心もあり、思い切ってエドワードに切り出してみる。
「エドワード、今度時間があるときで構わないから、遠乗りに一緒に連れて行ってもらえないかしら?私まだ領内を回ったことないですし...。」
「ごめんね、カメリア。しばらく仕事が詰まっていて、ちょっと難しいんだ。あーそうだ、ロビン!悪いが、君が彼女を案内してはくれないか?どうせ、暇だろう!」
「私ですか?ちょうど明日はメリンダと、明後日はナターシャと...。」
「...。」
「ウソですよ!構いませんよ!私で良ければ、ご案内いたしましょう!逆に叔父上、宜しいのですか?こんな貴重なお役目、私が頂いても?」
「あー構わないよ、私はしばらく手が離せないからな。残念だが、ロビンに譲ろう!」
「では、明日早速どうですか、義姉上?」
「あら、うらやましいわ、お義母様!私も一緒に遠乗りに行きたい!」
「かわいい我が娘よ。明日はニコロフ老師が来る日であろう。それに、一人で馬に乗れるようになったら、ちゃんとこの父が連れて行ってあげるから、明日は勉強を頑張りなさい。」
「...残念ですけど、そうします。」
「そうだ、クリス!明日は、何かお土産を買ってきてあげましょうね。」
ちょっと口を膨らませていたクリスの顔から笑顔に変わる。
これまたかわいい!まるで天使‼
という事で、明日は旦那様ではなく、甥のロビンによる領内ツアーが決定いたしました!
パチパチパチ......
はぁ~。私いつになったら、まともに旦那様とお話が出来るのだろう...。