やってきました北の大地
あの後、家格が釣り合わない格下のしかも行き遅れの私に話がきたのか、父に聞いた所、あちらさんの懐具合があまり良くなく、多額の持参金目当てであることが発覚。かといって家格が上の侯爵家に断ることも出来なかったというのが、本当のところらしい。それを知った母は父に対し不機嫌になり、一か月母は父にとは口をきかなかった。
ありがとう、お母さん。
うん、父の経営力と商才のおかげでお金はあるもんね。
最後まで、母は反対し、弟も心配してくれたが、婚約期間半年を経て、雲一つない晴れた日に、私は笑顔でトルタイム領へと出発したのだった。
ところで、私には、1つ秘密がある。それは、前世持ちだという事だ。といっても詳しいことは何も覚えておらず、本当に断片的に。なので、あまり役にたってはいない。私たちが住む王国で前世持ちは一般的ではないが、稀にいる。それこそ、専門分野に特化した人は、「大賢者」と言われ、国民の羨望の的であった。前世持ちは国に大きな益をもたらす為、程度に関わらず、国に報告する義務がある。
私が、前世持ちだとわかった際、父と喜び勇んで王都まで行ったが、あまりにもしょぼくてとりあえず報告して終わってしまった。
その時、両親も使用人達も、私の気持ちを持ち上げに持ち上げた上のこのしょぼさに、私は落胆し、それ以来、我が家ではー私の気を使ってかー話題に上がらなかった。
我がラムル領を出発し、北上すること10日、道中特にアクシデントも起こらず、無事にトルタイム領に入領した。トルタイム領は鉱山で有名なだけあって、青空にそびえたつ山脈とそれに続く豊かな森がきれいな所であった。
うん、大丈夫。きっとうまくやっていける。不安がないわけではないけれど、こんなきれいな所だもの。と自分を鼓舞しトルタイム領に入ってから2時間後、ジェファー家にようやく到着した。
馬車の扉が開くと、真っ先に目に入ったお屋敷は、歴史があるだけあって、重厚な―この地特産なのだろうか―黒っぽい石造りのお城のような立派なお屋敷だった。そこから徐々に視線を下げると、壮年の無表情な男性がこちらに向かってきていた。
「はじめまして、カメリア様。私、ジェファー家にて執事の任を賜っておりますロンバートと申します。どうぞよろしくお願いいたします。旦那様が中でお待ちになっております。さあ、中へどうぞ。」
さっきまで青空であったにも関わらず、今にも雨がふりそうな気配があった為か、私は口を開ける間もなく、お屋敷の中へと案内された。
お屋敷の中に入ると、使用人が二手に分かれて並んでおり、その真ん中には、青年と壮年の間位の黒髪の美大夫とビスクドールのようにかわいい黒髪の女の子が、出迎えてしていた。
ん?
小さな女の子?