閑話 お義母様と私
今日は、クリス視点です。
新しいお義母様がいらっしゃると聞いた時、私はちょっと戸惑った。
もちろん、反対はしないけれど、
ほらっ、お話に出てくる継母って、みんな意地悪じゃない?
いらっしゃる方がそうとは限らないけれど、やっぱり不安。
でも、それは杞憂だったわ。
初めて会ったお義母様は、思わず見とれてしまう位、とても美しく素敵な人だった。
きつめの目を気にされているようだったけれど、全然そんなことない。
いつも微笑んでくれる優しい方だった。
お茶では、色々なお菓子を用意して待っていてくれるし、
色々な話をユーモア交えて話してくれて、いつも引き込まれていた。
それだけじゃないわ!一緒になってピクニックしたり、釣りをしたり。
そうそう、木登りをしようとして、一緒にモリスに怒られたり!
お父様も忙しいし、従兄のロビンはたまにしか来ない。
使用人のみんなは、いつも居てくれるけれど、やはり、一歩引いて接しているし。
そんな中でのお母様との交流は、いつも楽しく、新しい発見にあふれていた。
私の本当のお母様は、私が物心つく前に亡くなってしまったけれど、
もし生きていらっしゃったら、こんな感じなのかしら?
お義母様がこのジェファー家に嫁いできて、しばらくしてから、
お忙しいはずのお父様が、頻繁に私の部屋を訪ねて来てくれるようになった。
きっと、新しいお母様ができたから、気にかけてくれると思ったの。
でも、なんだか私を見る目が、時より粘っこく感じたり、スキンシップが増えてきた気がする。
ある日、お父様のお膝の上で絵本を読むことを、お父様はご希望されたのだけれど、
「私ももうそんな年じゃないわ!」と断ったら、最初は優しく話していたのに、だんだん怒り始めたの。とても怖かったわ。
震えてしまったら、「ごめんね。でも、お父さんはクリスのこと大好きなんだ。」と悲しい顔をされていた。その日は、一緒にお父様の膝の上で読んだ。頭をなでたり、膝をなでたりされていた。
それからというもの、日に日に、スキンシップが増えてきたので、そっと断ったら、次の瞬間、手が出てきた。そのうち、手ならマシな方で、鞭が出てきたり、棒で叩かれたり、さすがに鎖が出てきた時は、息が吸えなくなるほど、パニックになってしまった。
なぜ、お父様がそんなにお怒りになるのか分からず、暗い顔をしていたら、お義理母様が気づいてくれた。でも、侍女たちは私の着替えを手伝っているのだから、気がついているはずなのに、何も言って来ないし、自分の気持ちもわからず、何て説明していいのかもわからず、「大丈夫」と言ってしまったけれど、お義母様は、それでも気にかけてくれた。
あの日、お義母様が、お屋敷から出ることを提案してくれた時、ちょっと、いえ、だいぶ驚いたけれど、私は、お義母様の提案を受け入れることにした。このままでは、私もお父様も良くない気がしたし、このままエスカレートしたら、自分が壊れてしまうと思った。だから、あの時、お母様に「つらかったわね。」と言って抱きしめてもらえて、とても心が救われたの。だって、怖くて誰にも相談できなかったから。
お義母様が連れてきてくれたイーサムの家は、とても温かだった。
家全体が私の部屋位しかなくて、驚いたけれど、幸せは、家の大きさでは測れないと思ったわ。
イーサムの奥さんのサリムのご飯は、とてもおいしい。
毎食ごはんが争奪戦で、最初はビックリして、全然手が出せなかった。
一番下のロクサムは、お義母様のお話をすると喜んで、「もっともっと!」とせがんできてカワイイ。5人の子供のうち、真ん中のハサムは、私と同じ年で、二人でよくおしゃべりをしている。よく一番上のイムサムに「うるさいっ!」て、怒られるけれど。
そうそう、最近、水辺に行くと王子様を見かけるの。
本当のところは、王子様かどうかなんてわからないけれど、ブロンドの髪で、馬に乗っている姿がとても素敵な方。まるでお話に出てくる王子様みたい。
この前、話しかけられてビックリして、思わず逃げてしまったわ。
たいていは、一人でいらっしゃるけれど、たまにもう一人従者っぽい人がいる。
後ろ姿しか見たことがないけれど、ちょっとロビンに似ていた気がする。
でも、若い男性って、あまり見たことがないから、そう思っただけかも。
こういう状況だから、わかっているけれど、わかっているけれど、早くお義母様に会いたい。
せめて、手紙だけでもと思うけれど、お母様のご尽力を無駄にしてはいけないから、我慢しよう。
と思っていたら、お義母様がすごい勢いでやってきた。
そして、謎の大量の瓶と謎の言葉を置いて去っていった。
あまりの勢いと瓶の量の多さに、イーサムがドン引きしていたわよ、お義母様。
私、もう少しお義母様とお話したかったのに。
ところで、お義母様
「リンゴは、絶対に食べちゃダメ!」
ってどういうこと?
私、リンゴ、とっても好きなのに...。