準備をすれば
とりあえず、
いつ、どこに、どうやって彼女を逃がすのか考えなければ。
このお屋敷に味方がほぼいない私の今の立ち位置を考えると、なるべく人に頼らない方法を考えなければ。でも、逃がす場所はどうしても人を頼らざる負えないわね...。私の信頼できる人...
す、少ない!
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「ねぇ、スリン」
「は~い、なんだいカメリア!決まったかい?」
「ええ、決まったわ!」
「おお!いいね、いいね。では、どうぞー!」
「このお屋敷から、誰にも気づかれずに逃げ切る方法を教えて頂戴!」
「う~ん、それは、また曖昧だね。
カメリアが聞きたいのは、物理的なルートを聞いているのかな?」
「ええ、そうよ。」
チッ、せっかく曖昧にして多くの情報を得ようと思ったのに...範囲指定してきやがった。
「フッ。不服そうだね。まあ、いいや。
そうだね。この部屋の本棚あるでしょ!
その本棚にある中断左から2番目と右から八番目の本を同時に押してみるとぉ~
ハイッ、なんと秘密の通路が出てきます!
その通路を抜けると、森のある場所へと通じているのです!」
「...。」
なんと、自分の部屋に脱出ルートがあったとは。
さすが侯爵家!
「ちなみに、このお屋敷にいくつか脱出ルートがありますが、知りたいですか?」
「よろしくお願いします!」
と私は、勢い良く90度に腰を曲げる。
手数はあった方が良い。
「このルートって旦那様達は知っているのかしら?」
「いくつかは知っていると思うよ。通常は各世代の当主とキーパーソン、この場合はその長子とか執事とかね。知っているはずなんだけど、前回全部伝える前に代替わりしちゃってるからね。彼が知っているのは、かつて彼が使っていた部屋と地下ルートの二つかな。」
「ってことは、地下ルートは使ったら、バレそうね。」
「カメリア、君。何をしようとしてるの?」
「う~ん、ちょっとね。まとまったら教えるわ。これで、キャンペーンの3回のうち1回利用したってことで良いかしら?」
「う~ん、まあ、いっか。」
その後、他のルートやら、扉の閉め方等、それはもう詳しくスリンに確認をし、その日を終えたのだった。
翌朝、早速自室の脱出ルートの確認も含め、森へ出かけようとした
が、断念した。
だって、昼間にも関わらず、当然だが脱出ルートに窓一つないから、真っ暗なんだもん。スリン曰く、特に罠とかないって言ってたけど、段差あるかもしれないし、長く使っていなかった通路なんだから、何かあるかもしれないし。蜘蛛の巣とか、蜘蛛の巣とか、蜘蛛の巣とか...。
ランタン準備しなくちゃね!
ランタン!
良い手があるじゃない!
一か月後の収穫祭を利用すれば、なんとかなるかも!
私が個人的に用意しても、たぶんあまり怪しまれないわ!
一刻も早くクリスをあの環境から逃がさなければならないが、焦って逃がして、バレて連れ戻されるよりは、良いはず。と半ば自分を納得させ、私は町へと向かった。
町は一か月後の収穫祭に向けて、盛り上がっていた。この北に位置するトルタイム領の夏と秋は、とても短い。秋が終わりを告げるとすぐに暗くて長い冬が来るため、秋の収穫をお祝いする収穫祭は、みんな浮かれている。
とりあえず、ランタンを購入し、他に買うものを物色していると、見知った顔が笑顔でこっちに向かってきた。
「やあ、お姫様!こんにちは!」
「珍しいわね、街中で会うなんて。また、先触れなしで、こっちに来たの?」
「まあね。」とヘラっと笑う。
「カメリアこそ、街中で何してるんだい?領主夫人はここで買わなくても、頼めば手に入るだろう?」
「収穫祭の町の様子を見に来たのよ。お祭りの前って、町全体がワクワクしてて、見てても楽しいでしょ?前からちょこちょこ来てたし、ほら紅茶買ったりとか!」
「ああ、そうだったね。でも男物の服とか気になるの?」
しまった!今手に取っているの、脱出時の変装用として考えてた男物だった...
めざとい、めざといぞ!ロビン!
よく気がつくあなたは、好ましいが、今日はヤメテ!!
「あ、ここれ、女性物と男性物と何が違うのか気になって」
「ふ~ん」
「そういえば、この前話していたブランディング化の話ってどうだった?」
「あ~あれ、一応話したんだけど、反応はいまいちだったかな。良い案だと思ったんだけどなぁ...。」
よっ、よし!話逸れた!
良い子だ、ロビン!!
「まあ、今動かなくても、ロビンの方で案を練ってみたら、必要な時にすぐに提案できるように準備しといたら、良いじゃない!」
「それも、そうだね。ありがとう。
ねぇ、カメリア。もし良かったら、あそこの屋台のドーナツでも一緒にどう?」
「よろこんで!」
その後、二人で街中をなんとなく散策して、お屋敷に戻った。
うん、早めにランタン買っといて、良かった。
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後日、ランタンを手に自室の脱出ルートを使って、いざ冒険の旅(森)へ!
蜘蛛の巣とバトルを繰り返しながら、出かけたのであった。
出た先の森は、一瞬「どこよココ?」思ったが、良く見回すと、お屋敷から遠すぎず、近すぎない絶妙な場所だった。出口も一見してそれとわからないように坑道の一つのようにカモフラージュされていた。さすが侯爵家特性脱出ルート!
そして、私はクリスをお願いできないかイーサム家へと向かった。
あれから考えたのだが、お嬢様であるクリスが森の中で、たとえ小屋があったとしても、一人で暮らせるとは思えなかったし、かと言って、ずっとイーサムの所に預かってもらうわけには、いかない。最終移住地は別に考えるとして、とりあえずの一時避難場所としては、適当だと思えた。
最終移住地かぁ...。どうするかな。
私の実家も考えたが、路銀もかかるし、物理的に遠すぎて彼女一人では行かせられない。逃がす為とはいえ、侯爵家のご令嬢を誘拐してくるのだ。見つかったら、男爵家など一溜りもない。実家に迷惑はかけられないし、クリスだって、連れ戻されてしまう。失うものが大きすぎるわ。
「誘拐」と言葉が出てきて、思わず身震いしそうになったが、気がつかないことにしよう。
今はまず、クリスを逃がすことを考えるべきだ。
イーサムにお願いしたところ、「息子の命を救ってくれた恩人だから、当たり前だ!」と言って、快く了承してもらえた。ありがたい。
まあ、実際にロクサムを助けたのはロビンなのだが、この際気にしないでおこう。
深々と頭を下げた所、「領主夫人に頭を下げてもらうなんて」と慌てられてしまった。こちらが無理を言って頼むのだ、私の頭一つでも二つでも全然惜しくない!