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β版白雪姫物語  作者: 鹿島きいろ
10/35

森での出会いに癒されて


「木登りしようとして、怒られたんだって、お姫様?」


「お姫様じゃないわ。」



ある日の午後、図書室で本を読んでいたら、ロビンに話しかけられた。

また、先触れもせず、突然来たらしい。


「意外ですね。あなたが木登りをするなんて。」


「そうかしら?弟がいたからね。一緒に遊んでいたのよ、昔。

それより、この前の本のリストありがとう。とても役に立ったわ。

あれがなかったら、この膨大な本の山の中で途方に暮れてたところだったわ。」


「お役に立てて光栄です!」

と恭しくお辞儀をする。顔とスタイルが良いと、何でも決まるらしい。

珍しく私に付いてきたマリーの顔が、ポッと赤らんでいた。


「で、今日は何を?」


「この領の地場産業についての本よ。この前下の町で買った紅茶がおいしくて、調べてみたかったの。」


「なるほど...。」

と言って、ちょっと考えていたロビンは、ポンッと手をたたくと


「明日、もし宜しかったら、また遠乗りに付き合っていただけませんか?先ほど叔父上をお誘いしたら、前回と同様、『忙しい』の一言で断られてしまいまして。あっ、ご心配には、及びませんよ!叔父上には、ちゃんと義姉上と外出する許可をもらってますので!」

    

なんとも、手回しの良いことで...。


「あら、メリンダちゃんやナターシャちゃん達と、遊びに行かなくても良いの?」


「手厳しいなぁ、義姉上は~」

とヘラっとロビンは笑った。



□□■□□■□□■□□■


薄曇りではあったが、いくらか晴れていた次の日、私とロビンは馬に乗って出かけた。


ロビン曰く、この地方では、この季節天気がすぐれないことが多いらしい。

どおりで、嫁入りしてから、ずっと天気が良くなかったわけだ。


今回ロビンは、紅茶の茶畑やその加工工場など、領内産業のポイントとなる箇所を案内してくれた。

昨日チョロッと言った事を、サラッとツアー行程内に入れてくるところが、ニクイ!


きっと、できる男というのは彼のことを言うのだろう。と考えていると


「ここの鉱山ね、俺が小さいころに比べるとだいぶ採掘量、減ったんですよね。とはいえ、まだまだ採り尽くしてはいないと思うんだけどな...他の産業考えないといけないのかな。」


ロビンは、話しかけているのか、独り言なのか、呟いていた。きっと後半は独り言であろう。

離れて暮らしていても、この領が好きなのね。


「量が採れないなら、価値を上げるしかないわね。貴重な宝石や魔石が採掘できれば良いけど、なければ、今あるものでブランディング化していくとか...。」


「ブランディング化って?」


「う~ん。例えば、ここの宝石は王妃様が愛用しているとか、この魔石をつかうと他より威力はないけど長持ちするとか、こうみんなが欲しがるような特色を出して、他と差別化して売り出していくみたいな...。」


「す、すごいよ!カメリア!良くそんなこと思いつきますね!」


目を見開き少し興奮した様子のロビンは、私の手を取ったと思ったら、ブンブンと力強く手を上下に振った。


ごめんよ、前世の記憶なので私のアイディアではないのですよ。

言葉の意味が合っているのかどうかも、怪しいし、

しかも、残念ながら私の前世チートでは、どう展開していけば良いとか、わからんのですよ。


「ちょっと、ロビン!そんなに振ったら、手が痛いわ!」


「あっ、ごめん...。」


「よし!早速、帰ったら叔父上に進言してみよう!」


「あっ、私が言ったって、言わなくて良いからね。」


「何で?せっかく良い案なのに...。」


「んー。なんか私に関わってほしくないみたいだから。」


「...そうですか。なんだかもったいないな。」


あまり、納得していないようだったが、了承はしてもらえたようだ。私に関わるどころか知ってほしくないと思っているあのお屋敷で、針の筵になるようなネタを提供するのは、ちょっとツライ。


「さて、次はどこを案内していただけるのかしら?」


「とりあえず、今日の予定は全部まわったかな。まだ時間に余裕がありますし、他どこか見たい所ありますか?」


「あっ!そしたら、あそこに行きたいわ!前回教えてもらった見晴らしの良い場所!」


「あそこね。オッケー!では、前回と同様、今回も早駆けでいかがでしょう?」


「もちろん!」


「ではっ!」



□□■□□■


森の中を走り抜ける途中、悲鳴が聞こえた。

警戒していると、近くの草むらがごそごそ揺れて、ポンッと小さな塊が転がってきた。よく見ると涙やら鼻水やらグシャグシャになった小さな男の子だった。あっけにとられていると、また草むらが揺れて、今度はオオカミが出てきた。


「坊主!そこでじっとしていろ!オオカミは一匹か!?」


「いっぴきぃ...」


「はぐれオオカミか...よし!」

とロビンは声を発したと思ったら、横に差してあった長剣を振りかざし、あっという間にオオカミの首をスパンと切り落としてしまった。

     

お見事!

     

と思っている場合じゃなかった。

急いで、子供のところに行かなくては!


「もう大丈夫だからね。」

 となるべく優しく話しかけ、抱きしめていると、凶荒状態だった男の子は徐々に落ち着いてきた。


「少しお話できる?お名前教えてもらえるかな?」


「ろくさむぅ...」


「ロクサム君、痛いところはなぁい?」


「ないぃ...。」


「そう、良かった。」


「オイッ、坊主!どうしてはぐれオオカミに、追いかけられた!」

オオカミを切って少し興奮状態なのか、それとも、まだ他のオオカミに警戒しているのか、珍しくロビンの声は硬かった。ロクサムは、ビクッとなってしまったではないか。


「ひっ...」


「ほら、ロビン!怖がっているじゃない!声抑えて。」


「す、すまない」


「大丈夫よ。このお兄ちゃん悪い人じゃないからね。」

と抱きしめながら、頭をなでてみる。


なんだか、在りし日の弟を思い出され、なんだかかわいい。

ロビンは、しょんぼりしている。

あら、こちらも意外とかわいいわね。


「ロクサム君は、どこから来たのかしら?お家わかる?お家の人と途中まで一緒だった?」


「父ちゃんとぉ...。」


「そう、お父さんと一緒だったのね。そしたら、ロクサム君のこと、今探しているかしら?

ねぇ、ロビン。まだ時間あるし、こんな森の中小さな子をひとりでほっとけないわ。

一緒に探してあげても良いかしら?」


「もちろん、構わないですよ。俺もほっとけないですし。」




ロクサム君を馬に乗っけて、歩いていると、

「おーい、ロクサーム!」

と声が聞こえた。


「おーい!こっちだー!」

ロビンも気が付いたらしい、声に答えていた。


しばらくすると、大人にしては小さいが、筋肉ムッチリ毛むくじゃらの男の人が現われた。


「あッ、父ちゃん!」


「おお、ロクサム!良かった、見つかって!

 助けていただいて、ありがとうございます。目を離した隙にいなくなってしまって。」


「父ちゃん、この人たち、僕がオオカミに襲われているところを、助けてくれたんだ!」


「なんと!!なんてお礼を言ったらよいのか...。」


「お気になさらないでください。」


「おや、よく見たらロビン坊ちゃんじゃないですか?私ですよ、イーサムですよ!」


「え、イーサム?おおっ、イーサム!久しぶりじゃないか!」


「お久しぶりでございます!こんなに大きくなって!

ひょっとして、今日は逢引ですかい?えらい別嬪さんじゃないですか!やりますね、坊ちゃん!」


チラッと私を見るとイーサムは、ロビンに聞いてきた。


「いやいや、違うよ。彼女は叔父上の奥方、カメリア様だ。」


それを聞いたイーサムの顔には、眉間の皺が寄ったが、すぐにさっきの気のいい顔にもどった。


「...?」


「イーサム、彼女は大丈夫だよ。」


「これは、失礼いたしました。カメリア様、私、そこの鉱山で働いておりますイーサムと申します。」


「こちらこそ、よろしくお願いいたします。まだ嫁いできたばかりでわからないことだらけで、ご迷惑をかけてしまうかもしれませんが...。」

と握手を求めると、イーサムはちょっとびっくりしていた。


「な、なんと。いや~こんな素晴らしい女性と、握手ができるとは!なんのお礼もできませんが、もし宜しければ、家に寄って行ってください。」


「そうしたいところなんだけどさ、ロクサムも休ませてあげたいし、もう少ししたら日も暮れてきそうだから、今日のところは、これで帰るよ。でも、またイーサムとは積もる話もあるから、絶対に近いうちに立ち寄るよ。」


「いつでもお出でくだせい。家内共々お待ちしておりますので。」


いつの間にか、私にべったりくっ付いていたロクサムを、べりべりっとロビンが引き剥がし、その日は、そのまま帰路についた。





「エドワードは、領民にあまり好かれてないのかしら。」


「...その、叔父上は、人を動かすのが下手っていうか、領地経営が下手みたいなんだよね。」


「そうなの...。」



「...。」


「...。」



「それにしても、クリスといいロクサムといい、君はずいぶんと子供に好かれるんだな。」


「子供と思考回路が、一緒だからじゃない?」


「そんなことないと思うよ。意外だなと思ったけど。」


「意外、意外って、ロビンの中の私って、いったいどんな人物像なのかしらね、全く。」


「...ひみつ」


「あっ、そう!」



「イーサムとは、長いの?」


「うん、子供の時からね。イーサムの長男と俺、同じ年でさ。屋敷の目を掻い潜って、良く森の中を駆けまわったりして、イタズラしては、イーサムに怒られたりしたんだ。」


「あら、怒ってくれたの。良い存在ね。」


「あの時は、この俺を怒るなんて!って、思ったけどね。今となっては、ありがたいと思っているよ。」



「そういえば、緊急事態に、ずいぶん慣れているのね。」


「まあね。これでも王都で軍に属しているからね。一応4年前の動乱にも、出兵しているし。」


「そうなの、どうりで。」

  

4年前の動乱ときいて、ちょっと心がヒリついた。話を聞きたいと思ったけど、あの動乱ではみんな何かしら傷ついている。やめておこう。


「意外だった?」


「ふふ、そうね。」


「カメリアの中で、俺は一体どんな人物像なんだろうね。」


「フフッ、ヒミツよ!」


数日後、またロビンはブックリストを置いて王都へと戻っていった。

この数日間、彼も忙しかったらしく、イーサムの家へは、また後日という事になった。


そういえは、ロビンは軍に属していると言っていた。

軍で何をしているのかわからないけど、どおりでよく見たら良い筋肉をしているはずだ。


<ロビンのブックリスト>

・トルタイム地方伝統と文化

・トルタイム地方郷土料理集

・トルタイム地方の紅茶産業の軌跡

・ジェファ―家初代の功績とその後の発展

・ジェファ―家と鉱山

・侯爵家マナー全集:社交とおもてなし

・森の民ローゼンと妖精ペピの冒険(トルタイム領に伝わる童話)

・少年剣士ジークと使い魔ボッボの大冒険

他5冊


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