オークを滅ぼすと決めた女騎士は無言を貫く!
血に濡れよ
フリルのドレスと麦わら帽子が良く似合う少女が一人、向日葵畑の中にポツンと佇んでいた。少女の麦わら帽子には白い羽が一枚飾られており、フワフワと風にたなびいている。
「…………」
夏の温かい風が頬を撫で、少女が麦わら帽子を押さえながら振り向くと、そこには体格の良いオークが一人立っていた。そしてその手には一際大きな斧と槍が携えられていた……。
「…………」
少女は向日葵畑に隠れた足下から剣を拾い上げ鞘を抜いた。その目には確かな殺気が漲っている。
「約束だ。俺が負けても村には手を出さないでくれ。村のオーク達には人間に手を出さないように既に説得してある」
「…………」
少女は両刃の細身の剣を構えると、速やかに向日葵畑の中へと隠れた!
オークは槍を地面に突き刺し、斧を両手で持つと思い切り地面を叩き割った!!
―――ガガガガガ!!
オークの目の前の地面が次々と隆起し、扇状に広がる!
「…………」
少女は隆起を飛び越え夏の日差しに照らされ輝く剣をオークへと向ける!
―――ズボッ!
―――ブンッ!
オークは地面に刺さった槍を素早く抜くと少女へ向けて投げ放つ!
剣で槍を切り落とす少女。着地までに剣を構え直す余裕は無い。既にオークは斧を水平に構え少女を薙ぎ払う姿勢を取っている。
―――ブオン!!
風を切る斧の音、斧に隠れ一瞬見えなくなる少女の姿。斧が過ぎた後に見える眩しい太陽。少女は空中で軌道を変えオークの後ろに降り立っていた!!
「……クッ!」
太陽の眩しさで目が眩みオークはとりあえず斧を振り回した。少女は地面に落ちた槍の片割れをワザと斧に当て、あたかも正面に居ると見せかけた……。
「そこか!!」
―――ブンッ!!
虚無へ斧を振るうオークの後ろ、既に少女にはオークの行く末が見えていた。
―――ザンッ!
―――ザンッ!
筋肉の断ち切れる音と向日葵に降り注ぐオークの生臭い鮮血。それはオークの未来を託す希望の虹。少女は微笑み「約束だ……ぞ」と遺し事切れたオークを向日葵に置き去りにし立ち去った。
「おい、オークの村がやけに騒がしいな……」
治安維持を任務とする見張りの女騎士が、オークの村から上がる黒炎に気が付いた。
女騎士隊が急ぎオークの村へと向かうとそこは一面炎で覆われており、至る所にオークの斬殺死体が転がっていた。
「な、何だこれは!! 何が起きている!?」
「キャアアアア!!!!」
「悲鳴が!?」
女騎士隊が駆け付けると、そこには首から血を流しピクピクと動く幼いオーク……そしてその場に不釣り合いなフリルのドレスと麦わら帽子の少女が居た。少女の持つ剣には大量の血の跡が残されており、今も尚剣先から血が滴り落ちていた。
「貴様か!!」
「止めろ!!!!」
女騎士隊の隊長が飛び出そうとした隊員を制止した。
「…………」
少女は女騎士隊に背を向けると静かに歩き出し燃え盛る村の奥へと消えていった。
「隊長……!」
「止めろ。アレは『白羽のノルン』だ。お前らが束になっても勝てる相手じゃない……」
「!?」
「アレがかつて最強の女騎士と言われた……!?」
「そうだ。そして私情に囚われオークを皆殺しにした故に女騎士隊を追放され、それ以降奴の足取りは不明だった……」
女騎士隊は無闇にオークに危害を加える事を良しとしない。それはお互いの生活、そして家族があることを知っているからだ。それでも尚、その家族をオークに殺された少女は…………。
「…………」
少女の無念は晴れる事が無い。在るとすればそれは、オークが滅びた日……なのかもしれない。
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(*'ω'*)