第3話
残酷なシーンがあります。
苦手な方はご注意ください。
エフェメリアとの血の契約は無事に結ばれた。
左腕に刻まれた模様がそれを主張している。
エフェメリアは一度自分に刻まれた模様を確認したあと、一言「いくぞ」とだけ言って食堂室の扉の方へと歩き出し、シュラインもナルカを抱えなおしてそのあとに続いた。
部屋の外は、凄惨な状態だった。
あちこちに血が飛び散り、数時間前までは笑顔で語り合っていた仲間たちが無残な姿であちこちに横たわっている。
幼いナルカに見せないように、小さな頭を抱え込んだ。
先程の食堂室で、もし机が持ち上げられていたら、自分たちも今は同じような状態になっていただろうことは容易に想像がつく。
美しかった船内の装飾は争った跡があちこちについてボロボロにっており、血の跡によって更に残酷な様相になっていた。
その中を、エフェメリアは迷うことなく進んでいく。
エフェメリアの一族がこの惨状を生み出したのだ。
しかしナルカと自分の命が繋がれたのも彼女が気まぐれに助けてくれたからである。
恨めしい気持ちと、助けられてことに対する恩のようなものが自分のなかでせめぎ合っているのを感じながら、シュラインはひたすらエフェメリアについていくことしかできなかった。
無言でエフェメリアについていった先は、飛空船の甲板だった。
扉を開いて、シュラインの目に一番に飛び込んできたのは、たくさんの赤だった。
エフェメリアと同じ色彩を持つ者たちが一斉にこちらを見る。
その目には訝し気な者や嫌悪感を表すものなど、よくない感情を浮かべているものが多かった。
たくさんの視線を集めながら、真ん中を突っ切るようにして進んでいく。
中央に差し掛かった時、進路を塞ぐように目の前に刀が振り下ろされた。
シュラインはとっさの判断でそれを交わす。
赤い髪の青年が振り下ろす刃は一度では止まらず、二度、三度と続いた。
本来ならばシュラインも刀で切り返したいところだったが、あいにく腕はナルカを支えるために使っており、避けるだけが精いっぱいになる。
ナルカに負担をかけないように振り下ろされる刃を避けていくが、それを許さないとばかりに刀はシュラインを追いかけてきた。
「ニコラ!」
エフェメリアが一言発すると、刀がピタリと止まった。
「それは私のものだ。傷つけることは許さない」
エフェメリアの静かな言葉に、刀の持ち主は訝し気な瞳を向ける。
ニコラと呼ばれた青年だけでなく、周囲で傍観していた他の者たちもザワつき始める。
そのうち何人かが、エフェメリアとシュラインの腕に刻まれた印を見て、何かを呟いていた。
「エフェメリア様、エルフの一族は全員排除するように王から命令されていたはずだ」
ニコラという青年がエフェメリアに訴えるが、それに対してエフェメリアは表情を変えることなく答える。
「それとは血の契約を結んだ。どうするかは私が決める」
毅然と言い放つその姿に、周囲でざわついていた他のものも静まり返った。
王からエルフ一族の排除を命令されていたというのに、それを覆したエフェメリア。
シュラインはこの時になって初めて、エフェメリアがどういう人物なのかに興味を持った。
「それは私のものだ。連れて帰ると決めた」
エフェメリアの言葉にニコラを含め周りは何かを言いたげだが、言えずにいる。
これでエフェメリアが意外と高い地位にいることがわかった。
「帰るぞ」
それまで一言も発さずに壁にもたれて傍観をしていた壮年の男が、帰路を告げる。
そこでようやく、アルデバランの隣に小型の飛空船が浮かんでいることに気づいた。
赤い髪の者たちはこちらを気にしながら、船に向かって移動を始める。
エフェメリアも船の方に向かって歩き出したので、シュラインもそれに続いた。
「絶対に殺してやる」
後ろの方で、ニコラがポツリと呟いたのが聞こえたが、振り返りはしなかった。
ここまで書くのに2時間もかかりました。
もうちょっと短縮したいものです。