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三幕目 3

「———ネイトは、無事なのか」

長い沈黙の後でアルフ様は口を開いた。


「今のところは。おそらくモナ嬢と結婚させたネイト様を当主にして、侯爵が裏で実権を握る目論見ではないかと」

「そうか…」

…今のところはって、今後は分からないって事だよね。

例えば二人が結婚して男の子が生まれれば、ネイト様はもう…用済みという事になるだろうし。


「それともう一つ」

ジュードさんが姿勢を正した。

「おそらく…次に狙われるのは、アルフ様のお命かと」

びくり、と肩が震えた。


「これまでは公爵様の目があったため、手出しはされませんでしたが。今の公爵様では……」

…そうか。

そうだよね…アルフ様は嫡男で。

きっと邪魔なんだよね……


「護衛の増員はしますが、表立ってお護りはできません。くれぐれもご注意と、一日も早く聖なる神殿へお向かい下さい」

「分かった」

「それから…」

私に聞かれたくない話なのか、ジュードさんはアルフ様の身体を馬車の後ろの方へと移動させると何やらひそひそ話を始めた。




「ミア嬢も、危険な事に巻き込んで申し訳ない」

馬車に集中しようと思っていたら、カーティスさんがすぐ側にやってきた。

「いえ…」


「———時にミア嬢」

しばらく私をじっと見つめて、カーティスさんは口を開いた。

「貴女の両親は健在かな」

「え?」

突然の言葉に私は目を瞬かせた。

「アルフ様と結婚するならば、その事を伝えないとならないだろう」

「え、結婚?!」

「婚約したら次は結婚だからな」

…普通はそうだろうけれど!

「で、でもこの婚約は…呪いを解くためのもので…」

「それでも腕輪を交わしたのだから、貴女は正式な婚約者だ」

やたらと私を見つめながらカーティスさんは言った。


「それで、両親は?」

「…いません」

「亡くなったのか」

「…分かりません」

「分からない?」

ふう、と私は息を吐いた。

「私は拾われ子なので…本当の両親の事は、分かりません」


「拾われる前はどこに?」

「知りません」

「知らないとは?」

…しつこいな。

素性が分からない娘がアルフ様と婚約したのが問題なのかな。


「———拾われる前の事は何も覚えていないんです」

ちょっとイラッとして、思わず正直に答えてしまった。

「何も?」

「ええ何も」

「年齢も分からない?」

「…おそらく拾われた時が五歳くらいだったので、多分十七歳です」

「五歳、か」

何だろう…何か…探っている?


「それではその髪と目の色の事も分からないと?」

「え?」

髪と目の色?

「色が何か…」

「そこまで黒い髪と目の色を持つ人間は、滅多にいない」

カーティスさんは穴が開きそうなくらい私を見つめていた。

「アルフ様も、本来ならば金髪だ」

ちらとアルフ様を見る。

アルフ様と私は同じ、漆黒と呼べるような黒髪だ。

前世では全く珍しくない色彩だけれど…確かに、この世界でここまで黒い人には会った事がない。

「黒い色彩を持つ者は、多くが呪いを受けた者だ」


ドクン、と心臓が跳ねた。


「———それは、私も呪われていると…?」

「それが分からない」

強い光を帯びた瞳が私を見据える。

「呪いを受けた者は黒い影を帯びていて、魔導士ならばそれが見える。だがミア嬢にはその影が見えない」

「…じゃあ、呪われていないんじゃないんですか」

心臓がドキドキしているのを悟られないように私は言った。

「だが引っかかる事があってね」

カーティスさんは顎に手をやり、うーんと首を捻った。


「聖なる神殿へ行けば分かるだろう。ミア嬢も一緒に泉に入って欲しいんだ」



 + + + + +



「で、どうだった」

去って行く馬車を見送りながら、ジュードは連れに尋ねた。


「可能性はある」

「手がかりは無かったのか」

「五歳より前の記憶が全くないそうだ。年齢的には一致している」

「…それだけじゃなあ」

乱暴に頭を掻くとため息をつく。


ミアに婚約の腕輪をはめた時、腕輪が光った事にカーティスは引っかかっていた。

その事を調べると———ある可能性に気がついたのだ。


「そっちはどうだった」

「アルフ様はかなりミア嬢に惹かれているようだよ」

カーティスの問いに、ジュードはにっと口角を上げた。

「側にいると落ち着くし、声がとても心地いいんだと」

「そうか」

「だが戸惑っているようだった」

緩めていた口が引き締まる。

「やはり〝姫〟が忘れられないようだ。———姫への思いとミア嬢への好意の間で戸惑っているんだろう。お前の予想通りなら問題はないのだが…」

そうであれば、これ以上喜ばしい事はない。


「———聖なる泉へたどり着ければ分かるはずだ」

馬車の去った方向を見つめ、カーティスは呟いた。

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