三幕目 1
窓の外から差し込む光を肌で感じ、眠りの底から意識が引き上げられる。
朝だ。
身じろごうとして———身体が動かない事に気付いた。
何かに縛られているような…
って。
すぐ目の前というか密着するように人の…
アルフ様?!
動きを拘束しているのが相手の腕と気づき———状況が飲み込めた瞬間パニックになる。
いや飲み込めてないけど!
何で抱きしめられてるの?!
「ん…」
動揺して大きく動いてしまい———アルフ様が声を漏らした。
「…あれ…」
確認するように、アルフ様の手が私の背中を、頭を撫でる。
「……ミア?」
「…おはよう…ございます…」
「ん…おはよう」
ぎゅっと…何で更に抱きしめられるの?!
「あ、アルフ様…っ」
「ミアは柔らかいね」
寝ぼけているの?!
モナ様と間違えて…いや私の名前呼んでるし!
仮の婚約者となってから十日ほど経っていた。
毎晩同じベッドで眠るけれど、なるべく離れて寝るようにしていたし…
何でこんな事になっているか分からないんですけれど?!
ようやくアルフ様の腕の力が緩んだ。
「…こういう事をされるのは嫌だった?」
身体を強張らせていたからか。
悲しそうな声色にハッとする。
「いえ…その、ビックリしてしまって…」
「ビックリ?…それだけ?」
「はい…」
「良かった」
嬉しそうな声が聞こえると、何か柔らかなものが額に触れた。
———え?
いや…まさかとは思うけど、そのまさか?!
「起きないとだね」
そう言ってアルフ様は身体を起こしたけれど、私はしばらく動けなかった。
この真っ赤になった顔が見られなくて良かった。
つくづく思って、私は息を吐いた。
アルフ様は優しい。
一緒にいると、心がじんわり温かくなってくる。
馬車の中や宿でお喋りをする時も———何も話さない時も。
アルフ様の側にいるだけで、心地良いのだ。
すごくドキドキする事はないけれど、このままずっと側にいたいと思う———この心は、きっと恋なのだと思う。
だけど私は平民で、馬方で。
公爵子息のアルフ様とは…身分が違い過ぎる。
一応婚約者だけれど…それは呪いを解くためのもので、この旅が終わったらどうなるか、分からない。
アルフ様は家に戻らないと言っていたけれど…
でもこういうお芝居では、最後は主人公は乱れた家を再興して、お姫様と結婚してめでたしめでたし、になるのだ。
きっとアルフ様も……
だから。
こういう…まるで恋人にするような事をされてしまうと。
———心が苦しくなってしまうのです。
心の中でアルフ様にそう訴えた。