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二幕目 5

二人の護衛と別れ、私達は出発した。

———これまで姿を見た事がなかったけれど、あの二人はどうやって付いてきているんだろう。

不思議に思って聞いてみたら、距離を取りながら魔法で跡を付けているのだと言われた。

やはりカーティスさんは魔導士だった。



「ミア」

しばらく馬車を走らせていると、アルフ様が話しかけてきた。

「はい」

「歌が聴きたいな」

「歌…ですか」

「うん。ミアの歌はとても心地が良いんだ」

「———ありがとう、ございます」

一気に顔がかあっと熱くなった。


請われるままに、歌を歌ったり、私の事を話した。

私の話に質問をしたり、笑ったり……意外とアルフ様は親しみやすい方だった。


途中でネーロを休憩させると、触ってみたいと言い出した。

馬車から降りてもらい、ネーロの傍へと連れて行く。


「いい毛並みだね。体格もいい」

ネーロを撫でながらアルフ様は言った。

「馬はお詳しいんですか」

そう言ってから気づいた。

———しまった貴族だもの、馬くらい乗るよね。


「乗馬は得意でね。前はよく遠乗りに行っていたよ」

遠くを見つめるように、顔を上げてアルフ様はそう行った。

「ネーロに乗ってみたいな。きっとよく駆けるんだろうね」

「…呪いが解けたら是非。ねえ、ネーロ」

ブルッとネーロが頷いた。

「…言葉が分かるの?」

「はい。とても頭がいい子なんです」

「そうなんだ。手入れもよくされているようだし、大切にしているんだね」

「ネーロは大事な家族ですから」

「———大事な家族か…いいね」

ぽつりと呟かれた言葉にハッとする。

そうだアルフ様は…生まれてすぐにお母様が亡くなって…

お父様や弟君とはどういう関係だったのだろう。

味方になる人は…いなかったのかな。




今夜の宿を見つけて、はたと気づいた。

…もしかしなくても今日からアルフ様と同じ部屋なんだよね?!


身体の不自由なアルフ様を一人にはできないし、お世話する事自体はいいんだけど。

だけど。

ベッドが一つしかないんだよ!

元日本人の感覚からするとツインルームとかあってもいいと思うんだけど!

どんなに大きい部屋でもベッドは一つだけなんだよ…


仕方ない、疲れるけどソファに寝るか。

そう思っていたらベッドの上のアルフ様に「女の子がそんなところで寝ちゃダメだよ」と言われ、ぽんぽん、と隣を叩かれてしまった。

…そこで寝ろという事ですか?

というかその仕草、恋人とか夫婦にするものですよね?!

いちおう婚約者という事にはなったけれど…


「どうしたのミア?」

不思議そうにアルフ様は首をかしげるけれど…

こんな、数日前に会ったばかりの、顔も知らない平民の私と一緒のベッドで平気なのかな。

「…一緒のベッドが嫌なら僕がソファで寝るよ?」

「い、行きます」

おずおずとベッドに上がると、アルフ様の隣へ横たわる。


わあ…だめだ恥ずかしい。

私は年齢イコール彼氏なしの現世、前世だって彼氏がいたのは高校生の時だけでキスまでの清い交際しかしていないんだから!

隣から体温が!なんかいい匂い!



「ミア。…ごめんね」

心の中で悶えているとアルフ様の声が聞こえた。

「はい…?」

「僕の呪いに巻き込んでしまって」

「———いいえ…」

「モナにも…悪い事をしてしまった」

それは苦しそうな声だった。


「…モナはね、本当はネイトと婚約するはずだったんだ」

「弟様と…?」

「僕には別の婚約者がいたんだ。リーベルト王国の王女でね、だけどその子は…五歳の時に行方不明になってしまった」

静かな声が、部屋の中に響いていく。

「一年経って、もう諦めようという事になって。僕との婚約も解消されて———僕は王女の代わりに、弟と婚約するはずだったモナと婚約した。モナにもリーベルトの血が流れているんだ。父上はどうしても、あの国と繋がりを持ちたかったらしい。…ネイトはとても悔しがっていたよ。あいつはモナの事が好きだったから」

政治的な事は、私にはよく分からない。

だけど…まだ幼かったアルフ様達がそういう事に巻き込まれるのは…悲しい事だと思う。


「家に帰って、ネイトと婚約し直すのがモナにとって良い事だと思う。そして二人でローウェル家を継げばいい」

「それではアルフ様は…」

「僕は呪いが解けたとしても、家には戻らない」

きっぱりと、アルフ様は言った。


「あの家に戻っても———僕が望むものはあそこにはないんだ」

それはとても強くて、悲しい声だった。

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