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二幕目 4

「アルフ様」

ネーロを預けていた厩の所まで来た所で後ろから声をかけられ振り返ると、二人の男性がいた。


一人はおそらく騎士なのだろう、短い髪に日焼けした肌と立派な体格を持ち、腰に剣を下げている。

もう一人は黒いローブを纏い、色白で細身で髪は長く、少し怪しげな雰囲気。

杖を持っているからもしかして魔導士なのだろうか。

対照的な見た目の二人だ。


「昨夜、モナ嬢がここから出ていきました」

「アシュベリー家の家臣と合流したようです」

「そう、やっぱり。仕方ないね」

二人の言葉にアルフ様が頷く。


…え、この人達、誰?

って見ていたなら止めなかったの?

訝しげな顔の私に気づいて、騎士風の男性が頭を下げた。


「これは突然失礼、お嬢さん。私はジュード・バックリーン。こちらはカーティス・リングホルム。我々は公爵家に仕える者で、アルフ様達を陰からお守りしているんだ」

「陰から?」

「表立って警護はできないんだよ、呪いを解くためには。万が一お命を失うような事が起きた場合以外、手出ししてはならない決まりになっている」

「今は緊急事態だからな」


———不思議には思っていた。

公爵子息と侯爵令嬢を二人きりで旅をさせて危なくはないのかと。

私も馬車を操れるだけで、護衛なんて出来ない。

そうか、それも〝決まり〟のせいなのか。

だけど…


「あの…モナ様が出て行かれたのがやっぱりと言うのは…」

「我々は疑っていたんだ」

「公爵家の領地内を出た途端とは。やはり最初から計画していたな」

「計画…?どうして…」

二人の護衛の言葉に動揺してしまう。

だってモナ様はとても綺麗で優しくて。

私みたいな田舎者にも厭わず接してくれて。

アルフ様のお世話もちゃんとしていたのに。


「———モナ嬢の父親の侯爵はアルフ様を見限って、弟のネイト様とモナ嬢を結婚させようとしているんだろう」

黒いローブのカーティスさんが答えた。

「そしてネイト様を公爵家の後継にさせようと」

「モナ嬢も多分、父親から命令されていたんだと思うよ」

昨日のモナ様を思い出す。

何かに耐えるように、辛そうだったモナ様。

———本当はこんな事したくなかったのかな。

だってアルフ様を見つめるモナ様の瞳は、とても優しくて愛おしそうだったもの。




「それで、どうする?」

ジュードさんがカーティスさんを見た。

「アルフ様を連れ帰るのも無理だろう」

「ともかく呪いを解くのが先だ」

「だが婚約者のモナ嬢が逃げてしまっては…」

「何、必要なのは婚約者であって、モナ嬢ではない」

そう言うと、カーティスさんは私を見た。

……まさか…


「君、結婚はしてるのか?」

「いえ…」

「恋人や婚約者は?」

「いません…」

「ならば問題ないな。君にアルフ様の婚約者になってもらおう」


「なるほど、そうすればいいのか」

「え?ま、待って下さい!」

話の流れからそんな気はしたけど!

ジュードさんも何納得したように頷いているの?!

「私は田舎者の、馬方ですよ!そんな貴族様の婚約者だなんて…」


「なに、平民と貴族が結婚する事もなくはない」

「それに君、顔は貴族令嬢として通用するくらい可愛いよ。アルフ様と並んでもおかしくない」

そういう問題じゃなくて…!


「アルフ様もそれでよろしいですか」

「———そうだね…」

アルフ様が顔を私の方へ向けた。

初めてまともに正面から顔を見て、ドキリとしてしまう。

包帯で隠れているけれど…きっと整ったお顔なのだろう。


「ミア」

名前を呼ばれ、さらにドキドキしてくる。

「僕と、婚約してくれる?」

うわあ———どうしよう?!

いや、拒否できる雰囲気と状況ではないんだけれど。

そうしないとアルフ様の呪いが解けないと分かっているし、きっとそれまでの形ばかりの婚約になるんだろうけれど。

一時的とはいえ公爵子息様と婚約なんて…


「ミア…嫌?」

「い、いいえっ」

悲しそうに首を傾げて言われたら否定できるわけない。

「私でよろしければ…」


「よし、決まりだな」

「アルフ様、証はありますか」

「ああ」

アルフ様は着けていた金の腕輪を外し、モナ様が置いていった腕輪と重ねるとカーティスさんにそれを渡した。


「それでは簡略ですが。———我らカーティス・リングホルムとジュード・バックリーンの二人を証人とし、アルフ様とモナ嬢の婚約を無効とし、新たにアルフ様とミア嬢の婚約をここに結ぶ」

そう言うと、腕輪を一つ私に差し出した。

「これをアルフ様の腕に」

「はい…」

言われるままアルフ様の腕に通す。

「アルフ様も」

…結婚式の指輪交換みたい。

目の見えないアルフ様が、カーティスさんの手を借りながら私に腕輪を着けようとするのを見つめていた。


私の腕に腕輪が通った瞬間。

強い光が放たれた。


「きゃ」

「うわっ」

「何…?」

光るとか!そういうの事前に教えてよ!

そう抗議したくなったが———カーティスさん達も同じように驚いた顔で私を見ていた。


「カーティス?何かあったのか」

アルフ様が不審そうに尋ねた。

「は、ミア嬢の腕輪が光って———」

「光る?」

「こんな事あるのか?カーティス」

「いや…聞いた事がない」

カーティスさんが何かを探るように、じっと私を見つめる。

それから私の腕を取ると、腕輪を見た。

「…問題はなさそうだな」

本当に?大丈夫?

私みたいな田舎者の平民と婚約したせいとかじゃないの?


「———これで婚約は成立しました」

「ありがとう。よろしくね、ミア」

アルフ様の笑顔はとても優しくて。

早くその瞳を見てみたい…そう思った。

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