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二幕目 3

最初の数日は平穏だったのに。

いや…私が気付かなかった、というか、気付くようになったのか。


アルフ様とモナ様は、幼い時からの婚約者だと聞いていた。

それに呪いを解くためとはいえ二人きりで旅をするのだから、貴族特有の政略的な婚約であっても仲が良いと思っていたのに。


馬車の中で、二人は全くと言っていいほど口をきかなかった。

最初お会いした日はアルフ様は一言も話さず、呪いのせいで口がきけないのかと思ったけれど、必要な会話はするし喋るのが苦痛な様子もない。

馬車を乗り降りする時や宿に入る時などに、アルフ様の手を取るモナ様はとても甲斐甲斐しく世話をしているように見えるのだけれど。

ただ馬車に揺られている時は二人とも一言も話さない。

ただの沈黙というよりも———何だかよそよそしい空気が流れているのだ。


もしかして、実は仲が悪いのかな。

それとも…何かあるのかな。



ちゃんとした馬車ではなく幌馬車なので、御者台に座る私と後ろの二人を遮るものはない。

ちらと背後を窺う。

やや俯いて座るアルフ様は顔の半分近くが包帯で隠れているせいで、何を考えているのかその表情は分からない。

モナ様は、アルフ様とは別方向をじっと見つめている。


…ツライ。この緊張感がツライ。

喧騒のある街中を走る時はいいけれど、今みたいに畑ばかりの道など他に誰もいない所を走っていると、背後から伝わってくる空気に私まで息をひそめてしまい、身体が強張ってくる。



『春になればヨ、花が咲いてあの子に会える———』

耐えきれず、私は馬追い唄を歌い出した。



誰もいない道を一人で荷物を運ぶ時、私はいつも歌を歌う。

親父さんに教えてもらった馬追い唄だったり、前世で覚えた歌だったり。


ネーロに話しかけるのはネーロの邪魔かなと思うし、でも一人で馬車を走らせるのも退屈なので歌うのだ。

後ろのお貴族様の二人に私の歌を聴かせるのも恥ずかしいが、この沈黙の辛さには耐えられない。


のんびりとした唄を歌いながら、いつもの調子で歌っているとようやく私の気持ちも落ち着いてきた。



町が見え、良さげな宿の前で止まる。

一人降りて部屋の空きと食事の内容、料金を確認し、問題なさそうなので馬車に戻ると今日の宿が決まった事を告げる。


先に降りたモナ様が手を差し伸べて、私も手伝いながらアルフ様を下ろした。


「ミアの歌は優しくて心地が良いね」

離れる直前、ポツリとアルフ様が褒めてくれた。





旅立って五日目、国境を越えた。

それまで国外に出た事はなかったので、検問とか厳しいのかと不安だったけれど、聖なる神殿が目的地だと告げると兵士達はざっと馬車の中を確認するだけであっさり通してくれた。


「気をつけて」

「頑張ってね」

労いの言葉までくれる。

———何でも、呪いを解きに聖なる神殿に向かう人はそれなりにいるらしい。

きっとアルフ様を見てピンときたのだろう。



国境を越えるとモナ様の様子がおかしくなった。

その愛らしいお顔は固く強張り———膝に置いた手を握りしめ、何かに耐えているように見えた。


夕方になって無事最初の町に着き、宿に泊まる。

馬車から降りてアルフ様を支えるモナ様の手が僅かに震えている気がした。


宿では二部屋を借りる。

なるべくいい部屋にアルフ様とモナ様を泊まらせ、私は普通の部屋に一人で泊まる。

アルフ様達の料理は部屋に運んでもらうため、一度部屋に入ってしまえば出発するまで二人とお会いする事はない。



翌朝、食事の時間になる前に宿の人が私を呼びに来た。

アルフ様が私を呼んでいるという。


部屋に入ると、アルフ様は一人、ベッドに腰掛けていた。

傍には二人分の、まだ手をつけられていない朝食。

「おはようございます。モナ様は…?」

バスルームだろうか。


「———モナは、多分出て行った」

「はあ?」

意味が分からず、間抜けな声を出してしまう。

「テーブルかどこかに、金色の腕輪はないかい」

アルフ様の言葉に見回すと、ベッドサイドに金色の輪があるのが見えた。


「これでしょうか」

「この腕輪と同じもの?」

そう言って差し出されたアルフ様の腕に、同じ模様が彫られた腕輪が見える。

「はい…同じです」

「そう。これはね、婚約者の証として着けるものなんだ。やっぱりモナは逃げたんだね」

淡々とした声でアルフ様は言った。


「え…逃げたって…どうして……」

「外に出れば事情は分かると思うから。とりあえず朝食を食べて出発しよう。悪いけど手伝ってくれる?」

「あ、はいっ」

混乱している私と対照的に、全て分かっているかのようなアルフ様に促され、お手伝いをしながら一緒に食事を取る。

そのまま着替えも手伝い、準備を整えると私達は宿の外へ出た。

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