大詰 1
「お前がこれまで重ねてきた悪事の証拠はここにある」
バサリ、と投げつけられた書類を見て、アシュベリー侯爵は見る間にその顔を青ざめさせた。
「何故…どうやって……」
「協力してくれた者がいるのだ」
アルフ様はそう言うと背後を振り返った。
「言い逃れはできない。連れて行け」
控えていた兵達が侯爵を取り囲む。
腕を掴まれ、引きずられるように侯爵は連れ出されていった。
「———モナ」
アルフ様が視線を送った先には、モナ様とアルフ様の弟のネイト様がいた。
「侯爵は随分と多くの罪を重ねていた。廃爵は無論、刑も重くなるだろう」
「……はい」
モナ様が深く頭を下げた。
「我が父の罪は私も無縁ではありません。———私も共に罰を受けます」
「兄上っ!」
ネイト様がかばうようにモナ様の前へと出た。
「モナは父親の命令に従っていただけです!彼女には罪は…」
「いいえネイト様。それでも私がアルフ様を置いて逃げたのは事実です。私は…罪を受けなければなりません」
「モナ…」
———ネイト様は、きっとモナ様の事が好きなのだろう。
モナ様を見つめるその瞳が物語っていた。
「確かにモナは私を捨てて逃げた。———だが」
アルフ様は私と視線を合わせた。
「そのお陰で、こうしてマリアを取り戻す事ができた。それは感謝している」
「アルフ様…」
「かといって何も罰しないという訳にもいかないからな、だからモナ」
「…はい」
「君には、罰として父上の看病をしてもらう」
「公爵様の…?」
「君の父親に、父上は随分と強い薬を与えられていたらしいな」
アルフ様はそう言って苦しげに眉をひそめた。
「薬は抜けたがまだ手足に痺れが残っている。…ここに来る前に会ってきたが、精神的にすっかり弱ってしまっていた。話し相手になるなどして、心を和らげて欲しい」
「…はい」
「それから、新しい当主となるネイトも支えてやってくれ」
「当主?僕が?」
ネイト様が困惑した顔で聞き返した。
「兄上は———」
「僕はリーベルト王国へ行く」
アルフ様は私の肩に手を乗せた。
「向こうの王家に仕える事になる。その見返りとして、アシュベリー侯爵の悪事を暴くのに協力してもらったんだ」
呪いが解けた後、私達はまずリーベルト王国へと向かった。
私の家族———両親と兄、私が行方不明になった後に生まれた弟、それから精霊達が大喜びで出迎えてくれた。
そして今後の事を話し合い、私を国外に出したくない家族と家の問題を解決したいアルフ様の利害が一致して、アルフ様が私と結婚してリーベルト王国に来る事になったのだ。
証拠集めには精霊達も協力してくれた。
というより彼らの力がなかったらこの短期間では集められなかっただろう。
そうやって全ての準備を整えて、公爵家へと戻ってきたのだ。
「モナ様」
私はモナ様の前へと進んだ。
「これから大変だとは思いますが…何かあったらリーベルトを頼って下さい。アクロイド家も助けになってくれます」
モナ様のお母様の実家のアクロイド侯爵家の当主とも話をしてきた。
もしも必要ならばモナ様をアクロイドの養女として一度引き取ってもよいという言質は取っておいた。
「マリア様…ありがとう、ございます」
モナ様の瞳から大粒の涙が零れた。
「ネイト、ローウェル家の事は頼んだよ」
「———分かりました。兄上も、どうかお元気で」
アルフ様に頷くと、ネイト様はモナ様と顔を見合わせた。
きっと、大丈夫。
ローウェル公爵家を立て直すのは大変だろうけれど、この二人なら。
互いを見つめ合う眼差しにそう確信した。