四幕目 4
約束通り、カミサマはちゃんと与えてくれていた。
リーベルト王国の王女マリアとして生まれた私が持っていた特別な能力———私は精霊に愛され加護を受ける『精霊の愛し子』だった。
銀色の髪に、愛し子である証の紫色の瞳を持った私は、生まれた時から多くの精霊達に囲まれ彼らに可愛がられていた。
けれど精霊というのは良い精霊ばかりではない。
私は一体の闇の精霊に目を付けられてしまった。
五歳の誕生日を過ぎた新月の夜。
眠っていた私は奇妙な感覚を覚えて目を覚ました。
真っ黒い羽が部屋中に広がっていた。
「だあれ…?」
いつも精霊や聖獣に囲まれていたが、彼らとは明らかに異なる暗い気配に私は戸惑った。
赤い瞳が私を見つめていた。
『…忌々しい印をつけられたな』
そう言って瞳が見るその先には、誕生日に婚約したばかりのアルフ様から贈られた腕輪があった。
とっさに腕輪を隠すよう、反対の手で腕を掴む。
赤い瞳は不快そうにその目を光らせた。
『お前は私の花嫁だ。人間になど渡さぬ』
真っ黒い光が私を包み込んだ。
その後の事は、あやふやだ。
真っ黒い空間の中にどれくらいいたのだろう。
頭の中がフワフワとしながら黒い羽根に包まれていると、突然銀色の光が現れた。
それがネーロ———私の守護聖獣であるネーロダヴォラだと気付いて。
ネーロと闇の精霊が戦っているのを肌で感じて。
それからの記憶はなく…気がついたら私はミアという名前で呼ばれていたのだ。
『あの時、闇の精霊を消滅させマリアを救い出したのだが…最後にアイツに呪いを掛けられた』
「呪い?」
『私の力と、マリアの記憶を封印する呪いだ』
本来の姿を取り戻したネーロがそう言って、ため息をついた。
『闇の領域から抜け出して落ちた先があの馬方の所だった』
「それでお二方はあの町におられたのですね」
ジュードさんが納得したように頷いた。
私達は追いついてきたジュードさん達と共に、神殿の一角にある貴賓室にいた。
突然駆け込んできた馬が聖なる泉に飛び込んで、神殿内は騒然となったけれど———私達の素性を知り、この部屋を用意してくれた。
何でも長い歴史の中で、聖獣の呪いを解いたのは初めての事らしい。
部屋に案内してくれた神官さんが興奮したように教えてくれた。
「もしかしたらと思っていましたが。やはりミア嬢とマリア様は同一人物だったのですね」
「…カーティスさんは気づいていたの?どうして?」
「その腕輪です」
私は腕に視線を落とした。
闇の精霊に攫われた時に失い、再び戻ってきたアルフ様との婚約の証。
「ミア嬢に着けた時に光ったのが気になっていました。最近の婚姻の腕輪は形ばかりのものが多いですが、高位貴族のものは古来からの慣わしの通り、祝福の魔法が込められています」
そして祝福と共に、呪詛も込められているのだという。
———契約を違えないように、不貞を行う事のないようにと。
呪いによってマリアという存在が封印されてしまい、主を失った腕輪は新たな婚約者であるモナ様に渡されたが、再び私の所に戻ってきた事で何らかの反応をし、光ったのではないか。
私の黒かった髪と目の色や、平民らしくない容姿などと合わせてそうカーティスさんは推測したのだ。
「何らかって、何だよ」
「そこまでは詳しく調べる余裕がなかった」
ジュードさんの問いにカーティスさんが答える。
『それはマリアが愛し子だからだな』
話を聞いてきたネーロが言った。
「愛し子だから?」
『お前達は知らないだろうが、その二つの腕輪には精霊達の加護が込められている』
私はアルフ様と顔を見合わせた。