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柊義人の日常  作者: たもたも
8/8

サランラップは新妻の味方

それはとある平日の朝のこと


今年の冬の寒さは依然とどまる事を知らず、どうせ地球が温暖化するのなら、夏と冬でもう少しいい塩梅にならなかったのかとお天道様に問い詰めたくなるような一日の幕開けだった。


そんな日に俺はいつもより早く起きた。


こんな日は布団で2度寝するのが1番の有意義な生き方だとは思うが、それをしてしまうと二度と起きれなくなる気がして今日は早めに布団から出たのだ。


梨奈は俺が朝食を食べ終えたと同時に2階から降りてきた。


梨奈「おはよ!」


俺「おはよう」


梨奈は起きてすぐに制服に着替えるため、下に降りてきた時にはすっかり目覚めている。


朝から元気な妹は最近女子の間で流行りの歌を口ずさみながら、優しい優しい兄が事前に準備しておいた朝食を、さも当然の如く食べるお嬢様っぷりを朝から発揮した。


まぁ、俺は紳士だから恩着せがましいことは言わないけども。


俺は昨日の夜にコタツに仕込んでおいた温かい制服に着替え、学校に行く準備をすることにした。


俺「あれ……どこいった…?」


梨奈「どしたの、お兄ちゃん?」


俺「俺のネックウォーマー知らないか?」


梨奈「うーん……あたしは見てないなぁ。無くしたの?」


俺「無くしたんじゃない。消えたんだ。」


梨奈「それを世間一般では無くしたって言うんだよ……」


俺「なぁ、今日だけでもマフラー貸してくれないか?」


梨奈「えぇ〜……お兄ちゃんに貸したらマフラーくんかくんかしそうで嫌。」


俺「そんなことしねぇよ!」


とは言ったものの、妹のマフラーを着用して登校する兄という絵面もなかなかにシュールなので、梨奈に借りる案は取りやめることにした。


梨奈は食べ終えた朝ごはんのお皿をキッチンに持っていき、通学用カバンを取りに2階へ登って行った。


俺「しまったな…。帰りに買いに行くしかないか。」





**



俺「くっそ寒い……」


放課後、俺は1人で駅近くのショッピングモールの前でガサガサな声で呟いた。


声がガサガサなのは風邪をひいたわけではない。


学校であまりにも喋らなかったため、声帯が死にかけていたからだ。


ちなみに、今回来たのは休日に梨奈と一緒に行った家族向けのショッピングモールではなく、完全にターゲットを若者(陽キャ)やカップルに絞った別の場所のものだ。


俺「さっさと買って帰ろ……」


ショッピングモール内は思った通り人で溢れかえっていた。


手を繋いで歩くカップルやタピオカ入りの飲み物を飲みながら歩く女性、何故か半袖スタイルの元気な男子高校生といった、リア充の坩堝である。


俺はその中を人にぶつからないように、視線を合わせないようにスルスルと抜けていった。


梨奈曰くメンズ系の服屋は4階にあるとの事なので、無心でエスカレーターで4階へ。


何事もなく4階に到着し、エスカレーターから降りるとすぐ前に紳士服の店があったのでそこへ向かった。


エスカレーターに乗っている最中に確認したところ、俺の所持金は1024円。


1000円ありゃ行けるやろ。そう思いながら30パーセント割引の札がついたマフラーを手にとる。


そのマフラーは灰色無地で肌触りも良く、第1印象は最高だった。


とりあえず値札を確認。


1万5000円


すぐにマフラーを定位置に戻した。


俺「ゼロ1つ少なくても買えねぇよ……」


この店は自分なんかが立ち入っては行けない場所だったのだと判断し、俺は別の店を探すことにした。


2店舗目は先ほどのびっくり価格が無さそうなファンシーな所にした。


店内の商品を見渡しても、思った通り低価格な商品が並んでいた。


これはいける…!と思いマフラー売り場へ行くと、そこには多種多様なマフラーがあった。


俺「沢山あったらあったで困りもんだな……」


茜「これなんか義人に似合うんじゃない?」


俺「それ俺にはちょっと可愛過ぎないか?」


茜「うーむ…いいと思ったんだけどなぁ……ってなんでつっこんでくんないの!?」


俺「いや、ここで驚いたら俺の負けだと思って。」


茜「ちぇっ…せっかく学校からあとつけてきたのにさ……」


俺「さらっと怖い情報開示しないで!?」


茜「冗談だよ〜。実際はエスカレーターに乗る前からだから。」


俺「それでも充分怖ぇよ……ってことは茜も用があってここに来たのか。」


茜「ん、んー……ま、まぁ、せやな。」


俺「口調変わってんぞ……そんなやましい用事なのか?」


茜「そんなわけないじゃん!お、弟に手袋買ってあげようかと思って……」


俺「いいじゃねぇか。それでなんで吃ってんの?」


茜「女子にはそーいう時もあるんですよねぇ……」


俺「せやろか?」


茜「せやせや」


何やら隠してることがあるようだが、なかなか口を割らないのでこれ以上追求するのは止めることにした。


茜「これ!これいいじゃん!」


俺「は……?」


茜が手に持っていたマフラーは色は黒で良いのだが、規則正しく穴が空いていた。そう、お菓子のサッポロポテトのように……。


俺「それつけるぐらいならサランラップ首に巻いた方が保温性能高い……それはそれで環境に悪いか。」


茜「あぁー!今サランラップ馬鹿にしたでしょ!」


俺「してねぇよ!てかお前サランラップの肩持つの!?」


何故サッポロポテトマフラーをオススメして来たのだろうか……


茜「サランラップは凄いんだよ!」


俺「はぁ……」


茜「例えば、お昼の購買のパン戦争の時に急ぎすぎて階段から落ちて血が吹きでたとしても、サランラップで止血すればパン戦争に参加出来る!」


俺「まず保健室に行けよ!!」


茜「さらにさらに!最近残業続きの夫に温かい料理を食べさせてあげたいと思って夫の帰りを待つ新妻がうっかり寝落ちしちゃったとしても、サランラップはそんな奥さんために、あんなに薄い体で必死にご飯の温もりと潤いを保とうとするんだよ!」


俺「電子レンジと炊飯器という文明の利器を知らんのか。」


茜「そんな薄情な!」


俺は茜によるサランラップの露骨なステマ(ステルスしてない)を話半分に聞きながらお好みのマフラーを探していると、端の方に少しだけあったネックウォーマーコーナーに何やら見慣れたものがあった。


俺「あ!これって俺が前持ってたやつだ!」


茜「ほんとだ!……でも前のやつと同じでいいの?新しい柄とかは欲しくないの?」


俺「俺はこの柄が気に入ってるからいいんだ。」


540円というお手軽価格が決め手だったとは言わないでおこう。


茜「いいの見つかって良かったね!」


俺「あぁ!……なんだかんだ手伝ってくれたし、弟君の手袋探すの手伝おうか?」


茜「い、いやいや!いいよ!私一人で探せるし!」


俺「でも俺なら男の子が好きそうなやつとか分かるぞ?」


茜「1人で探すって言ってるじゃん!またね!!」


そういうと、茜は全力ダッシュ。


俺「そっちエレベーター乗り場だぞ……って聞こえねぇか。」


俺はその後、ネックウォーマーの会計を済ませてすぐに帰宅した。



**



梨奈「おかえりー。遅かったね。」


俺「ただいま。ネックウォーマー買ってきたからな」


梨奈「どんなの買ったの?」


俺「前のやつと同じやつ」


梨奈「まじでござるか」


俺「まじでござる」


梨奈「ここでお兄ちゃんにいいお知らせと悪いお知らせをごちゃ混ぜたお知らせがあります」


俺「なんじゃそりゃ」


梨奈「コタツの中から探してたネックウォーマー出てきたよ」


俺「まじでござるか……」


梨奈「まじでござる」

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