第17話 Sランク冒険者
「えっと、何も持たずに行きましたけど、大丈夫なんですか?」
流石に心配になって聞いてしまった。
「おぅぼうず。爺さんの事なら心配ねぇぞ。
あの数なら一人で全滅させちまうさ、人質がいなければな。
Sランク冒険者は伊達じゃないぜ」
Sランク冒険者。
この世界には冒険者ギルドがあり、冒険者にはF~Sのランクがある。
ランクを上げるには、強さはもちろんのこと多くの実績を残す必要がある。
最高峰の冒険者。
打撃音と共に宙を舞う兵士達、吹き飛ばされる兵士達。
人間ってあんな簡単に吹き飛ぶんだ、殴られて。
兵士達の剣はかすりもせず、飛び交う魔法は手で払いのけられる。
「余裕そうですね」
マイアが必死に頑張って剣で相手をしている手前で吹き飛ばされる兵士達。
「だろ、俺達はあっちでも手伝うかな」
向いた先では魔装銃士が戦っている。
30人程向かった兵士は、既に15人まで減っていた。
あ、また5人倒れた。
兵士達もバカではない。
遠距離には遠距離、ファイアーボールを主体に攻撃を飛ばしていた。
しかしファイアーボールは届かない。
いや、届く前に爆発してしまっている。
イーちゃんが投げる食器用のナイフとぶつかって。
今回イーちゃんには魔装銃士のサポートを任せていた。
兵士達の接近に備えて。
魔法は魔法で迎撃できる。
魔装銃士たちは自分でも迎撃できるはずなのだが、その必要すらなさそうだった。
「建物を壊せ」
マイアと闘いながらも領主が指示を出した。
マイアだけが相手であれば余裕があるようだ。
魔法は迎撃されず、建物が倒壊した。
残りの兵士は5人になっていた。
そのまま突撃する兵士達。
しかし倒壊した建物の上には誰もいなかった。
そして5人の兵士達も倒れた。
発砲音と共に。
「なんだと!」
領主の焦った声が聞こえる。
長銃が相手、接近すれば何とでもなる。
そう思っていたのだろう。
おそらくそれは正しい。
魔装銃士はライフル兵と同格で出てきたユニット。
元の武器は狙撃用のライフル。
連射性は低い。
出来れば工業化時代の歩兵まで進め、マシンガンクラスにしたかった。
魔装銃士とイーちゃんは元の位置に浮いていた。
ブルーシートに乗って。
建物が破壊されるのは想定していたので、いざとなればブルーシートで飛び回るように指示をしておいた。
そして領主の傍にいた兵士も5人吹き飛ぶ。
今回は飛び回る必要すらなさそうだった。
魔装銃士の手は緩まない。
「くそっ。何者だ、てめえら」
領主はマイアと剣を交えながら悪態をつく。
「私の仲間を返してもらう。
そして、私の国を襲った国の貴族として、死ね」
サーヤの周りにあった玉がマイアの剣に合流した。
剣が豪華に変わり、まばゆい光を解き放つ。
そして領主の傍で戦っていた最後の4人の兵士も吹き飛び、領主も頭に被弾する。
流石は戦闘ユニット。
魔装銃士は空気を読まない。
「なんで血を流す程度なんだろ」
あの銃弾を頭部に生身で受けているのに。
「ぼうず、装備の防御力ってのは全身にかかってるんだぞ。
装備に覆われていない部分にも当然かかっているさ。
でなけりゃぁ、あの嬢ちゃんの体は今頃傷だらけだろ」
冒険者の一人が教えてくれた。
そうだったのか。
一つ謎が解けた。
ビキニアーマーって意味があるのかなって。
領主の周りに兵士がいなくなったことにより、マイアの影分身達も領主に向かった。
影分身達の剣は、分身した時点の元のまま。
領主に対しては攻撃力が足りない。
影分身達は連携し、動きを封じにかかった。
周囲に玉を纏ったままのサーヤの影分身達も併せて。
サーヤの影分身達による顔への弾幕。
ダメージは無くても視界は遮られる。
そこへ突撃するマイアの影分身達。
斬られる事を戸惑わず、捨て身で拘束した。
どうやら影分身達も戦い方に気が付いたようだ。
影分身達は本体ではない。
いくらでも復活できる。
数の維持が必要な状況でなければ、いつでも捨て身で攻撃に専念できる。
手足の自由を奪われ、地面に引き倒された領主。
スライム君も拘束を手伝っているようだ。
顔面に張り付いている。
スライム君、恐ろしい子。
そこへマイア本体が剣を振り下ろす。
豪華になり、光を放つ剣が。
「魔法剣か。
かわいい顔にいい体、さらには良い装備。
いいねぇ」
僕の傍で冒険者がにやついている。
渾身の力を込めて振り下ろされたマイアの剣は、領主の首を一刀両断した。
「ところで、働かなくてよかったんですか?」
冒険者のエロ親父に言ってみた。
もう一人の冒険者は爺さんと一緒に兵士を吹き飛ばしていた。
「やべぇ、思わず見ちまった。
くそ、既にみんな動けなくなってやがる。
俺達がとどめを刺すわけには、いかねぇしなぁ」
確かに爺さんたちは派手に吹き飛ばしていたが、致命傷には見えない。
「殺せない理由があるんですか?」
「俺たち冒険者は戦争には参加しない。一応そういう事になっていてな。
今回は俺たち自身も拘束されたから、動けなくする程度なら全く問題はない。
一応戦争兵士ではない住民が傷つけられそうになったから、殺してもさほど問題にはならないだろうけどな。住民も俺達の味方をしてくれるだろうし。
ただ、まぁこれはぼうず達の戦いだろ。
自分でケリをつけたいだろうし、ついでにレベルアップもしておけって」
どうやら譲ってくれるつもりだったようだ。
話している間にも、魔装銃士達が倒れている兵士達にとどめを刺していく。
魔装銃士、ぶれない。
「僕にアドバイスをしていたというのはどうでしょう。
色々教えてもらいましたし」
礼を兼ねて案を提示してみる。
「そうだな。絶対ぐちぐち言われるだろうけど」
町の中での戦いは終わった。
いつの間にかビキニを着ていた転移者の女性。
「脱ぐのは見せてもいいの。
でも下着と水着を着るところは、見せちゃダメなのよ」
そんな事を言っていた。
周りの女性たちの同意が激しい。
詮索をしてはいけないらしい。
転移者の女性には僕達とおそろいの仮面を渡した。
ライブ配信していることを伝え、自己紹介は後でということにした。
色はビキニと同じ薄紫色。
丁度いい色があってよかった。
マイアが僕の元へ戻ってくる。
空を飛んでいたネグリジェとサーヤも地上に降りてきた。
マイアの元へ駆け寄る11人の女性達。
サーヤも加わり、皆の無事を喜んでいる。
「マイア、闇商人の手下っていうのは大丈夫なの?」
ここでは兵士しか見当たらなかったけど。
「そちらの女性が倒してくださいました」
マイアの元へと集まった女性の一人が答えてくれた。
転移者の女性の方に手を向けて。
どうやら最初に焼き消したならず者というのがその手下だったようだ。
そして行き場のなかった転移者の女性をかくまい、今に至る。
微妙にわかっていなかった部分がつながった。
「皆さん初めまして、ニクです。
僕達はこの町に、捉えられた仲間を救出しにやってきました。
結果的には兵士や領主を倒し、占拠するようなことになってしまいました」
僕の話は続く。
僕達は街を占領するつもりはないこと。
自分達の開拓都市に引き上げること。
ここは残った人で好きにしていいこと。
希望者がいるなら、僕の開拓都市へ移住出来る事などなど。
結果が出るのは早かった。
冒険者の3人以外は、全員移住すると。
そもそもここに居るのは、マイアの仲間を覗くと元から居た宿屋の家族の4人、そして他は娼館で働く108人の女性のみ。
宿屋の家族も、領主に町を占拠されてからはいつか出ようと悩んでいたらしい。
そしてその間に、他の元々の住人達は出て行ってしまったそうだ。
120人以上の大人数での移動。
馬車で移動するには時間がかかる。
ブルーシートには乗せきれない。
ブルーシートで往復するのが現実的かと相談していたところ。
「みんなの服に飛行魔法を付与すればいいじゃない」
ネグリジェがあっさりとそう言った。
真っ先に反応したのは転移者の女性。
どうやら僕達が飛んでいたのは、僕達のスキルか魔法かと思っていたようだった。
どれに付与するか希望を聞き、結局シースルーのトップスに付与することにした。
今は仮面をつけた転移者の女性が広場で一人で踊っている。
そしてたまに空を飛びながらダンスは続く。
とても絵になるダンスだった。
しかし広場に居るのは僕とネグリジェ、マイアとサーヤだけだった。
イーちゃんと魔装銃士は上空から警戒を続けてくれている。
他の住人達は、服に飛行魔法をかけてもらえるということで、自分の一番好きな服に着替えに行った。
マイアの仲間たちはそんな服は持っていなかったが、他の女性に連れていかれた。
冒険者たちも自分の装備に着替えに行った。
「護衛が必要だろう」
一言そういって。
助けて貰った上についてきてくれるらしい。
「すごい光景ね」
ネグリジェが圧倒されている。
「私も一応そういう服なんだけど、本物は雰囲気が違うわね。
私もまだまだだわ」
転移者の女性も自分が至らないと認識している。
4人の宿屋の家族は普通の服だった。
作業着ではなく出かけるときの服装なのだろう。
少し旅支度の雰囲気が出ていた。
旅のマントに付与してほしいということで、4人にはマントに飛行魔法を付与した。
しかし残りの娼館で働いていた108人、そしてマイアたちの仲間の11人。
合わせて119人は全く違った。
旅の事などは全く考慮していない、本気の娼婦の誘い衣装。
男に脱がされることを目的とした服。
恰好一つで男をひっかける本気の衣装。
素晴らしいの一言に尽きる。
基本はワンピースで揃えられており、飛行魔法はこれに付与した。
「眼福眼福」
冒険者のおじいさんが喜んでいる。
冒険者3人は普通の冒険者の装備だった。
中でもおじいさんの鎧は光って見えた。
ミスリル合金の鎧らしい。
総ミスリルではないものの、貴重な品であることには変わりない。
他の二人は革鎧だった。
ワイバーンの革を使った鎧で、軽くて丈夫な高級品とのこと。
キースとロイはAランク冒険者だった。
3人とも一流の冒険者だ。
3人の冒険者にはそれぞれの鎧に飛行魔法を付与した。
「イーちゃん、後は戦利品だって」
「戦利品、回収します」
所々で家が光っている。
おそらく家の中の物を回収しているのだろう。
僕達は、この町自体を手に入れた扱いのようだ。
馬が5頭連れられてきた。
3頭には鞍が付いており、残りの2頭にはついていなかった。
「鞍になるナノ」
いつの間にかあるチャンが実体化し、そしてサラサラーっと流れて馬の鞍になった。
マイアとサーヤの装備をしていたアルちゃんが。
マイアとサーヤは全裸になっていた。
「ニク殿、ゲートでワンピースをとってもらえないだろうか」
「キャー」
体を隠しもせずに落ち着いて立っているマイアと、胸を手で隠してしゃがむサーヤ。
そして眼福眼福と眺める冒険者たち。
二人のワンピースを取り出すと、その場で着替えた。
マイアはのんびりと気にせずに。
サーヤは急いでかぶっていた。
下着類などの取り出しは、ゲートで場所だけを移動した後は本人に任せた。
イーちゃんの戦利品回収も終わり、今は飛行練習をしている。
初めて空を飛ぶ興奮に、みんな酔いしれていた。
飛行魔法というのはどうやら実用的ではなかったらしい。
極短時間だけ飛ぶようなことができる、という程度らしかった。
緊急連絡が入ったのはそんな時だった。
ブルーシートを操りながら周囲を警戒していた魔装銃士達からだった。
西からたくさんの人間がやってくる。
西には最前線の砦がある。
つまりはまだ兵士がそこに居るということだった。
最前線に詰めているのは500人程度。
国境を守るのには少ないと思うが、これで1年もっているらしい。
町の西側の門まで急いで飛ぶ。
一緒に居るのは僕、ネグリジェ、マイア、サーヤ。
そして転移者の女性と冒険者の3人。
他の人達は広場に降りて、いつでも飛んでいけるように休んでもらっていた。
西から現れる馬に乗った人間達。
どう見ても500人には見えない。
上空から見ても、数千人はいるように見える。
「あいつらなら大丈夫じゃよ」
傍に飛んできた冒険者のおじいさんが気軽に言った。
「あいつらはな、ここから西にあるカルカトリス国の軍隊じゃよ」




