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綺麗な百合には毒がある?  作者: こんのこん
第三章『秘密は必ずお守りください。』
17/26

3-5

 翌日、教室に入るなり、柚乃ちゃんに問い詰められた。

「ねえ、珠ちゃんっ。昨日どうしたの? 保健室に行ってもいないし、メールしても返事ないし、電話しても出てくれないし……心配したんだよっ?」

 それにボクは曖昧な笑みで誤魔化し、本当のことを決して悟られないように、いつもどおりのボクを演じた。

 昨日のあれは、登校してきたボクを驚かせるための仕掛けだったのか、今朝は何も変わったことはなかった。ひとまずはそれに安堵し、ボクは授業に専念することにした。

 当然、集中なんて出来るはずもなかった。

 きっと、周りをよく見れば、犯人が誰なのか気付けたかもしれない。でも、ボクはそうしなかった。だって、このクラスの全員と仲が良いってわけじゃないけど、それでもクラスの誰かがこんなことしてくるだなんて考えたくなかったし、気付きたくもなかった。出来れば、違うクラスの知らない人間が犯人であることを祈りながら、午前中の授業は過ぎていった。

 数学のプリントはとても提出できる状態じゃなく、ボクはプリントを無くしたと言って、先生に職員室まで呼び出されて怒られることになった。

「ねえ、本当に珠ちゃん、どうかしたの?」

 そうして昼休みになり、お弁当を片手にボクの席へ柚乃ちゃんがやってきた。今日の練習は放課後のため、昼の練習はない。

 柚乃ちゃんの言葉に、ボクはまた曖昧な笑顔を向ける。こんなのじゃダメだって思うけど、しょうがない。ボクには、他にどうすることも出来ないんだから。

「そうだぜ、タマ。おまえ、今日ちょっとなんか変だぞ?」

「うん~。体育のとき、思いっきり顔にバレーボールぶつかっちゃってたしね~」

「いや、それはいつものことだけどな」

 柚乃ちゃんだけでなく、円ちゃんや宮帆ちゃんまでボクを心配してやってくる。

「はは、何言ってるの? ボク、いつも通りだよ?」

 だけど、それでもボクは笑うことしかできなかった。

「いーや、絶対変だね。体育の授業はともかく、あたしの目は誤魔化せないぜ?」

 机を合わせてお弁当を置きながら言う円ちゃんの言葉に、柚乃ちゃんも宮帆ちゃんも首を縦に振る。

「ちょっと具合が悪かっただけだってば。もう、大げさだよ」

 四人とも机を合わせ、それぞれ席に着く。そういえば、この四人で机を囲んでお弁当を食べるのって初めてだ。

(なんだ……いい事だってあるじゃないか)

 それにくすりと笑いながら、ボクも鞄からお弁当を出して、机の上に置く。

 そうだ。先輩だって言ってたじゃないか。毒は薬にもなるって。なら、これはきっと薬になるための毒だったんだ。

 ボクには、こんなにも心配してくれる友達がいる。この毒は、それに気付かせてくれるためのものだったんだ。

 そう思い込みながらお弁当を広げ、ボクたちは四人で食事を始めた。

 だけど、お弁当に入っていたたまご焼きを口にした瞬間、

「っ!?」

 ボクは口に手を当て、咳き込んだ。

「珠ちゃんっ!? ど、どうしたの大丈夫っ?」

「っ、ごほっ、だ、だいじょうっ……かはっ……!」

「タマちゃん、これ飲んでっ」

 宮帆ちゃんからお茶を受け取り、ぐっと飲み下す。

 喉が焼けるみたいに熱い。十月の気温で冷えていた身体が、かぁっと火照り出す。

(な、これっ……)

 それがなんだったのかは予想がついたが、今は柚乃ちゃんたちを安心させないといけない。

「っはー、きつかった……。はは、ごめん。ちょっと咽ちゃった」

 笑いながら、手を顔の前で交差させる。

「……なんだよ、びっくりさせんなっての。あたしはてっきり、弁当に毒でも盛られてたのかと思ったぜ」

 口元を少年っぽい笑みで歪めながら、円ちゃんが言ってくる。

「はは……毒なんて……そんなの、あり得ないって……」

 言いながらも、ボクはみんなに気付かれないように、他のおかずを少しずつ解体する。

(毒……そう、毒だ……)

 たまご焼きの中に仕込まれていたのは、唐辛子だった。それも、かなりの量。

 シュウマイの中身を確かめると、そこには同じように大量のカラシが入っていて、隣にあるベーコン巻きインゲンの中にはワサビが練り込まれていた。

「…………」

 ボクはお弁当のフタを閉めて片付けると、席を立つ。

「あれ? ちょ、珠ちゃん……?」

「あ……ごめん、なんかあんまり食欲なくて……ちょっとジュース買ってくるね」

 目を瞬かせる柚乃ちゃんたちに告げて、教室を出ようとする。

 こんなの、三人に気付かせるわけにはいかない。大好きな人たちを巻き込んだりなんて出来ない。

「ちょっと……近衛さん、大丈夫? 顔、真っ青よ?」

 その途中、同じように鈴波さんと机でお弁当を広げていた笹垣さんに呼び止められ、足を止めた。

「あ、本当に真っ青……。近衛さん、どうかしたんですか?」

 振り返ると、鈴波さんもボクの顔を見て目を丸くした。

「う、うん……なんか、少し貧血っぽくて……」

「本当に? 保健室に行く?」

「うん……そう、しようかな……」

 すると、笹垣さんはボクの身体を支えるように肩に手を置いてきた。

「一人で平気? なんなら、私が付き添ってあげるけど」

「あ、ううん。大丈夫……たまにあるんだ」

 言うと、笹垣さんは「……そう?」と言って、手を離した。こういうときだけは女の子でよかったと思う。変に疑われずに済むから。

「ありがとね、二人とも」

「気にしないで。困っているときはお互い様でしょ? 何か手伝えることがあれば、いつでも言ってね?」

 それにもう一度ありがとうと返して教室を出ると、またいつものようにトイレへと駆け込んだ。

「はぁ、はぁ……、――――っ!」

 そうして、さっき食べたものを戻す。吐き出す苦しさと、胸を刺してくる痛みで涙が零れてくる。

(ひどい……誰が、あんなこと!)

 ボクは母子家庭で、母親はほとんど家にいない。だから、お弁当はお母さんの分も作ってあげようと、毎日柑奈と二人で作っている。だから、たまご焼きに唐辛子を入れたり、シュウマイに大量のカラシを練り込んだりなんて、間違ってもありえない。

 どう考えても、他の誰かの仕業だった。

(そうだ……体育……)

 あのとき、ボクたち女子は更衣室で着替えていたから、教室は男子だけだった。でも、男子があんな陰湿なことをしてくるとも思えない。だとすると、体育の授業が終わったあと、誰もいないときを見計らって仕込んだに違いない。

(ひどい……こんなの……っ)

 柑奈と笑いながら、二人で一生懸命に作ったお弁当。

 それを、台無しにされた。

(なんて言って持って帰ればいいんだよ!)

 嗚咽を噛み殺しながら、ボクは自分の肩を抱く。

 こうしてボクの世界はまた、見えない毒で充満し始めていた。

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