第五話 電波的な自称神さま
気づくと俺は暗い空間の、一部だけがスポットライトに照らされる部屋の中に居た。
「あ、はろはろ~」
そこには緑葉学園の女子制服を着た生徒が立っていた。
というか俺のクラスでやたら悪目立ちしていた、銀髪美少女なのに言動が電波な”自称神様”を名乗る女子生徒にくりそつ。
「お前……同じクラスの松神か!」
「はいはーい、どもども松神アイだよ」
なんと彼女はクラスにいたその人だった。
あまり仲良くないつもりなのに、思い出した頃に話しかけてきた印象の良く分からない女子。
「ここは……どこなんだ?」
「天国と地獄の一歩手前だよん」
「…………は?」
なに言ってんだこいつ、ついには電波なクラスメイトが俺の夢の中にまで出るようになったのか。
「というかほんと、ゴメンね! 階段のとこにアンパンの袋落としてピタゴラスイッチ的にシロー君を殺したの、このアイなんだよね~」
「は……は!?」
俺が……死んだ!?
「あ、死んだって分かってない感じ? じゃあ――」
そうして松神から話されたのはあまりにもあんまりな俺の死に方だった。
「まさか好きな幼馴染に自主製作アニメ全否定されたら死んじゃうとか豆腐メンタルすぎるでしょプゲラ~」
さっきお前が殺した言ったじゃん!
というか死んでまで死体蹴りやめて!
「いやでもほんと、死なせるつもりはなかったんだって。本当に申し訳なく思ってるんだって――それに婚約者の君を死なせちゃうなんてほんとやっちまったって感じ」
「ん、んん?」
……突然婚約者とか言って何言ってんだこいつ。
「え? 婚約者のこと聞いてない? ……あ、それは十年後の話だったわー」
唐突な未来のネタバレ! いやまあでも死んだ今は関係ないか。
そもそものこんな電波っ子の発言を真に受ける必要はないだろうし。
「アイは<能力>『神』ってをの持ってるから、まぁ未来とかも分かっちゃうんだけど」
なにその能力、俺のクソみたいなスカウターと比べてチート過ぎない? ……本当なら。
「将来アイとシロー君結婚して子供は七人出来るんだよね~」
子だくさんだな! 色々頑張りすぎだろ!
「だからここで死なれては困るっていうかさー、こうして――」
「んぐっ!?」
そしてあまりにも唐突に彼女に塞がれる俺の唇に俺は目を白黒させた。
「未来の婚約者に本気チューしちゃった! やーんアイちゃんメインヒロイン♪」
「なっ……なっ」
なんてことをしてくれたんでしょう。
生涯最初で最後のはじめてのキスがこんな状況かよ!
「……これであなたの記憶をアイの中に入れることで、アイの時間と命をあなたにちょっとあげたわけだけど」
「えっえっ」
もう俺はまともに言語を喋れていない。
落ち着け、相手はいくら銀髪美少女でも電波っ子だ……いきなりホームルームで神ですとか言い出すヤツがまともなわけがない。
……そう思うとまともじゃない相手に動揺しているのが馬鹿らしくなり、思考がまともになってきた、よしこれでいいぞ。
「やり直すからにはちゃんとアイがメインヒロインになる為に頑張ってほしいよね、うんうん」
「やり……直す?」
「その為には何故か良く分からないけどシロー君は自主製作アニメを作って、それがヒットして最終的にハーレムにならないといけないんだよね、ほんと因果って良く分からないよねえ」
もう本当になに言ってんのこの子! わっかんないよ! ちゃんと日本語で喋ってよ!
「だから『神』権限で『リセット』だよ」
その松神の言葉を最後に意識が遠のいた。
* *
テレビの電源がぱっとつくように唐突に俺の視界は開けた。
暗い世界から目が慣れるようにして周囲の環境を把握出来るようになる。
「…………はっ」
気づくと目の前にはテレビがあり、そして俺の自室だった。
「今までのは夢、だったのか……?」
なんだかよく分からない夢を見ていた。
自分が必死こいて無我夢中に糞アニメを作って、それを幼馴染の愛理に酷評されて、そして直後に俺が事故で死ぬとかいうアホみたいな内容の夢。
そして今目の前に流れるアニメも夢であってほしい……アニメ化されてなければもう一度チャンスが――
「…………でもあれ?」
目の前に流れているアニメはとっくに放送終了した俺の好きなライトノベル原作アニメだった。
こうしてテレビで見るのは二度目になる最終回に違和感を覚えていた。
「再放送……じゃない」
手近なスマホで日付を確認すると三月も二十四日はあのアニメの本放送終了日だ。
ということはマジでアイが言うように時間が巻き戻って……!?
俺はようやく状況を理解したと思うと、部屋を飛び出していた。
そう、もし本当に巻き戻っているのなら――
「なあ由夢! 俺お前にアニメの声優頼ん……で」
ノックもせずに妹の部屋の扉を開けると――妹が全裸だった。
ヤバイヨヤバイヨ




