第三話 愉快な仲間……仲間?
ここで一年二組の主なクラスメイトを紹介しようと思う。
このクラスは文系一般クラスで、文系特進クラスの大学受験ガチ勢の一年一組と違い個性の強い<能力>を持った生徒が集まっているようだった。
「私、ユンデレパートナーの五話単独作監任されたから~」
「僕は演劇解放区十話一人原画だけどね」
「は! 麻衣が一人原画とか調子乗ってんの!?」
「敦子が単独作監とか、本当にキャラデザに寄せれるのかなあ?」
などとディープなアニオタ話……ではなくアニメタ話をしているのが<能力>『芸術的アニメ作監』の岩舘敦子と『ハイパー原画ウーマン』の北金ヶ沢麻衣だ。
どっちもアニメーターであり、能力故に高校生でも業界でバリバリ活躍しているという。
岩舘は天然がかったピンク色のはねっ髪セミロングヘアーに目玉焼きのヘアピンを付けている、どうやら初めて動画を担当したアニメのヒロインをイメージした髪型らしいが俺には良く分からない。
北金ヶ沢は僕っ子黒髪でボーイッシュなショートヘアーで、全体的にスレンダーで中性的な容姿は女子にかなり人気にのようだ。
ちなみにアニメの岩舘作監回はとにかく非常の線の細い絵の統一感が凄まじい反面、キャラデザと大きく異なることも多く賛否ありつつも人気の高いアニメーターだ。
北金ヶ沢原画回は作画も底上げされる上に、とにかく仕事も速く各季節で何度もその名前をクレジットで見る。
……二人のはそもそも能力っぽくないのだが、女子高生が学業兼ね合いで現役バリバリで活躍している時点で異常であり変態染みている。
そのほかには――
「あの監督コキ使いやがって……」
どことなく黒いオーラを漂わせているのはアニメーターの中でも演出畑の椿山紗代。
<能力>は『コンテ職人』で出来はどうあれコンテを切りまくり、一回の季節で百回ほどコンテとしてクレジットされたこともある伝説の変態。
今は”ティータイム勇者”の助監督をしているという最年少監督記録も間近に控えている彼女は、かなりの長身とかなりの長い髪で威圧感が半端ない。
「打ち切りはいやああああああ!」
凄い勢いでキーボードタッチしているのは<能力>『執筆速度光速』を持つ東能代。
話によれば一日文庫本二冊ペースで百万文字規模の文章を書き上げる変態的な執筆速度を誇る女生徒。
というか左手と右手でそれぞれ違うパソコンを扱い別作品を書き上げているのは見ていて本当に変態。
背丈は普通で栗色の小さめのポニテがトレードマークで片目に眼帯を付けている、光速キータッチで手が死んでしまうので常に黒手袋を付けていて見た目が中二病。
ノートPCは文庫本数冊分を書いたらキーボードが死んでしまうので使い捨てせざるえないらしい。
「ここをちょいっちょいっとやって……いい感じいい感じ」
<能力>『多くを奏でる』を持っており、エスパー的なのか原理は不明だが五つの楽器を同時に一人で演奏する変態の深浦穂仁香。
幼い容姿におかっぱながらも際立つ存在の胸部、ロリ巨乳の音楽家ということで業界では腕や容姿ともども注目されている。
動画投稿サイトでは演奏してみた動画をあげれば半日経たずに百万回再生余裕らしい。
「あの……先生。ちょっと甲府に言って来てもいいですか!」
彼女は八森彩<能力>『背景描き』を持ち、よく学校を抜け出し地方に飛び出してはとんでもない出来の風景画を描いて帰ってくる変態。
オサゲ髪で大人しそうな口調と裏腹に、一度描きに行くと決めたら絶対に譲らず中学時代は出席日数がギリギリだったという。
ちなみに彼女の風景画をまとめた本は百万部規模で売れている。
「ほーっほっほ! やっぱり札束ビンタは最高ですわね!」
<能力>……不明。
超金持ちで、更には自分で稼いだ金を事業に出資しているらしい五所川原麗。
とにかく牛のようにでかい乳に金髪ドリルロールというあまりにも見た目が濃い女子生徒。
自分がこの緑葉学園に通うために地下鉄の駅を誘致したという逸話も残る百万ドルポンと出せそうな
変態。
「…………」
<能力>『人の脳内を覗く』というなかなかにチート級の能力の持ち主の鳴沢愛華。
しかし本人はまるで喋らず他人との交流もないため、噂程度ではある。
前髪で目元を隠すようで、非常に地味目な容姿ながら多分相当着やせするタイプ……かなりの物の持ち主だろう。
「へー、そうなんだー」
なんとものんびりとその子の周りだけ時空が歪んでいるんじゃないかと思うほどに天然系な、彼女岩崎野乃は<能力>『繋ぐ』能力を持つ。
この能力も使いようによってはなかなかのもので、物・者……いわゆる彼女に認識できた”もの”でさえあれば繋ぐことが出来るという。
例えば偶然ゲーム○ーイが二台と同じソフトが二つあれば彼女が通信ケーブルの役割を果たしてくれるらしい。
全体的に肉付きの付いたむっちりとした非常に女性的な容姿が特徴でふわっとカールした髪の毛と目元の泣きボクロが特徴的だ。
と、まあ俺が気になった女子生徒なのだが……なんなんだろうこの変態どものクラスは。
ちなみに三十人いるクラスメイトの七割は女子生徒である、肩身の狭い男性陣。
そんな中でこれだけ濃い女子生徒がいるのだから一年二組はカオスである。
しかし彼女たちの中でもとびきり良く分からない女子生徒がいる。
「やー、シロー君。持前の能力でスリーサイズでも見てたのカナ?」
「……いやただこのクラスって濃いなあと思っただけだよ冤罪だ」
「あはは、そっかー。ちなみにアイは八十七・五十七・八十九だよー」
……でけえな。
じゃなくて!
彼女は松神アイ<能力>は自称『神』らしいが本当に良く分からない。
銀髪ロングヘアーは幻想的な雰囲気を漂わすが『アイって実は神なんだよ?』とか入学式当日の自己紹介で言い出してクラスメイトに引かれている。
そんな彼女はあまり他人と話さないのだが、中学校の頃から俺や愛理とは同じクラスであり思い出した頃に俺へ話しかけてくるような間柄だ。
「そういえばアニメ作ってるんだって?」
「ああ、まあな」
「がんばってねー」
「お、おう……どうも」
そして彼女は去り際に「アイの為にも頑張ってね」と言ったような気がした。
……アイの為ってのはどういうことなのか、実は俺のアニメの隠れファンだったりするのか……ねえな。
そもそも出来てもいないもののファンなんてありえない。
そうこうしてクラスメイトを眺めたのちに創作にまた戻る。
俺はこれだけ潤沢にいる人材を無視して、一人でなんとかしようとしたのである。
それが結果俺に最悪の結末をもたらすとはこの時には思っていなかったのだ。




