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第二話 売り上げ至上主義の幼馴染



 俺こと瓜生四朗は緑葉みどりは学園の高校一年生だ。


「えー、まず君たちが自分の意思で選択したこのクラスは”文系”です」


 自分の好きだったライノトベル原作のあまりにあんまりな出来のアニメの放送が終わり、悲しみに暮れていたのが中学卒業付近の三月末。

 そして四月も初めの高校入学式の翌日、文系クラスである一年二組の教室で軽いオリエンテーリングが行われていた。


「文系・理系・体育会系とクラスが別けられていますが、この学校では珍しく自分の持つ<能力>と関係なく各クラスを選ぶことが出来ました」


 いつしか生まれてくる子供に必ず一つは<能力>と呼ばれるものが宿るようになった時代。

 その<能力>は物心つく前に発現し、能力の特性によってある程度の教育が施され、場合によれば制御の方法を教えられまたは能力の制限を課せられる。

 そして学校でも能力によってクラスが振り分けされるのが教育上では普通であり、俺の『見たものの戦闘力を完全予測する』という一応は数学的な計算処理をしているであろう<能力>は本来理数系で理系クラス向きなのだと思う。

 しかし俺の興味があるのは旧来の意味での文系であり、文章を書くことや絵を描くことに自分は興味があり、文学や芸術系だと自然と文系クラスとなるわけだ。

 一方本来の<能力>的には適正とされる理数系はあまり興味が無い、この能力だって別に好き好んで持っているわけではないし。


 だからこそ、この緑葉学園の教育スタイルは俺にとってありがたいものであった。

 自分の<能力>に縛られずに自分のやりたい勉強が出来るというのは、本当に。


「自由な校風ではありますが、公序良俗に則り――」


 さっきから教壇に立って話しているのはこの一年二組の担任こと小林正義こばやしせいぎ……ジャスティス先生やら、または――


「(……小林先生の近い将来の毛根の戦闘力は三万か……やばいな)」


 通称若ハゲ先生。


「(瓜生くん、人の毛髪を勝手に測らないでください)」

 

 げっ!


「(先生……直接脳内に!)」

「(私の能力ですから)」


 こういった具合に『テレパシー』的な分かりやすく凄い能力もこの世界にはある。

 

 ちなみに俺の場合は集中すれば戦闘力の予測されるタイミングも自分の思う通りに出来るし、やろうと思えば一秒後の戦闘力計測をしてほぼ現在の戦闘力を調べることも出来た。

 戦闘力といっても幅広く測れるもので、アニメなら”視聴率”に”メディアの売り上げ”や”本来の意味でのアニメの登場人物の戦闘力”などをパラメーターとして視覚することが出来る。  

  

 しかしこの能力、暇つぶしに使うぐらいしか俺には有用ではなかった。

 もっと違う能力が欲しかった、例えば俺の前の席にいるような――


「よし! 二枚あがった!」


 今絶賛若ハゲ先生が話しているというのに、前の席に居る俺の幼馴染は好評内職中である。

 いや隠してもいないのだが、というよりも教室の全員がそんな感じだったりする。

 ”自由に能力生かすべし!” という校風なので、いわゆる定期試験さえ問題なければ咎められない、内職をするような授業態度も割と許容される、ある意味かなり自由な校風だ。

 ただ定期試験で悪い点を取ろうものなら、留年の未来か一か月規模の徹底的な鬼補習が待っているのだ。


 ちなみに彼女は――


「シロー、ちょっとオーラ判定して見てくれない?」


 彼女は振り返って、それはもう萌え萌えしたアニメチックなイラストを見せてきた。

 ちなみに俺の能力は幼馴染の彼女にはそう呼ばれている、オーラってなんだよ。


「……たぶんそこの服の皺書き足すと売り上げが五〇〇〇上がる」

「ほんと? ……こんな感じ?」

「おっ、売り上げが一〇〇〇〇〇になった」

「やった売り上げキープ! ありがと、シロー!」


 目の前の席に座っている幼馴染は何を隠そう、現役女子高生イラストレーター”AIRI”その人である。 

 小さい頃からやたら絵が上手かったが小学生の半ばで開花、小学校の絵画コンクール総ナメ(何故かやたら上手いアニメ調で)、中学生になる頃には同人誌も描き始め口コミで広がり大ヒット。

 高校一年生になった今では大手出版社からのイラスト・漫画のオファーも絶えない超売れっ子だ。


「……いい加減俺を測定器にして使うのやめろよ」

「えーだって、シローの売り上げ予測完璧なんだもん! 私の絵のクセも知ってるから、ちょっと直すだけで売り上げアップするし♪」


 彼女こと澤村愛理さわむらあいりは『イラストを高速・美麗に描ける』<能力>を持っている。

 アニメチックなのは彼女の趣味であり、描こうと思えばもっとテイストの違うイラストも描けるというが「その絵柄、売れないから」と一蹴された覚えがある。


「そもそも売り上げ売り上げ……もっと大事なものがあるだろ!」


 彼女はいつからか”売り上げ脳”になってしまっていた。

 例え見た目がピンと来なくても売れればオーケー、むしろ俺ストライクな絵を描いても売れそうにないならボツと、すっかり拗らせている。

 創作はもっと自由でいいじゃん、売れなくてもいいじゃん、自分が楽しくて面白いだけでもいいじゃん。

 しかし彼女そんな俺の考えに相反している売り上げ至上主義……まあ俺みたいな測定器が近くにいるからこそ、拗れた可能性も無きにしも非ずなのだが。


「シローは知ってる? ハンバーガーとコーラは世界で一番売れているらしいの、ということは一番おいしいはずよね」

「はぁ? からあげ信者の俺に喧嘩売ってんの? 世界で一番うまい食べ物はからあげなんですけど」 

 

 論点はそこじゃないが反論せざるを得なかった。


「で、そのからあげはハンバーガーより売れてるの? 売れてないならダメ」

「お前……戦争がしたいようだな……!」


 これは戦争である、俺が神と崇める至高の揚げ物料理”からあげ”をバカにしたヤツは腐れ縁の幼馴染であろうが全力で潰す!

 そこで俺はふと思いつく、この俺の能力を使って彼女のことを調べて弄ってやろうと。 

 この一応は美少女イラストレーターで通って、容姿も悪くなく実際に可愛いことには違いないのだが性格が残念な上に――


「……お前の予測したけど、そうか……なんかスマンな」

「っ!? ちょ、ちょっと待って! 今どこ見て言った! ねえどこ見て言った!?」


 俺は涙目の彼女にガクガク肩を掴まれて揺らされている、やめろ酔っちゃうだろ。

 今どきでも珍しいツインテールの髪に束ねた釣り目がちな彼女は――貧乳であった。

 そして予測した結果彼女の胸の将来は……うう、自分でやっておいて悲しくなってきた。


「というかセクハラなんだけど! このスケベシロー!」

「……明言してないから」

「私の目を見て言いなよ」


 なんでもかんでもハラスメントに受け止められるこの時代ってクソだわ!

 ……今回は意図してたけど。


 というかこの貧乳幼馴染イラストレーターに構っている暇などないのだ、俺は春休みに入ってから絶賛創作中であり――


「……というかさっきからシローなに書いてるの?」

「アニメの脚本」

「へー、売れそうだったらあとで私にも見せてよ」


 まったく興味なさげに言いやがってこの貧乳売り上げ厨が~~~~~~!


 愛理の内職云々を言っておいて難だが、俺も好評内職中だった。

 俺は決意したその日から、アニメの脚本とアニメの絵を描いている。

 もともと字も汚いし、絵もうまくはない、それでもどうにかこの手で形にしたかったのだ。

 だから拙くとも俺はアニメを自分で作ろうとしている。

 時間をかけてでも、見える結果が悪いものでしかなくても――



 俺の能力が役に立たなくても、アニメは作れる!



 そうこの頃は本気でそう思っていたのである。

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