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ねえ...覚えてないの?先生  作者: らみゅ
2/5

中編

「え...風邪ひいたの?」


「そうなのよ、でも母さん今日は朝から仕事あるから結城君の面倒あんたみてちょうだいね。材料は冷蔵庫にあるからお昼は自分たちで食べて、それじゃあいってくるわね。」


ある土曜日の朝、学校が休みなのでいつもよりぐっすりと睡眠をとっていたつもりだが、時計は8時を指していた。思っていたより早く起きてしまった二度寝しようと思っていたところに母が私の部屋に訪れたのだ。話によると私の弟である結城が熱を出したらしい。仕事人間の2人に1日中看病は出来るはずもなくその役目は私に託されたのだ。そんな弟とは始めて出会ってからほとんど挨拶程度とかしか関わりがなかったわけだが、いざ看病するとなると気まづくてどうしたものか。とりあえず様子を見に行こうと、私は何か理由を付けていくべくキッチンに向かいヨーグルトに果物を入れたものを持っていくことにした。




結城の部屋の前で抱えたお盆をみて、私は大きな深呼吸をした。何せ始めて弟の部屋に入るのだ。緊張もするだろう、私は少し戸惑いがちに部屋をノックした。「はい...」と少し擦れた弱々しい声が聞こえた。


「あの...風邪ひいたって聞いたから何か食べるもの持ってきたんだけど、入っていい?」


「え...?姉さん?」


まさか私が訪れるなんて思ってもみなかったのだろう、少し戸惑った感じではあったが、せっかく作ったのだ。食べてもらわないと作った意味がない。


「いいけど...」



私は弟の許可がおりるとゆっくりとドアを開けた。最初の感想は、やっぱり生意気だと思った。小学三年生のくせに部屋中に本の山が積み重なっている。それがまだ絵本とか小学校の教科書だったら可愛い。だが、弟の部屋は私でも見ることを躊躇ってしまう分厚い本が積み重なり、本棚には小学生の教科書とは程遠い参考書類。私は期待していたのだろう。弱っている弟に絵本でも読んでお姉さんという感じを出したらもしかしたら弟との距離が縮まると。だがそんな思いも打ち破られてしまったのだ。



「ごめん...汚くて」


弟らしくない、弱々しい発言だった。いつもなら無愛想な顔をして一切こっちを見ようとせず下を向いているのだ。最近だと慣れてしまって私の顔が見たくないのだと勝手に自己完結してしまっているが、そんな弟がこっちを見て話しているのだ。少し驚いたが、熱で弱っているのだろうとあっけらかんに思っていた。長居は弟に申し訳ないと思い私はお盆を机の上に乗せて、後は薬を飲むようにとお水を差し出してそそくさと退室しようとしたのだ...その時ふと私の服をあの弟が引っ張るのだ。「もう少しだけ居て」とまた無愛想な顔で。その時、あんなに生意気な弟が姉を頼っていることに私は嬉しかったのだ。「しょうがないなあ」といって、需要はなかったかもしれないが弟に絵本を読み聞かせた。それは、私の小さい頃からの大好きな話。離れ離れになった姉弟が大人になったときに再び出会うと言う話だ。物語の途中で弟は寝てしまった。寝顔は可愛いんだなっと弟の寝顔を確認して私は弟の部屋をあとにした。




それから、弟との関係は少しは改善したかと期待した私であったがやっぱり弟は無愛想で生意気な少年で、おはよう、おやすみしか会話がない。でも、あの時一瞬でも私に甘えてくれたことは事実であって私はとても嬉しかったのだ。





















そして、母は唐突に言った「離婚することになった」と。

結城の家族と一緒に暮らすこと1年が過ぎていた。私の大学受験が終わると同時に終わってしまった家族。今考えると弟は今高校生だろう。だからかもしれない、男子高校生を見るとあの生意気な無愛想な少年を思い出すのだ。離婚することになった日にも関わらず、弟は普段どうりだった。「最後に何もないのか」と残念に思ったが、弟はふと私に拳を差し出したのだ。何だろうと思ったが、弟は拳に入ったおもちゃの指輪を私に押しつけて部屋に閉じこもってしまった。「最後まで生意気だな」と私は弟に押しつけられたおもちゃの指輪を見つめた。




あれから母は1度結婚したが、私に弟が出来ることはなかった。

弟に貰ったおもちゃの指輪は今も大事に私の部屋の宝物箱に仕舞われている。弟からの最初で最後の贈り物だ。弟はあの性格だからかなり勇気を振り絞っただろう。幼い私はそんな彼の性格なんて知りもしなかったしあえて余り関わり合いを持とうとしなかった。お互いに不器用ながら関係を気付きたかったのかもしれない。どこか冷めた私と不器用な弟。もしまた会えたらいったい何を話すだろう。今なら出来るだろうか、お互いに笑顔で「また会えたね」って。



過去編終わりです。


次は現代に戻ります。

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