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見合いするらしい


 何故こんな場所にいるのだろうか。

「ノエル殿」

「なんだろうか」

「何故このようなことに……?」

「何故だろうね」

 私達は濃紺に包まれた落ち着いた部屋の中で白いテーブルを挟み向かい合って座っている。部屋には私と彼との二人だけ。淡緑のドレスに白のタキシードと礼服をまとって、テーブルには料理が並べられていく。

 私には彼と食事をする理由はない。勿論彼にもないだろう。互いに騎士である立場からして、仕事上の付き合いはあるが、親しく会話をするような間柄ではない。

 現状に違和感を抱く私を置き去りにして、彼は食事の手を進める。

「食べないの?」

「……いただきます」

 納得がいかないが、腹は減っている。久しぶりにドレスに押し込められた所為で余計に。

 騎士になってからはあまり口にすることのなくなった高級食材ばかりが並ぶ。確かに普段食べるものよりも美味しいとは思うのだが、やはり自分には質素な食事の方が合う。こういった豪華なものは彼のようなものこそ似合う。

 ノエル・ヴァレリア、王の護衛騎士の一人である。金色の髪に碧色の目は人一倍目を引き、彼が誰であるのかをたらしめる要素ともなっている。その容姿、そして肩書きに添う実績を持つ彼を女性達は放ってはおかない。彼も持ち余す気はないようで、彼の女性関係の噂は事欠かない。

 一方、私ことリヴァイス・アルヴァニアは王妃の護衛騎士である。彼とは同僚だが、男も退ける屈強の女騎士として知られる私とではあまりにも釣り合わない。

 今日、この場には見合いだと言われて強引にではあったが半ば納得してきている。だからそれらしい振る舞いをするべきだろう。つまり知らないふりして相手の様子を伺う。

 彼には戸惑った様子はなく落ち着いていて、さも当然のように食事をしている。


 私は見合いがあること、相手がノエルであることしか聞いていない。どうやって彼を連れてくるのかは聞いてはみたが答えてはもらえなかった。彼自身が望んで来るとは考えにくいので、何かしらの理由があってのことだろう。彼を貶めるような弱みを引合いに出されてのことであれば家の事情を易々と他家に話せないのも分かりはするが。そもそも彼はこれが見合いであることを承知しているのだろうか。


 ヴァレリアとアルヴァニアでは、うちは断れない。彼はヴァレリアでは三男と家を継ぐ義務はないが、我が家の兄のように放蕩してよい筈はない。心配された上での現状だろうが、だとしても私に話が来たことは未だに腑に落ちない。

 食事をする彼を盗み見る。騎士とは思えない程優雅で堂に入った姿にやはりこの見合いは何かの間違いだと思った。

「リヴ」

「……はい?」

 食事の途中で彼が私の名を呼んだ。だがそれは家族や親しい友人が私を呼ぶ愛称であって、彼が呼ぶ名前ではない。彼はいつも私をリヴァイスと呼ぶ。

 私は混乱した。彼は笑みを浮かべながら試すように何度かその名を呼ぶ。私はその度に「はい」と曖昧な返事を返すしかなかった。

「今日は会えて良かったよ」

 満足したのか、彼は席を立ち去っていった。

「なんだったんだ、一体」

 これは私が試される時間だったのだろうか。

 戸惑いながらも目の前の食事を口に運んだ。


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