結婚するらしい
「今なんと仰いましたか」
珍しく親がどうしてもと言うので話をする時間を取ってみたら、とんでもないことを言い出した。
「お見合いよ、リヴちゃん」
「……何故私にそんな話が」
来るわけがない。私は王妃の護衛騎士であり、リヴァイス・アルヴァニアの名はそれなりに知られている。男にも負けない屈強の女騎士として一部で恐れられていると本人の耳にまで入る始末だ。そんな女に縁談を持ち込む輩が正気である筈がない。
「辞退させていただきます」
「リヴ」
「お父様、私に結婚は向きません」
「そう言わず」
「……何故そんなに私に結婚を強いるのです。お兄様にはそんなに仰らないでしょう」
兄が放蕩であると言うことは知れたことだが、だからこそまず兄に落ち着いてもらうべきだろう。見込みのない私よりも兄の方が幾分か可能性がある。
「もしかして、断れない縁談だと……?」
「そ、そうなのよ!貴方にも関係のある方だし、どうしましょうと思って」
母が挙動不審になった。それを父は呆れた目で見ている。この様子では断れないというわけでもなさそうだが、私に関係のある人物だと言うところに引っ掛かった。
「お相手はどなたなのですか」
「ヴァレリア侯のご子息よ」
「……ノエル殿ですか」
ますますありえない。かの方は女性関係の噂が絶えない。兄と違う点はやるべきことはきちんとこなしている点だろう。だからこそ容姿も手伝い女性は彼に惹かれていく。私を相手にする程困っていないだろう。
彼とは仕事上付き合いはあるが、それ以上でも以下でもない。
「息子に浮いた話ばかりで落ち着かないのですって。うちは諦めてしまっているけれど、あちらはあれだけ完璧だと、期待してしまうわよね」
「お兄様もやればできる方なんですよ……」
「やらないから、困っているのよね……」
親子で溜息を吐く。
「つまりはヴァレリアの奥様は私に女避けになって欲しいと、そういうことなんですよね?」
「まあ、そうなるわね」
「……あまり気は進みませんが、ヴァレリア侯にはお世話になっていますし、一時的であればお引き受けします」
「本当に!?」
「あくまで、ふりと言うことにして下さいね、ノエル殿には秘密で。けれど私で本当に大丈夫ですか?」
正直、彼がすんなりとこの件を了承するとは思えない。何かしら理由をつけて丸め込むことになるのだろうが、果たしてそんな隙があるだろうか。私の心配を余所に母は随分と乗り気なようで親指を立ててウインクして見せた。私は父と目を合わせ、同時に溜息をついた。