釜上海途 2時間目
自習で盛り上がっても
監視の先生がいるのがほとんどです
「自習、か」
黒板には「自習」と大きく書かれているだけで、あとはなにも無かった。
皆はなにも無かったように振舞っていた。
もしかしたら、気付いていないのかもしれない。
隣の席の女子__栄歩美がいないことを。
殆ど教室で、僕の隣の席で一日を過ごしているはずなのだけれど、
初めて彼女の椅子を全て目にした気がする。
いや、あの時は席を立っていたから、二回目か。
でも、あの時以上に僕は焦っていた。
見てしまった。
つい5分前、
彼女が倒れてしまった所を。
そして
そして、
彼女は立ち上がり、一人の女子の襟をつかんで
去って行ったところを。
思い出すだけで汗が出る。背筋がこわばる。
僕を見た彼女の眼は光のあるようでない水色だった。
毛先は外へ丸まり、そこも色が抜けて白くなっている。
それはもう、同じ人間だと信じたくない雰囲気を持っていた。
体温なんて持ってそうに無かった。
「君は……●▲■」
全て聞き取れていたら
僕はもっと恐れたかもしれないし、
少しは安心したかもしれない。
つかまれた女子もまた、クラスメートだった。
冨士原愛菜__同じ班の人だった。
涙を浮かべ、大きく口を開けていたが、声は聞こえなかった。
口の動きから、「たすけて、たすけて、たすけて……かいとくん、たすけて!」
と、いっていたような、気がした。
僕は、立っていることしかできなかった。
怖くて、悔しかった。
「海渡くんって、ビビり?前から思っていたんだけれど。」
「え、え?べ、別にビビりじゃないけど!ってなんで今」
いきなり後ろの結人くんから話しかけられて、背筋がビクッと震えた。
なんて質問だ。
「ふと思っただけ」
「びっくりした……」
相変わらず思っているところの読めないふわふわした話し方で、話を続ける。
「これって、愛菜さんと歩美さんの件でこうなってるんだよね」
「多分」
「歩美さんがやらかすなんて、珍しいね」
「うん」
「愛菜さんだってやらかすような人じゃないよね」
「うん」
「そもそも自習になるほどのことって今まで一度もなかったよね」
「うん」
「んでね……」
視線が下がり、少し僕に近づく。
「海渡くん、知ってるんでしょ?」
「え、え!?何を!?」
「何か」
真剣な顔で見てくる。エスパーか何かなのだろうか。
見たけども。見たけども僕は何も知らない。
「何を見たの?
ビビりじゃないなら、教えてよ
んで、行こうよ」
「どこに!?何をしに!?」
「ん?
歩美さんと愛菜さんの行った所に、
肝試しをしに」
「ふざけんな!」
結人くんは、真剣な顔で見てくる。
今日覚えたこと。
僕はビビりで単純。