釜上海途 1時間目
マクドナルドの略称は
関東では「マック」
関西では「マクド」らしいです
ちなみにマクドは「マ↓ク↑ド↓」と発音します
「あ、あー釜上海渡です、得意教科は体育で、苦手教科は国語です。誕生日は8月28日です。よろしくお願いします。」
苦手な理由は、音読するとき詰まるからです__
標準語って難しい。
標準語が書かれた文章を読み上げるだけならまだしも、
きちんと標準語で一から組みなおすことなんて、本当に難しい。
トーンの上がり下がりなんてまるでない。
ワンフレーズ終わると「くっ」て詰まって、顔が赤くなる。
「海渡、あんた席替えしたんやろ?どうやった?」
「おかん今更それ聞くんかい……新学期入って2週間やで?」
お好み焼きをひっくり返す手が一瞬ぶれた。
それでもすぐに持ち直して、へらを上手く回転させる。
「今日の具はなあ、兵庫、京都、大阪のもんばっかなんやで。
地産地消や。ええやろ?」
「地産地消って、同じ市町村で作った食べもんを使うってことなんちゃうの?まあ同じ県なんやったらまだしも、県境超えても地産地消言うんは……」
「はいはい、もうええ!苦手やねんそういう言葉の細々とした……あの、あれ、なんて言うんやったっけ」
「ニュアンス、やろ」
「そう!それや!もう難しいよなあ、ほんま」
お好み焼き器の温度を下げ、鉄板の上でマヨネーズとお好みソースをかける。
ソースがぷくぷくと泡を作り、甘辛い香りが鼻をつく。
「関西人って、みんな国語苦手なんちゃう?」
「関西人に失礼や」
でも、標準語で話すのは苦手だと思う。
僕だけかもしれないけれど。
それでもみんな空気を読んで、標準語で過ごしているのは、理由があるわけでもなく、
ただ単純に自分を作っているだけなのだと__僕は知っている。
皿に取り分け、青のりを散らして、鰹節をかける。
どれ。
お好み焼きを食べる前に、鰹節をそのまま口に入れた。
唾液をぎゅっと吸い込まれてから、噛むと少しずつそれが出汁となって溢れてくる。
でも、粉がのどに引っかかって、たまらず水を飲む。
僕の好みではなさそうだった。
「あ、またあんた変なもん食って、そんなん食うのあんたしかおらんで!」
やっぱり、これが一番だ。
とろろ昆布をそのまま口に入れて、お好み焼きにもかけた。
今日覚えたこと。
とろろ昆布が好きとは絶対に他人に言ってはいけない。