栄 歩微 5時間目
私は「3分前行動」をよく先生に言われていました。
昼休み終了5分前。
図書室からの帰り際、一人、のんびりと廊下を歩いていた。
5分前となると誰もが教室に向かって走っている。
疲れるだけだろう。
そこまで急ぐこともないのに。
1秒遅れたら宿題倍増とか、説教とかないのに。
ぼーっと歩いていても十分だろう。皆そんなに歩くスピードが遅いの?
がっ と、肩がぶつかった。
ほらほら、急いでるからこんなことになるんだよ。ていうか頭ぐらい下げたらどうなの。素通りって……
ていうか。
っていうか。
走るスピード上がった?
全速力になってない?まだ3分あるよ?
そして__
「はいっ!」
「うわっ、ちょっと、やめてよ!」
「ふふふっ、ぼーっとしてるのが悪いんだよー」
背中を叩いた。
私の背中ではなく、
私が叩いたんじゃなく、
クラスメートの一人が、
ポニーテールの女の子__富士原愛菜の背中を叩いた。
愛菜は叩かれた背中から何かをふき取るように手をこすりつけてから、
「待てー!」
無邪気な笑顔で走っていった。
「喋られなくなる菌が移るぞー!」
「やめて、まだ友達なくしたくないもん!ぼっちになんてなりたくないもん!」
これ自体は慣れているんだけれど、慣れているはずなんだけど。
視界がぼやけて、足から力が抜けて、
貧血持ちでもない健康優良児の私が、ばたりと倒れた。
廊下のど真ん中で予鈴を聞く。
5分前なら、
小走りで急がないと間に合わないこともある。
何が起こるかなんて、誰一人分からない。