栄 歩微 3時間目
席替えは
先生が決めるか
子供たちが決めるか
くじが決めるか
でも殆ど席替えの主権を握るのはくじです
5月1日。
月1で行われる席替えの日が来た。
来た、といっても私にとってはただの学活に過ぎない。
教室は祭りのように騒ぎ立てられているので、休み時間は図書室で本を読んでいた。
「今回はくじな」
「ゴリラ」と称されている担任の一言に、盛り上がっていた教室は一気に冷める。
全てを運にかけて、後腐れのないくじは好きだ。まあ、どうせ誰になろうと何も起こらないと思うけれど。
全員の席が決まった。
やはり皆思わしくなかったようで、肩を落として机を動かしている。
私の席は相変わらず窓辺だったが、最後列ではなく3列目で、小さく舌打ちをした。
どちらにしろこれからの一か月間もそれほど話さずに終わるのだろうから、何も関係ないんだ、大丈夫。
「あ、」
「え」
何か起こった。
机を引きずって私の横につけたのは
「か…海渡くん」
「んあ、はい、そうです、釜上海渡です、これから、1か月間、その、よろしくお願い、します。」
細身の体を震わせながらも深々と頭を下げた。
「うん」教卓へと向き直り国語の教科書を机の上に置く。
返事に安心したのか驚いたのか、顔だけ上げてじっと私を見つめている。
「座らないの?」
「え、ああ、座る、座るよ、はは、は」
おどおどしながら席に着くと、ふう、と息をつき頭を掻く。つい最近あれがあったからとはいえ、さすがに少しムッとする。
全員の席が変わり、教室に新鮮な空気が入り始めるころ、担任はスマホで座席表を撮って言う。
「自己紹介、前列窓側から時計回りに始めて」
新鮮で少しひんやりした空気は一瞬で二酸化炭素に入れ替わる。あちらこちらから届く声は、自己紹介でもなければ順番に対する文句でもない。ただの雑談だ。
「せんせーい、もう私たち6年なんで、自己紹介とかいらないでーす」
「いや、一応ってのは大切だろ?初めて同じ班、同じクラスになる人だっているんだしさ。はいはい、始めた始めた」
「もー、先生ってなんでこう意地悪なんだろーねー」
真後ろから聞こえる。一つ一つの動きに対する音が男子と同じくらい大きいような気がする。
「で、やるの?自己紹介」
「ああ、うん、お願いします」
「栄歩美。得意教科は図工、苦手なのは体育。1月11日生まれ。はい」
「はい!富士原愛菜っていうよ。好きな教科は図工と国語。嫌いなのは算数かなー。誕生日は、4月25日生まれ!次ー」喋るたびに黒髪のポニーテールが揺れる。
「えーっと、加賀結人です。理科が好きで、社会は嫌いです。誕生日はー、えーっと、あ、4月1日。」白い肌に大きな黒い目が印象的だ。目があっちこっち見まわしている。
「最後!?あ、あー釜上海渡です、得意教科は体育で、苦手教科は国語です。誕生日は8月28日です。よろしくお願いします」ぺたんとした髪と少し垂れ下がった眉が本人を物語る。
全員私には一度も目を合わせてくれない。でももう慣れた。これくらいどうってことない。
「今月はこのメンバーで頑張るぞ。ゴールデンウイークも近いが、気を抜かないように。解散」
新しいけれど、新鮮だけれど、見覚えのある1か月が始まる。
机の中からB5のスケッチブックを取り出し、1枚の絵に人を加えた。
『独りぼっちに飛行機が遊びに来るの図』
ポニーテールの女の子は太陽のような笑顔で飛行機に手を振り、
大きな目の男の子の視線は飛行機よりも見守る少女の持つタンポポにくぎ付けだった。