栄 歩微 2時間目
小6の頃
どれくらい言葉を知っていましたか
感情を表に出すことができなくなったのは、何時からだっただろう。
1年生の頃は
運動が好きだった。
2年生の頃は
目立ちたがり屋だった。
3年生の頃は
人に世話を焼いてばかりだった。
4年生の頃は
おしゃべりが大好きで、家に10人くらい集まってパーティーしたりするのが何より楽しかった。
5年生の頃
9人のともだちとお別れして、2人の他人に2か月間煽られてうざいと思ったのでストーカーがいるという名目で校長先生に言いつけて、担任に過保護なほど対応を変えられた。
「いじめ」というのだとその時聞いた。
あなたは今まで傷つくことばかりされたけれど、これからは大丈夫だとも聞いた。
「いじめ」
暴力を振られたり、幼稚な暴言を吐かれたり、椅子に画びょうがあったり、
精神的にも体力的にもつらいものだと解釈していた。
「なんだ、面倒なだけじゃんか。いじめって」
まとわりつかれて、ある事ない事言いふらされて、煽り倒されるだけ。
唯一なくしたものを上げるならば、
ともだち くらいなものだ。
これだけ煽られれば人も寄り付かなくなる。
進級まで軽蔑の眼差しで見られた。
ある事ない事が広がる中で変化して、何もしていなくても印象は悪い方向へ進んでいく。
それでも別に大したことはなかった。
物事はそつなくこなせた。
1人じゃ出来ないことも過保護な担任が助けてくれた。
そして、
私から「寂しい」が消えた。
1人でも別に良かった。
1年前は寂しさに溺れて何をしたかなんて想像もつかないけれど、
今は大丈夫だった。
この間に起こったことといえば、
「いじめ」らしい被害を受けたことぐらい。
たった2か月まとわりつかれただけでも、そのズレは広がっていき、大きな穴となる。
穴を作ることは簡単でも、埋めることは面倒くさい。
そう、面倒くさいんだ。
「寂しい」が消え、「面倒くさい」が存在感を増す。
廊下に出るのが面倒くさい。
席を立つのが面倒くさい。
人と話すのが面倒くさい。
笑うのが面倒くさい。
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考えを進めていくと所々が繰り返しになって、
だんだんイライラしてくる。
頭は混乱しないけれど、心が乱れてくる。
面倒くさくなってくる。
ああまた繰り返しだ。
もっといろいろな言葉を知っていればこんなことにはならないのだろうけれど、話さないから言葉を知る必要もない。
悲しい。
久しぶりに悲しくなって、そんな気持ちが生まれたことに嬉しくなった。
B5のスケッチブックをめくり、一枚の絵に手を加えた。
『独りぼっちに飛行機が遊びに来るの図』
飛行機を見守る少女の眉は少し垂れ下がっていた。