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令嬢の旦那様は魔王だった  作者: ワルイコ
10/10

魔女

 十年近くに及ぶ漂流だった。

 親友ができ、親友は死に、家族は死に、大切なものは無くなった。

 猫人族ウェアキャットのノイも死に、兄様も死に、父上も死んだ。

 彼らは私の中で生き続けている。

 兄様は……私の右腕となり生きている。

 血肉が削られるほどの戦いだった。

 戦争と言ってもいい。

 歴史書には書かれない、裏の歴史の戦いだった。

 最後まで立っていた者が勝者なら、私が勝者なのだろう。

 勝った時に寂しさしかなかった。

 誰も称えてくれる者はいなかった。

 ――日陰は光りがそそがれないまま終わる。


 戦いの代償は右腕だった。

 そして――私は兄様の右腕を、私の体を融合させた。

 私は合成獣キメイラとなった。

 旦那様に血肉を捧げたのに――私は生きるために兄様の肉体を受け入れた。右腕が無くなったときに、多くの思い出が削られたような気がした。

 実際に記憶は薄れた。

 母上も合成獣キメイラになったときに記憶を削られ、人格が混沌としてしまったのだろう。右腕だけでも影響は強く、時々何をしていたか分からなくなるほどだ。

 それでも私は戻ってきた。

 旦那様が私をどうするか分からなかったけど、死ぬとしても旦那様の手で死ねば本望だった。人間と魔物の寿命は違う。私は老けたけど、旦那様は昔のままの美しさを保っているだろう。

 それでも良い……なのに……なのに……。

 あの崖に、異世界への道は無かった。

 季節が変わっても、私は待ち続けた。

 そして――蝕が訪れた。

 普通の日なら通れないかもしれないけど、蝕なら通れるはずだった。

 だけど――そこにあるのは闇だった。

 圧倒的な闇。

 何もかもが無い闇だった。

 そして思い出した。

 ノイが最後に言った言葉……。

「魔王が闇に飲み込まれた」

 そう言っていた。

 確かに言っていた。

 遺言のような言葉を、私は忘れていた。

 これも右腕が無くなった影響だろうか。

 そう……なのだろう。

 母上が狂気に堕ちた様に……。

「私の愛は捧げたのに」

 私は旦那様の真名を呼んでみた。

 もしかしたら召喚できるかも知らないと思った。

 でも不可能だった。

 だけど、闇を見つけることができたら、呼びかけることができるかも知れない。

 闇を見つけないといけない――。

 闇を見つけるのは何十年もかかるかも知れない。

 見つけることができない事象かもしれない。

 それでも見つけなければならない。

 ……愛をあげたから。

 10年近く前の愛では足りないだろうから。

 私は再び会わなければいけない。

 血肉の寿命が尽きるかもしれない。

 骨髄も、心臓も、脳も老衰するかも知れない。

 記憶も血肉さえ更新されるかも知れない。

 私は私で無くなるかも知れない。

 私は手帳に、私である情報を書き込んだ。

 これで記憶が無くなっても、私の愛の在り処は消えることは無いだろう。

 私は闇を探す旅に出た。


 それが何万時間前か、私には分からなかった。

 血も肉も変わってしまった。

 本当の顔すら分からない、脳も変えてしまった。

 私に残るのは手帳の情報だけだ。

 記憶は無い。

 本当の私は、闇に消えた旦那様――アルルカンの中にあるのだろう。

 闇を探さなければならない。

 私を取り戻すために……。

 愛が素晴らしいものか分からないけど、闇の中に光りがあると信じている。

 そのためには、私は何でもするだろう。

 その果てに、愛を教えてくれた人がいるから……。

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