のどかな風景、ぶち壊し?
「あれが、わたし達の村よ」
森を抜けると、そこには絶景が広がっていた。
マーサちゃんの指差す先。
ここから少し下って窪地になった場所に、一面煌く黄金の海があった。
もちろん、水でなければ本当の黄金でもない。
傾きつつある太陽でキラキラ輝くそれは、おそらく麦に似た植物なんだろう。
深緑の草原から、水路と柵を隔てて金へと切り替わるコントラスト。
日本ではあまり見られない光景に、俺は目を奪われる。
思わず歩みを止めてしまいそうになり、マーサちゃんが不審そうな顔をする。
まあ、彼女にとっては見慣れた光景だろうしな。
風に揺らめく金の波間を越えると、不意に黄金の海が割れ再び緑色の陸地が見える。
畑の中心、区切られるように水路と柵に囲われたそこは牧草地だろうか。
数頭の四足歩行する影が、あちこちに佇んでいる。
畑より少しせまい牧草ゾーンを抜けた先、そこが村人の居住区のようだった。
可愛らしい三角屋根の家が、小さな円を描くように10件程並んでいる。
夕飯の時間が近いのだろうか、殆どの家の煙突から小さな煙が出ていた。
赤、青といった玩具みたいな屋根が並ぶ中、ひときわ目立つ黒い建物に気付く。
他より一回り位大きいドーム状の建物。
全体が真っ黒なそれは屋根辺りから煙突を生やし、モクモクと煙を吐き出している。
なんだろう? 工場か何かだろうか?
さて、そんな建物群に囲まれた村の中央部。
広場になっているそこに、甲冑姿の騎士が3名居た。
剣のような物を振り回し、戦っている騎士2名。
すわ、揉め事かと思ったが横で突っ立ったまま、止めようとしていないもう1名に気付いた。
よく見ると1名が大振りに振るう剣を、もう1名が苦も無く受け流している。
反撃も攻守交替も無いようだし、どうやら剣の訓練か何かをしているようだった。
それにしてもと、村へ向け歩きながら思う。
俺ってこんな目が良かったっけ?
覚えてないだけで両目5.0だったりしたんだろうか?
そんなわけ無いだろうと心で一人ツッコミ。
ずり落ちそうになった、絶賛熟睡中のテプタちゃんを背負い直す。
しかし、あの村の家、ほんと玩具みたいだな。
屋根の色とかもそうだけど、大きさもすごく小さい。
いや、日本の住宅と比べてとかじゃなくて。
ものすごく屋根が低い。
平屋だからとかの問題じゃない。
そもそも、騎士の方が屋根より頭一つ高い時点でおかしい。
この村の人は、家では匍匐前進で生活してるんだろうか?
それとも地下に半分以上、部屋が埋まってるとか?
俺のそんな疑問は、畑を越えた辺りで瞬く間に解消された。
うん、騎士がでかいだけだったね。
俺の目が良くなったんじゃなくて、縮尺が狂ってたんだね。
デッサンとかバースとかそういう問題じゃないけどさ。
屋根より高い騎士の背丈に、頭が痛くなってくる。
とりあえず、別の方向を見て落ち着こうと、草を食んでいる生物を眺める。
一本角に一つ目のそいつは、俺の方を一瞥して『ンマァ~』と鳴いた。
そうか、うまいか。
……駄目だ、見てたら石化しそう。
現実を受け入れて視線を騎士達に戻す。
攻守を交代したんだろう、今度は緑の騎士が灰の騎士へと攻撃を加えていた。
そしてそれを見詰める、もう1名。
3名の騎士の中で、そいつは特に異様な姿をしていた。
カーキ色っぽい胴体に緑の左腕、青い頭に橙の脚。
めちゃくちゃな全身のパーツ色と、それ以上に異様な右腕。
真っ赤に染まったソレは、左腕より二周りほど大きい。
直立の体勢で拳が地面に触れており、肩は騎士の頭より二つ大きかった。
バランス悪すぎだろう。
というか、こいつらは何なんだろうか?
巨人とかゴーレム?
妖精が居るんだ、そんなのが居てもおかしくない。
まあ疑問に思ったら『鑑定』だろうと、右腕がでかいのを調べてみる。
機体名:クラン・ウォーラン 所属:『銀の陽光』
攻撃:B 耐久:B 速度:E 大きさ:C
装備:帝国製107式特殊装甲、岩盤破砕用特殊腕、3式魔導槍
呪文:雷撃、風刃
搭乗者:ガミディア=センブレップ
え? 巨大ロボなの!?