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これは俺の仕事じゃない!

12/3 誤字修正

木立から顔を覗かせたのは、赤茶の髪をした少女だった。

歳は俺と同じか1つ下位だろうか?

かすかにそばかすの浮いた、可愛らしい顔だち。

首から下がって揺れる木製の厳ついペンダント2つが、逆に素朴さにアクセントを加えている。

幼女も将来に期待したい位の美人さんだけど、彼女もまた違った魅力がある。

植物で例えればランとヒマワリ、とでも言おうか。

あるいは腕の中の幼女を、漫画雑誌の扉を飾るアイドルとすれば。

悪友と囲んで見ていたそれを、もうすぐ授業だからと取り上げるクラスのアイドル。

目の前の少女はそんなイメージである。

まあ、何で熱く語っているかというと、ぶっちゃけ俺の好みなんだ。

幼女?

俺はロリコンじゃないしな。

最初から見えてる勝負だったね、幼女すまん。


さて、笑顔の似合いそうな少女の顔は現在、引き攣った形で固まっていた。

当然だよね。

妹ではなさそうだけど、見知っているであろう幼女が全裸の男に抱かれているのだ。

いや変な意味ではなく。

日本では即通報、アメリカだと射殺されてるかも知らん。

こちらでの扱いも似たようなものだろう。

急いで誤解を解かなきゃ、変態の誘拐犯に強制転職させられる。


「て、テプタ様を放しなさい!」


そう叫びながら、少女が木立から飛び出してくる。

黒っぽい上着に深い茶のスカート、髪と同色の肩掛け。

勇気を振り絞ったのだろう、武装らしき物は何一つ持っていない。

首から下がったペンダントの1つを握り締め、健気に震えている。

何かすごく申し訳なくなってきた。

彼女を刺激しないよう、どうにか説得しないと。


ん? 女の子の周りに何か光が集まってる?

この感じには、覚えがあった。

やっぱり。

女の子の手の辺りに、小さな魔法陣が形成される。

そこから光る物体が飛ぶと同時、幼女を片手でしっかり抱え飛びのく。

同時に今まで立っていた場所からバチャリという音。

水を撃ちだしたのか?

突然動いたのが楽しかったのか、幼女が笑いながらギュッとしがみついてきた。

左胸の辺りに幼児特有の柔らかさと熱さを感じる。

そして、それを険しい顔で睨む女の子。

あれって絶対、ロリコンの変態を見る目だよね?

違うんだー、誤解なんだー。

そんな事を考えつつ『鑑定』発動。



名前:マーサ 種族:人間

職業:村人、農民 年齢:14

筋力:D 体力:D 速度:D

精神:C 知性:C 知識:B

魅力:B 体格:E

才能:カリスマ

技能:体力自動回復・小、家事、農業知識、紋章学初級、速読、努力家、魔道具作成

呪文:水妖、石弾



名前と年齢がやっと仕事したとか、色々思う所はある。

けど、今注目すべきは別の場所だ。

戦闘に関係しそうな技能は体力自動回復位か。

才能、カリスマの効果が不安だが、直接的な脅威になる物じゃなさそうか?

そして呪文。

少女が現在使える呪文は2つ、水妖と石弾だ。

さっき撃たれたのは、水妖の方だろうか?

石弾はなんとなく想像できるけど、水妖は字面で効果の予測がつかない。

再び魔法陣が現れ、少女の手元から水の玉が放たれる。

なんなく回避に成功するが、チャージ速度が早い事に焦る。

というかステータスで見る限り、ほぼノータイムじゃないか。

魔法だけで見ると犬より強いかも知れんぞ、この村人。

だがいくら連射しようと、発動にラグがあるので回避は余裕だ。

よし、このまま近づいて幼女を押し付けよう、そして逃亡するんだ!

目の前の少女とお近づきになれないのは惜しいけど。

あ、情報的な意味でだよ?

けどまあ、変質者認定された時点で望み薄だしねー。

……あくまで、情報収集的な意味でだよ?


撃ち出される水を回避しながら少女に近づく。

と、不意に足をむんずと捕まえられて、俺はよろけた。

慌てて足元を見ると、そこには俺の左足首に絡みつく透明な液体があった。

スライム? 新手の魔物が現れた?

違う、水妖の効果か!

足首を引き抜こうとするが、水が絡まり離れない。

そうしている間にも右足と右腕に一発。

足は地面に縫い止められ、腕は体にくっ付いてしまう。

唯一自由な左腕には幼女を抱えている為動かせない。

あわれ、俺は全裸でスライムに緊縛されてしまった!

誰得だよ!


「今です、テプタ様、離れて!」


先程のとは違う魔法陣――おそらく石弾だろう――を展開しながら少女が叫ぶ。

それに対し、幼女は眉根を寄せて頬を膨らませた。


「やぁー!」


幼女の拒否と同時だった。

俺に纏わり付いていた水が、バシャリと地面に落ちる。

同時に、少女の展開していた魔法陣が四散した。

少女の驚愕も気にせず、幼女は俺にしがみつく。


「ママ!」

「だからママじゃないって……」

「お母さん!」

「天丼かよ!」


俺たちの様子をしばらく見ていた少女は、やがて溜息を吐くとこう言った。


「えっと、少しよろしいでしょうか?」





「本当に、ごめんなさい!」


戦闘終了から少し後。

俺はようやく事情、水浴び中に幼女が飛び掛ってきた旨を説明し終えた。

もちろんすでに全裸ではない。

幼女が纏わりついて大変だったが、なんとか服を着直していた。

俺は露出狂の変態ではないのだ。


「い、いや、分かってもらえれば大丈夫だよ」


誤る少女にしどろもどろになりながら、俺は答える。

仕方ないだろ!

他人との、それも好みの美少女との会話は、記憶失くしてからは初めてなんだよ!

記憶失くす以前に美少女と会話してた自信はないけど!

あ、幼女はノーカンな。


「でも、なんでこんな所で水浴びを?」

「実は道に迷ってしまってさ、化け物にも襲われるし、ほんとついてないよ」

「化け物って、もしかして魔風狼に襲われたの?」


まふーろー?

あの犬もどき、そんな名前だっけ?


「たしか、インカジヌって名前の奴だったよ」

「インカジヌ……」

「お母さん!」


しばらく放って置いたからだろうか。

幼女が頬を膨らませ、俺の肩をポカポカと殴ってくる。


「だから、お母さんじゃないんだって……」

「もしかして、エルク語がわかるの?」

「はい?」

「テプタ様と会話してるみたいだから」


どうやら、幼女は妖精語みたいな物を喋っているらしい。

【異言語理解】の所為で全然気付かなかった。

誤魔化した方がいいのかな?


「少しだけね。うちの祖父がエルク語を研究してたもんだから。

 妖精と会話するのが夢だったみたいでさ」

「そうなんだ、すごいねー」


顔すら分からない祖父に電波な濡れ衣を着せてしまった。

すまない、じいちゃん。


「あ、そろそろ行かないと、日が暮れちゃう」


まだ明るい気もするが、少女がそう言って立ち上がる。

……森はすぐ暗くなるし、日が落ちる前に戻らないといけないだろうしね。

別に俺から離れたいわけじゃないよな、うん。

少女の、そろそろ帰りますよという言葉に、幼女は首をブンブン振って俺にしがみつく。

なんでこんな懐かれてるの俺?

明日からベビーシッターに転職するか?

ガラじゃないし、絵面が犯罪的だから却下か。


「あの、もし良かったら、うちの村に泊まらない?」


突然の誘いに困惑する。

俺、フラグなんか建ててたっけ?


「テプタ様もあなたに懐いてるみたいだし」


ああ、そういう事ね。

俺が一緒じゃないと動かなさそうだしね、この子。

二つ返事でオーケーして立ち上がると、幼女が素早く俺によじ登る。

クスクス笑ってないで助けて欲しいけど、絶対体から離れないだろうしなあ。

はやく村へ向かおうと、少女の先導で歩き出す。


「あ、ごめんなさい。わたし、マーサっていうの。

 その子は村の守護妖精でテプタ様。

 あなたの名前は?」



ですよねー。

どうしよう、記憶喪失の事正直に言おうか?

でも、祖父の研究とか言っちゃったし、名前だけ忘れても不自然だし。

何か適当に名前を言わなきゃ。

スズキイチロウ? ヤマダジロウ? タナカサンダユウ?

ジョンスミスとか、ナナシノゴンザエモンとか……ああ、もうナナシでいいや!


「な、ななす、です」


噛んじゃったよ、恥ずかしい!

思わず、頭を抱えて悶絶する。

マーサちゃんは俺の行動に引きながらも、笑顔で返してくれた。


「ええっと、よろしくナナス君」

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