自己評価って案外むずかしい
11/24 技能に抜けがあったので加筆しました
11/30 誤字修正
と言う訳で水辺にやってきました。
いやあ、森沿いを適当に歩いても見つからないから、どうしようかと思ったよ。
やっぱ木に登ってみて正解だった。
木の間にキラキラ光る物を見つけた時は、思わずガッツポーズしたね。
前良し、後ろ良し、左右良し。
一応周囲を確認、魔物どころか人っ子一人居ない。
森の中にある小さな池へと近づくと、俺は水面にそっと手を浸した。
うん、気持ちいい。
手を洗い、顔を洗う。
思ったより水は綺麗で、水深もそれほどではなさそうだ。
次に服も脱ぎ捨て全裸になる。
黒ローブ水に浸しもみ洗い。
血が滲み池へと流れ出すが、魚の群れがそれに反応して暴れるとかもない。
大丈夫そう、かな?
安全を確認した俺はゆっくりと水につかる。
そして、右腕の傷口を洗おうとして、傷が無くなっている事に気が付いた。
それどころか全身の傷が消えている。
うん、なんとなく気付いてた。
歩いてる途中から痛みが消えてたしね。
これもチートかな? でも、『無敵』とかじゃなくて『体力自然回復』か。
勿論ありがたいですよ、はい。
さて、ある程度水と戯れた俺は、池に浸かったまま水面へと視線を向けた。
お待ちかねの顔面チェックタイムである。
記憶喪失だから仕方がないとはいえ、自分の顔すら分からないのは不安すぎる。
例えば、俺がその辺で魔物かなんかに襲われている美少女を助けたとしよう。
その後『きゃーすてきー』となるか『ありがとう、あなたいい人ね』となるか。
その鍵を俺の顔面は握っているのだ。
ちなみに最悪のパターンは警察通報な。
体を洗っている時にチラチラとは確認していたが、改めて水面を覗き込む。
……うん、普通だな。
こんな顔だったかって感じ。何の感慨も湧かない。
日本人らしい黒髪に肌の色。
目、鼻、口は可も無く不可も無くで平均的な感じに収まっている。
もっとイケメンだった気もするんだけどなー、気のせいかー。
なんていうか見た目は草食系って感じだな。
犬とのバトルで、中身だけ肉食系にクラスチェンジしてる可能性もあるけど。
もう一回マジマジと観察してみる。
なんか、クラスの背景に居そうな顔だな。
あ、ピアスが穴ごと無くなってる。
結構気に入ってたんだけどな、あれ。
そんな事を考えながら、ピアス穴の消えた耳たぶに触れる。
待て、何か思い出せてる気がする。
そうだ俺がいつも身に着けていた、蝶形のピアス。
俺の、唯一の親友から貰った……
『フッ……我が半身、運命の特異点にして因果で結ばれた同胞よ。
今宵、貴様の聖誕祭の為用意した、この耳飾りを受け取るがよい!
見よ。この黒き二対の翅を。運命という名の蝶すら支配した貴様にふさわしい……』
「いやいやいやいや」
何この邪気眼ソウル溢れるセリフ。
え、マジでこんな事言われてたの、俺。
ていうかこれが唯一の親友?
友達は選べよ……と考えかけて頭を振る。
記憶に無いとはいえ俺が、過去の俺自身と親友を否定するのは悲し過ぎるだろう。
それに唯一の親友とやらがあれって事は、俺ももしかすると……
いや、やめておこう。
そんな事よりもう1つ確かめたい事がある。
実はここまで来る道中、色々な物に『鑑定』を行っていた。
そこらに生えていた雑草を手始めに、空を飛ぶトカゲのような生物。
落ちていた何かの糞や、草陰から尻尾だけ出した黒い影。
雑草は植物名らしき物のみで、動物の糞は糞とだけ表示された。
けど、飛行生物は結構距離があったにも関わらず、
【ソウジムヤトゥルヌ】とステータスが現れた。
逆に草むらの尻尾は結構近づいたにも関わらず鑑定不可。
首根っこを捕まえた辺りでやっと、【エンチュニン】とステータス表示された。
ちなみに虎っぽい模様をした、ウサギとネズミの相の子のような動物だった。
まあ、色々と実験をして俺は1つの仮説を立てたわけだ。
『鑑定』は対象の全身か、少なくとも頭が見えてなきゃ駄目なんじゃないだろうか。
という事で俺の顔が見えてる状態で、俺を『鑑定』してみる。
これで【池】とでも表示されたら大笑いだな。
お、何か出た。
名前:IR$$PDEX#,Sh→ 種族:魔人
職業:なし 年齢:不詳
筋力:B 体力:C 速度:B
精神:A 知性:A 知識:F
魅力:C 体格:C
才能:なし
技能:【悪魔の瞳】、【根源の刻印】、【異言語理解】、体力自動回復・中
呪文:風刃
突っ込み所しかないんだが。
まず魔人って何?
俺ってばいつから人間辞めてたの?
そんな重要な選択、した覚えないんだけど。
ステータスはまあいい。
一箇所のFが気になるが、知識だし記憶喪失を加味してって事だろう。
それより名前だ。文字化けしてるんですが。
そこまでして名前を俺に教えたくないのか?
あと技能。
体力自動回復は分かる。
ついさっき、恩恵を確認した。
【異言語理解】も分かる。
よくありがちなアレだろう。
けど【悪魔の瞳】と【根源の刻印】って何だ?
【悪魔の瞳】は魔眼とか邪眼とかの類?
【根源の刻印】は更に分からん。
てか字面が、二重の意味でヤバい。
代償が要りそうな雰囲気と中二臭さ全開でヤバい。
脳内で顔も思い出せない親友が高笑いしている。
あと、ついでに風刃。俺も使えたのか。
それとも、使えるようになった?
まあいいや、さっそく試し撃ちしてみよう。
風刃! 悪魔の瞳! 根源の刻印!
また何も起きねえのかよ!
今度は声に出して……
「風刃! 悪魔の瞳! 根源の刻印!」
しかし何も起きない。
魔法陣すら出ない。
「ウインドブレード! 石化の邪眼! 根源刻印発動!
忍法かまいたち! 眼からレーザー! マッドスタンプ!」
駄目だ、やはりアレをするしか無いのか?
仕方ない。親友、俺に力を貸してくれ!
脳内の幻影がサムズアップする。
ああ、俺はやるぜ!
左目を押さえポーズを決める。いくぞ!
「くっ、【悪魔の瞳】の封印が!【根源の刻印】が解ける?
させぬ、喰らえ【風刃】!!」
ふふ、決まった。
不意にガサリと音がした。
見ると不自然に木立が揺れている。
やばい、聞かれた。黒歴史級のセリフを聞かれた!
相変わらず高笑いする脳内親友を、心で殴って黙らせる。
動物か、この際魔物でもいい。人間じゃありませんように。
その願いも空しく、木立から出てきたのは一人の幼女だった。