表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/26

大草原と俺、あと犬

記憶喪失。

聞いた事はあるけど自分がなるとは思っても見なかった。

テレビや漫画だとよくある設定だけど。

まあ、具体的な番組名とかタイトルは出てこないんだけどさ。

そういう記憶は残ってないって事なんだろう。


とりあえず、自分について思い出せる事をまとめると


性別:男

職業:高校生

年齢:飛び級留年してない限り15~18

人種:日本人、だと思う

家族:両親は不明、妹が一人


これだけ、か。

ここが何処かも分からない、自宅が何処かも分からない。

それどころか自分が誰かすらも分からない。

正直、心が折れそうだ。

せめて、人がいる所で記憶を失って欲しかった。

というか記憶喪失にならないで欲しかった。

そもそもこんな所で何をしてたんだ、記憶なくなる前の俺。

しかもボッチだし。服もどことなくダサいし。

妹さんが悲しむぞ。いや、なんとなく笑われそうな気がする。鼻で。

まあ、これ以上ディスっても俺が傷つくだけなのでやめておく事にして。

生き残る為に努力してみましょうかね。



というわけで歩いています、草原を一人テクテクと。

いやあ、生きる努力とかかっこよさそうな事を言ってはみたけれど。

できる事といえば、移動と人探しぐらいという悲しい現実しかない。

とりあえず、遠くに見える森らしき場所へ向かってみている。

そこ以外に向かったら、何も無さ過ぎて遭難レベルの大草原だし。

……現在絶賛遭難中な気がするのはともかく、森に向かう理由はもう一つある。

木がたくさんあるなら、それをご飯の種にしてる人もいるよねっていう淡い期待だ。

木こりとか? 狩人とか? あとは、人に言えないものを遺棄してる人?

ともかく誰かしら居ればありがたいけど。

まあ、森に入ったらそれこそ遭難しそうだし、たどり着いたら外周沿いに移動する事にしよう。


てか俺、現状どれくらい歩いたんだろう?

さっきと比べて森はだんだん大きくなってるから、それなりに進んでる気がする。

けど、そんなに疲れた感覚もないし、距離があるってのは錯覚で結構近かったのかも。

こういう時、時計が無いと不便だ。

そう、今、俺は時計を持ってない。時計どころかPDI端末も財布も無い。

もしかして、俺は海外旅行をしていて強盗にでもあったのだろうか。

それでもって文字通り身包みはがされて放り出され、ショックで記憶喪失と。

弱っ! メンタル弱っ!

さすがにそれは無いと思いたいけど、可能性が一番高そうなんだよなぁ。



突然、ガサリと音がした。

草が大きく揺れる。

正面の草むらから出てきたそれと目があった……犬?

それは灰に近い毛並みをした、目付きの鋭い大型犬だった。

正面に1頭、右と左に2頭づつ。計5頭。

ラブラドール並のでかさで尻尾は無い。

全員こっちを睨みながら唸っている。


どうみてもあれだ、野犬だな、うん。もしくは狼。

ちょっと待って神様、マジでシャレになってない。

大型の犬だか狼だか5頭って、本気で死ぬから!

飼い主の方、いらっしゃるなら早く取り押さえてください!

ああ短い人生だった。記憶無いから走馬灯すら流れねえし。

目をつむり痛みに備える。

お犬様、狼様せめて痛みを感じないよう、甘噛みで殺してください。



あれ? なかなか痛みがこないな。

そうか、甘噛みで昇天したか。ならここは極楽か。

なんかイヤらしい響きだよな甘噛みで昇天。

そんなわけはないなと恐る恐る目を開ける。

相変わらずそこには5頭の獣。

だがよく見ると、こいつら皆震えてる?

尻尾も、無いわけじゃなくて後ろ足の間に挟んでるみたいだし。


「驚かすなよ、もう」


明らかにこっちに怯えている。

そうだよな、熊だって普通は人間の気配で逃げるとか聞くし。

野生生物がみんな襲いかかってくるわけないよな。

そうと決まれば話は簡単だ。

このままゆっくり後ずさって離れよう。


「大丈夫だ。これは不幸な、出会い頭の事故だった。

 お互い手を出す気がないなら、俺達は平和的にサヨナラできるはずさ」


つくづく思う、平和的でいいなぁ。

理性と話し合いで解決できるのが人間の素晴らしい所だ。

人間万歳、お犬様、狼様万歳。これからの人生、犬を大切にすると誓うよ。


「あれ?」


獣達の様子がおかしかった。

鼻をヒクヒクさせたかと思うと、丸めていた尻尾がピンと立つ。

狙いは外さんとばかりに、5頭ともこちらをしっかりと睨みつけている。

これって臨戦体勢って奴じゃね?

と、不意に空気を震わせるような咆哮と共に犬だか狼だかがもう1頭、降ってきた。


何コイツ、体から木の枝っぽいのが生えてるんですけど。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ