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今回の反省をしよう、生きてるから

目を開くと、そこには見知った天井があった。

色合いはもちろん、シミの数まで知っている。

村長宅の俺の部屋で、俺はベッドに寝かされていた。

起き上がり窓の外を見る。

太陽は定時で帰ったみたいで、空には星が瞬いていた。


ボロ負けだったね、うん。

ボロボロ過ぎて悔しさも感じないよ。

試合形式の決闘だったから、命に別状もないし。

体の傷も、もう治ってるみたいだし問題ないね、ワッハッハ。

ゴメン、嘘。めっちゃくちゃ悔しい。

泣きたい気分になる位悔しい。

大声で喚きながら、外に飛び出さないだけマシって位悔しい。

次、彼に挑んだ時、どうやって勝つか真面目に考える位に、悔しい。

今回は負けた。

負けたけどルール有りの試合だったから、死んではいない。

死んでないから、俺はこの敗北を次に生かせる。

だから、涙は流さない。

頬を少し伝ったこれは……単なる冷や汗だ。泣いてない。

第一、高校生にもなった男が泣いても絵にならないしな。



さて今回の戦い、俺には相手の剣捌きが見えていた。

見えていたんだけどな。

まさか、腕を掴んで投げられるとは思わなかった。

有るとしても、鍔迫り合いでバランスを崩されるとかだと思っていた。

やっぱ技術の差が大きいわ。

技能じゃなくて技術ね。


例えば今回、俺は【体力自動回復・中】という技能でゴリ押ししたわけだけど。

それに対してガミディアさんが使ったのは、【剣術】と【格闘術】だ。

それも単発ではなく、臨機応変に組み合わせて使っていた。

あの切り替えや判断力こそが、経験に伴う熟練の技術とでもいう奴なのだ。

あえてゲーム風に言うなら、『スキルレベル』とでも言った所か。


俺の『鑑定』では相手が持つ技能は分かっても、その技能にどれだけ慣れてるかが分からない。

おそらく、それが剣聖だろうが何だろうが【剣術】としか表示されないんだろう。

例外は【体力自動回復】や【紋章学】だけど、これも小・中や基礎、初級とかアバウト表記だ。

アバウトなのは技能だけじゃない。

ステータスもAやFといったランク評価だし。

きっちりとした数値が、あの画面には存在しないのだ。


改めて中途半端な能力だと思う。

技能の熟練で見える度合いが広がるとかなら、いいんだけど。

ぶっちゃけ、こういう仕様な気もするんだよね。

『鑑定』の技能表示は何処にも無かったし。

まあ、怪しい技能はいくつかある。

名前からじゃ、効果がいまいち分からないスキル群だ。

本命は【悪魔の瞳】じゃないかとは思う。

ステータスが、見えてるわけだし。

でも、もしそうなら、悪魔は大げさじゃないだろうか?

というか、素直に鑑定とすればいい所じゃないの?

もし『鑑定』を【悪魔の瞳】と名付けてるんだったら。

名付け親――神かどうかは知らないけれど――は中二病なんだろうな。

中二病神、すごい響きだ。

その世界に住んでる人には、迷惑この上ないね。



ともかく、『鑑定』がアバウト過ぎる以上、全面的に信頼はしない。

もちろん熟練度の可能性もあるから、使ってはいくけれど。

忘れる所だったけど、リキャストの時間も分かるしね。


後、自分の得意分野、自分の領域で戦う。

そもそも今回の決闘、魔術禁止にしたのが間違いだった。

技能的にもチート的にも、俺は魔術に有利な能力だ。

ステータス的には筋力や速度もそれなりだし、大丈夫だろう。

とか思って挑んだ結果があれである。

多少強引にでも、魔術を使える状況に持っていくべきだった。

とりあえずは誤魔化しの為にも、紋章札を手に入れないと。


そして、当面の課題としては近接戦闘の技術を身に付ける。

【格闘術】や【剣術】といった技能を修得し、伸ばす。

どうやって覚えるのかは不明だけど。

経験値とかポイントやらでガーっと覚えられれば、楽なんだけどなー。

どうやら、そういうチートはくれないらしい。

このドケチ中二病め。

まあ地道に覚えていくしかないんだろう。

学校とか教師がいれば一番だけど、そうでなきゃ見て盗むしかないか。


ベッドから立ち上がり、空想の剣を構える。

イメージするのはガミディアさん。

今日見た彼の動きを思い返しながら、トレースしていく。

剣捌き、体捌き、手、足、目線、一つ一つの動きを真似る。

動きはゆっくり、動作の意図を考え噛み締めながら繰り返す。



それを数十回程、繰り返した頃だった。

不意に部屋のドアが数回、ノックされた。


「失礼致します」


ノックと同時に女性が部屋に入ってくる。

いや、それノックの意味なくない?

というツッコミを思わず飲み込む。

そこには、一人のメイドさんが立っていた。


喫茶店以外で始めてみた、かもしれない。

いや、行った事があるかは記憶にないけど。

しかも、今目の前に居るのは正真正銘の本物、生メイドである。


足首まで隠すようなスカートは、黒に近い紺。

同じく夜闇色の上衣は、共に純白のエプロンに包まれている。

ダークブラウンの髪は首筋の辺りで切り揃えられており、その頭上には白いブリムが一つ。

完璧だった。完璧にメイドだった。

本物を見たのは初めてなはずだけど。


彼女は俺が体を動かしているのを見て、一瞬目を細める。

もしかして、俺の動きが奇妙なダンスにでも見えたんだろうか?

うわ、恥ずかしい。

ど、ド素人だし、仕方ないよな。

そんな俺の様子を他所に、彼女はすぐに魅力的な笑顔を浮かべた。


「目を覚まされたのですね。

 この度は、旦那様がご迷惑を……」


うん、謝罪の姿まで美しい。

だけど、この家にメイドさんなんて居たっけ?

俺の疑問に反応するように、彼女はこう言った。


「申し遅れました。

 (わたくし)、センブレップ家に仕えるメイドで、オルディナと申します」


よし、あのおっさん、いつか泣かす。

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