決闘と結末
後半別視点です
12/4 誤字修正
名前:ガミディア=センブレップ 種族:人間
所属:探索者ギルド、『銀の陽光』
職業:戦士、貴族、騎乗手、探索者 年齢:25
筋力:A 体力:A 速度:C
精神:B 知性:B 知識:B
魅力:A 体格:A
才能:カリスマ、騎乗
技能:体力自動回復・小、格闘、騎乗、大剣術、斧術、槍術、
魔導槍術、経営術、治術、応急処置
呪文:なし
左の視界に写ったステータスを見て、俺は天を仰ぎたくなった。
ほんと、どうしてこうなった。
申し訳ないといった顔で剣を差し出してくるツッパリ。
それを少し睨みつけながら、俺はその木製の剣を受け取った。
「ナナス君」
振り返ると、赤茶の髪をサイドに結った少女の姿。
マーサちゃん、俺の事を心配してくれて……なさそうだね。
むしろ、白い目で見られてる気がする。
彼女はテプタちゃんを抱きしめたまま、しばらく俺を見詰めていた。
だが、やがて溜息を一つ吐く。
「ナナス君も男の子だもんね、仕方ないか」
俺が男なのは間違いないけど何が仕方ないんだろうか?
男だから喧嘩を売られたとか、そういう話?
俺は別に、強い奴に会いに行ってワクワクしたりはしないんだけどな。
「でも、本当に大丈夫?
よかったら、今からでも謝らない?
わたしが、ジョアン兄さんに話してあげるから」
小首を傾げながらマーサちゃんがそう言う。
俺は悪くないから謝らない、なんて言いはしない。
仲直りしたいなら、まず謝罪して、それから原因を探るべきだ。
なんて大人な考えなんだろう。
という訳で彼女に仲裁を頼む事にした。
マーサちゃんはテプタちゃんを抱えたまま、ジョアンさん達に近づいていく。
「いいんですかい?」
ツッパリがなんか言ってるけど無視。
まあ、大丈夫だろう。
さすがに、女子供に暴力を振るう様な人達ではないだろうし。
心配しながら見ていると、マーサちゃんとジョアンさんが何かを話し始める。
うーん、なんか空気が不穏になってってる気がするんだが。
「兄さんのバカ!」
そう叫んで、マーサちゃんが戻ってくる。
その顔は何故か笑顔だった。
目は笑ってないけど。
さすが兄妹、そっくりだね。
「ナナス君、兄さんをぶん殴っていいわよ、わたしが許可する」
「いや、俺が戦うのガミディアさんだし」
そもそも戦いたくもない。
「じゃあ、ガミディアさんに勝った後に殴って」
無茶を言うなあ、この子。
などと会話をしていると、ミゲルさんが声を掛けてくる。
そろそろ、決闘を開始しないといけないらしい。
やっぱり、このまま有耶無耶にという訳にはいかないか。
覚悟を決めて、ガミディアさんへと向き直る。
人垣でできたリングの中央で、ガミディアさんは不敵に笑っていた。
その手には、俺と同じく木製の剣が一本。
それを両手で握り正眼に構えている。
「魔術は無しと言ったが、身体強化位は使わせてやるぞ、少年」
「つかえませんよ。そもそも、紋章札が手持ちに無いです」
てか、身体強化の魔術もあるのか。
あの魔術書には、描かれてなかったけど。
現状覚えているのは、水妖、風刃、石弾、土壁、放炎、照明の6つだ。
まあ、覚えててもこの戦いでは魔術禁止なんだけどね。
それに紋章札無しで使ったら、魔族ってバレるし。
「そうか、それなら仕方が無いな。
治療薬はありあまってる。
……覚悟を決めて、痛みを受け入れろ」
そう言って、ガミディアさんは距離を詰めて来た。
突き、振り払い、振り下ろす。
流れるように全ての攻撃が繋がり、俺に襲い掛かってくる。
だが回避できない速さではない。
彼の攻撃を紙一重で避け、いなし、受け止める。
体格差で押し切られそうになりながら何とか剣を止め、
次の瞬間、俺は宙を舞っていた。
剣を受け止め、鍔迫り合いになったと同時、
彼は左手を離し、俺の左腕を掴んで投げたのだ。
一本背負いの要領で投げられた俺は、背中から地面に叩きつけられる。
そのまま左腕を決められそうになり、慌てて彼の顔面を蹴り飛ばした。
予想だにしてなかったのだろう、彼の拘束が緩んだ隙に俺は脱出する。
「驚いたな、あれで動けるとは」
「結構、頑丈な方なんで」
嘘です。
全身痛いよ、ちくしょう。
けど動ける。まだ戦える。
再び木剣が襲い来る。
今度は振り下ろしからの振り上げ、更に肩口を狙った一撃。
それを全て回避する。膠着状態になるのは危険だ。
そして、木剣が再度振り上げられた隙に、下段から左の脇腹目掛けて思いっきり突き上げる。
木剣が突き刺さり、ガミディアさんがうめく。
が、彼の動きが止まらない。
そのまま上段からの一撃。
突き上げた体制で回避は不可能。
俺は左腕でその攻撃を受け止める。
ミシリという嫌な音をたて、攻撃は止まった。
更に掴みかかってくる腕を木剣で牽制しながら、俺はその場から後ずさる。
「……どうする? その左腕はもう使えないだろ?」
額の汗を拭いながら、ガミディアさんが言う。
彼の言うとおり、左腕の肘から先が動かなくなっていた。
折れたんだろうか。
だが、痛みをあまり感じない。
脳内麻薬で感覚が麻痺してるのかもしれない。
木剣を構えるガミディアさんに、今度はこちらから打ち込んでいく。
片手で握り締めた剣で相手に殴りかかる。
右からの横薙ぎ。
が、スウェーでかわされ、体制を崩した所に木剣が叩き込まれた。
弾き飛ばされ地面を無様に転がる。
だけど、まだ立てる。
誰かの叫ぶ声が聞こえた。
ガミディアさんが困ったような顔で何か言っている。
だが、聞こえない。
もう一度、打ち込みに行く。
そして、投げ飛ばされる。
もう一度、もう一度、もう一度。
俺の攻撃は単調になりつつある。
そんな俺の様子を周囲は息を呑み見詰めている。
そして、ガミディアさんも何も言わず、ただ俺の攻撃をかわし始めた。
ああ、もう充分かな?
次を最後の一撃にしよう。
俺の右からの横薙ぎ。
彼はそれをスウェーでよける。
だが、逃がさない。
彼の体を追って一歩前へ踏み出すと同時、右へ振り切ろうとしてた手を左手で受け止める。
狼の噛み傷が消えてしまったように、左手の骨はすでに治っていた。
木剣を両手で握りフルスイングする。
狙うはもちろん、彼の左脇腹。
先程、突きこんだ場所に狙い違わず叩き込み、そのまま振り抜く。
木剣が折れると同時、彼の剣が俺の頭に叩き込まれた。
「こ、殺す気か……」
俺がぶっ倒れると同時、周囲から歓声が響いた。
ああ、こりゃ惨敗だな。
酷い目にあった。
だから決闘なんてやりたくなかったんだ。
意識が闇へと沈んでいく。
てか何で真面目に戦ってんだ、俺。
開始と同時に降参してたら、それで終わりだったんじゃ……?
俺はアホか。
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暮れる日の中。
すでに薄暗い森を進む一団があった。
十数名の集団で進む彼等は、皆例外なく武装している。
一見すると国家の軍にも見えたが、その装備に纏まりは無く、
更に雰囲気も行軍というには、あまりにも緩んでいた。
彼等の名は『紅蓮疾駆』という傭兵団である。
戦場における評価は中の下。
騎士を3機有しており、団員も勇猛な為それなりに危険と評されている。
その為、一度戦が起これば雇い主は絶えずあり、食いっぱぐれる様な事はない。
だがそれは、裏を返せば他国との戦争が無ければ無職同然という事。
彼等にとって不幸な事に、帝国領はここ数年平和であった。
軍団とはいえ規律も緩い傭兵団だ。
探索者になる者達も中には居たが、殆どの傭兵達は野盗へと身を落としていた。
ここに居る彼等も無論後者。
彼等は今、とある村へと向けて進軍中であった。
列の最後尾。
後方を警戒しながら歩く2名の団員。
そのうちの一人、鉄製の鎧に顔半分を覆うメット姿の団員が唐突に呟いた。
「しかし、ほんとに魔風狼様々だよな」
同僚の言葉に、もう一人、鉄鎧に鉢金状の装備をした団員が胡乱な目を向ける。
「何が魔風狼様々なんだ?」
「だって、奴らが増えてくれたお陰で村が孤立してるんだろ?」
同僚のその言葉に団員は溜息を吐いた。
「お前、団長の話聞いてなかったのか?
今回のは副団長の作戦なんだよ」
「作戦?」
「おう、魔風狼が出たって噂を流しつつ、
雇った人間に狼が出たって証言させたんだよ。
それでギルドに依頼が出たら、探索者に紛れて村に潜入。
財産や妖精を頂くって寸法さ」
「なんでそんな、めんどくさい事」
「お前、本当に何も聞いてないんだな。
普通に行くと村人の抵抗に遭うだろうが。
騎士を出しゃ楽だが、うちの装備じゃ森で足止め食うし」
騎士には森林や山地、水場などで専用の装備がある。
装備がなくとも移動できない事はないが、時間を大幅にロスしてしまうのが現状だ。
そして『紅蓮疾駆』の所有する騎士は3機とも、平地での機動戦使用である。
彼等が今回の行軍で、騎士を使用していない理由の一つがそれだった。
「つまり、探索者に混じって騎士を持ち込む事で、脅しと攻撃を簡単にって事か」
「わかってるじゃねえか。
探索者共も、魔風狼なんぞに騎士は持ってこないだろうしな」
彼の言葉に同僚は興味なさげに、そうかと呟くだけだった。
その様子に団員は違和感を覚える。
「おい、トム、お前さっきから変だぞ?」
彼の言葉に同僚は答えない。
やはりおかしいと彼は思う。
いつから、こいつはおかしかったっけ?
そうだ、さっき小便に行くって言って、戻ってきたときには、こんな感じじゃなかったか?
「お前、いったいどうし……」
そのときだった。
彼等の前方、進行方向から仲間の叫び声が聞こえた。
何事かと警戒する団員の耳に、仲間からの怒声が届く。
「狼だ! 魔風狼が出たぞ!」
馬鹿な、何を言っている?
こんな森の中に、魔風狼が出るはずが無い。
そもそも、魔風狼の話は副団長のデタラメだろう?
彼の脳内を様々な言葉が駆け巡る。
その間にも仲間の叫び声は、どんどんとこちらに近づいてきていた。
紋章魔術で放たれたのだろう、稲妻や炎が現れては消える。
「トム、何だかわからんがマズいぞ、早くここから……」
振り返った彼が同僚の不在に気付くのと同時、その首筋に獣が噛み付いた。
こうして、傭兵団『紅蓮疾駆』は数名の団員を残し全滅した。
傭兵団の襲撃された現場から、少し離れた場所を一つの影が移動していた。
鉄製の鎧とメットを装備したその人影は、闇に包まれた森の中を素早く移動している。
「急いで旦那様に知らせないと……」
トムと呼ばれていたはずのその人物は、男性にしては高い声でそう呟くと闇の中へと消えた。