さっぱり意味がわからない
俺の目の前には鈍い金髪をした、チンピラ風の男。
逆立てた金髪を、前方に盛った形で編んだ髪型をしている。
というかぶっちゃけ、パーマを当ててないツッパリヘアーである。
日本だと繁華街のゲームセンターとかで、エンカウントしそうな雰囲気だ。
もしくは漫画とかで真っ先に敗北、失神してそうなタイプ。
うん、マジで印象に残ってない。
こいつの後ろに自称アウルスが居なかったら、本気で誰と訊いていた所だ。
そういえば、さっきの食卓に居たね君。ジェレイソンの人だったか。
「夜分遅くに申し訳ありません、ナナスさん。
実は内密の相談があるのですが」
そう言って中に居れて欲しそうな顔をするアウルス。
嫌です、あからさまに怪しいし。
何が楽しくて、むさい男二人を部屋に入れなきゃならんのだ。
俺はもっとこう、女の子とか招きたいんだよ。幼女以外で。
「お時間は取らせません。あなたに損はさせない事をお約束しますよ」
アウルスはさわやかな笑顔を見せているが、どうしたものか。
まず、俺の『鑑定』がチート扱いなのかどうか、それが問題だ。
もし鑑定がありふれた、誰でも使えるような技能なら。
鑑定された事に、アウルスが気付いた可能性が出てくる。
そして、秘密を知った俺は奴を部屋に入れた途端、この世からオサラバかもしれない。
逆にこれが俺の固有能力、いわゆるユニークスキルだったら。
初対面であらゆる秘密をスッパ抜かれたなんて、アウルスは露とも思わないだろう。
そうなると、部屋に入れるのを拒みすぎると逆に不審に思われないだろうか?
慎重に考えたいが、そんなに時間は無い。
……よし、決めた。
「少しの間だけですよ? もう寝るつもりだったんで」
もし俺並の鑑定がゴロゴロしてるんなら隠し事なんて意味をなさない!
こいつらが、偽名を語る必要すらないはずだ!
だから大丈夫だろう、多分。
うん、大丈夫、大丈夫。
大丈夫だよね?
「本当に申し訳ありません、失礼します。
では頼みましたよ、カール」
そう言って自称アウルス、本名クレダリウスは一人で部屋に入ってくる。
ジュードと呼ばれたツッパリ男は、部屋の前で待つつもりらしい。
見張り?
え、俺ヤバイ?
いざという時は逃げられるように、さりげなく窓へ移動する。
怪しまれない様に、気の利いたセリフも言っておこう。
「今宵は満月が美しく光ってますね」
「……黒月や銀月は夜空にありますか?」
「ええ、綺麗ですよ」
ん? 黒月?
黒い月なんて空にあったっけ?
俺の疑問を他所にアウルスは納得したように頷く。
「確かに、耳は何処にでもありますからね。
おっと失礼、許されたのは少しの間だけでした。
単刀直入に言いましょう、私達と協力しては頂けないでしょうか?
このまま、獲物の奪い合いをするよりはマシでしょう?」
獲物?
奪い合い?
何のこっちゃ?
もしかして、俺も泥棒か何かと思われてる?
いや、でも、こいつがそう思った理由がわからん。
野盗みたいな顔でもしてたか、俺?
余所者って括りだと、ガミディアさんも含まれそうだけど。
ジョアンさんと知り合いだから除外されたのかな?
いや待て、逆に考えてみよう。発想の転換だ。
ステータスを見てしまった事で、俺は難しく考えすぎてるのかもしれん。
偏見やレッテルを捨てて考えてみる。
彼の言う獲物とは魔風狼の事なのかも。
ひょっとするとこれは魔風狼を倒した時、分け前が減らないよう同盟しましょ、って話か?
だとしたら彼は一つ勘違いをしている。
「獲物と言われても。俺は依頼されて来た訳じゃないし」
そう、俺はギルドに依頼を受けてきたわけじゃない。
だから報酬なんてないし、そもそも魔風狼狩りに参加する気はない。
俺の言葉に少し思案した後、奴は微笑んでこう言った。
「では協力して頂けたら、私達の方から金をお支払い致しましょう。
更にあなたが手に入れたものを、相場の倍で買い取っても構いません。
もちろん、あなたが売りたくないのなら、それでも構いません。
独自のルートも、あるでしょうし」
なんか変な期待をされてる気がする。
そして、これはやっぱり魔風狼狩りの話だ。
金を払いたいと思わせるほど、泥棒じみた真似なんてしてないし。
おそらく、俺が魔風狼を倒したと言ったからだろう。
対狼の頭数を増やす為、こいつは俺の勧誘に来たのだ。
ともかく、面倒くさいので狩りに参加するつもりは無い。
「そんな。そこまでして貰うほどの役には立ちませんよ、俺は」
「いえいえ、あなたの手際は素晴らしいとしか言い様がありませんよ。
まさしくプロといった……」
不意に、部屋のドアがノックされた。
「すいませんお二方。ナナスさんにお客のようです」
聞こえたのは知らない男の声。
おそらくはカールと呼ばれた男だろう。
というか、またお客?
もしかして、今度こそマーサちゃんが遊びにきたのか?
「そうですね、タイミングもいいですし私達はこれで。
協力の件は是非、考えておいてください」
そう言ってクレダリウスは部屋から出て行く。
おう、考えておくよ。考えるだけはする。
しかし何だって俺にあそこまで期待してるんだ、あの邪教信者。
さっぱりわからん。
さて、そんな事より次のお客である。
クレダリウスが部屋を出てすぐ、遠慮がちなノック音が、俺の部屋に響く。
「ど、どうぞ開いてます」
生唾を飲み込みながら一声。
女の子を部屋に招き入れるのは初めてなので、緊張する。
どうせテプタちゃんだろうって?
だから、あの子は多分ノックなんてしないから。
あ、後あくまでも、この世界で初めてだよ?
日本では部屋に連れ込み放題だったはずだ。
いや、2~3人かな?
一人は居たと信じたい。
恥ずかしがるように、ゆっくりと扉が開かれる。
妙に上がったテンションと緊張に体を震わせながら、俺はお客様と対面した。
「夜分遅くに申し訳ない、ナナス殿」
入ってきたのは、小太りの男だった。
ミゲルさんかよ! お呼びじゃないよ!
なんていう訳にもいかないので、笑顔で迎え入れる。ちくしょう。
「実は、ナナス殿に内密の頼みが……」
あんたもか。
まあこの際だ、言ってみ。
聞くだけ聞いてやる、と心で呟きながら無言で先を促す。
「よ、妖精様と仲良くなる方法を教えて頂きたい!」
このロリコンが!