俗に言う総集編ってやつ? (バンク少な目)
ああ、ひどい目にあった。
ここは変わらず村長宅。
割り当てられた部屋で、俺は一息吐いていた。
夕食が終わった後。
ブーブー言ってるテプタちゃんを引き剥がして、俺は早々にお暇しようとした。
が、すぐに村長さん達に、日が暮れてから出発するのは危ないと止められる。
どうやら、村から出ようとしてると勘違いされたらしい。
夜になったんで、宿屋にでも行こうと思っただけだと説明したら納得されたが。
だが、続けて衝撃の事実判明。
クレーユ村には宿屋が無いらしい。
というか普通に宿泊施設がある方が珍しい、とはガミディアさん談。
じゃあ、どうするのかというと、村長などの地域の長の家に泊まらせてもらう。
もしくは、村の広場や厩舎を借りて一泊といった感じらしい。
村長からの不審そうな視線を、やはり笑って誤魔化す。
何だか、痛々しくなってきたが気にしない。
ちなみに『ジェレイソン』メンバーは広場にテントを広げ就寝。
ガミディアさんは厩舎で寝袋に包まっていた。
そしてジョアンさんだけが、村長宅の自分の部屋で寝るそうだ。
で、最初は俺も村の広場に泊まると言ったのだが、テントや寝袋等が無いので断念。
厩舎は……確認して早々挫折した。
「ウシ小屋でごめんね」
そう言ってマーサちゃんが案内してくれた厩舎には、ガミディアさん以外に先客が居た。
小屋の中で干草を貪っていたソレは、つぶらな瞳をこちらに向け一声鳴いた。
『ンマァ~』
うん、いろんな意味でちょっと無理だった。
え? あれ牛なの?
どっちかというと某RPGで召喚獣やってそうな風貌なんだけど。
あれの側でイビキかいて寝られるガミディアさんは、やっぱりすごいな。
この世界じゃ普通なんだろうけど、今の所、俺には無理だ。
と言う訳で俺は村長宅の一番奥、その一室に寝床をお借りしていた。
すっかり暗くなった窓の外を見て、やっぱりここは異世界なんだなとつくづく思う。
星の瞬く夜空、その天頂に一際輝く白い月。
そしてその少し下に紅く光る月、それから地平線近くにも銀色に光る月。
夜空には月が3つ、浮いていた。
地球じゃないと改めて思い知らされ、溜息を一つ。そのままベッドで横になる。
目に映る見知らぬ天井、そのシミの数を数えながら、もう一度溜息。
ちなみに、当然の事だがここにテプタちゃんは居ない。
俺について来ようとして、マーサちゃんに捕まっていた。
これからどうやらお風呂らしい。
ちなみに帝都式の豪華な風呂だ、とミゲルさんが鼻息荒く自慢し、また殴られていた。
そうか、風呂があるのかー。
日本人としては入っておきたいが、頼めば入らせてもらえるかな?
でも入浴中にテプタちゃんが乱入してきたら、人生終了しそうなんだよなー。
風呂の魅力には抗いがたいけどなー。
シミを71個まで数えた辺りで、悩みは横に置いておく事にする。
それより、ちょっと状況を整理したい。
気が付いてから今まで、殆ど流されっぱなしだったし。
まず俺は、いつの間にかクレーユ村近くの草原に居た。
しかも、名前を手始めに多くの記憶が無くなっていた。
覚えていた事、思い出した事は自分が日本人で高校生な事、妹がいた事、中二な親友の事。
後は、小説やアニメ、漫画等、一部の偏った知識位だ。
最初は単なる迷子だと思ったけど、化け物と会って考えを改めて。
辛勝した後、水場で会ったマーサちゃんとテプタちゃん。
なんでか分からんが俺に懐いた幼女と、マーサちゃんの3人で村へ移動して。
そこで巨大ロボと探索者達と出会って。
で、その探索者の中に邪神の信徒とか言う危なそうな奴が居た、と。
まとめても訳分からんな、この状況。
なんで異世界に居るのかなんて、考えても分からん。
そもそも記憶が無いから、原因に心当たりがあるかすら思い出せないし。
だから考えるべきは今後の事だ。
記憶喪失で迷子中。
普通は警察や病院に行く様な状況である。
俺だって、ここが地球ならそうした。
が、ここは異世界だ。
病院のような施設があるかは分からないし、あっても記憶喪失を治せるだろうか?
警察みたいな組織も、地球にあるだろう自宅まで、迷子の俺を帰せるかは疑問だ。
そもそもの問題として、俺をこの地に呼んだ奴の目的が分からない。
下手に名乗り出て勇者やら魔王やら生贄やらをさせられる、という小説があった気がする。
勇者や魔王なんて面倒だし、生贄なんて論外だ。
とりあえず、勇者や魔王にならずに帰れれば、それが一番なんだけど。
記憶の事はその後でもいい、んだろうか?
外傷とか精神ショックとか医学的な理由で、失ったんならいい。
魔術的な理由で奪われたとかだと、医者では治せないだろう。
関わり合いになりたくないけど、召喚者を探すしかないのかな?
目立たないようにしつつ、相手より先に情報を入手、やばそうなら逃げる。
我ながら、完璧で分かりやすい方針だ。
情報を入手する方法とか、逃げてどうするのかは聞かないで欲しい。今から考える。
後この方針、相手が人間ならともかく、神様とかだったらお手上げな気もする。
もし神の仕業とかだったら、今この瞬間も何処かから見守っておられるんだろう、ヘラヘラ笑いながら。
そう考えると何だか空しくなってきたので、頭を振って思考を変える。
神と言えば、邪神の信徒の方はどうしましょうかね。
『ジェレイソン』と『銀の陽光』、2つのチーム――探索者クランだっけ?
彼等は魔風狼の討伐依頼を受けて、ここに来たそうだ。
村長が言うには、ほんの数十日前、行商人が近辺をうろつく魔風狼と草原狼の群れを見たらしい。
で、行商人達と情報を整理した結果、少なくとも2つ以上の群れが付近に居ると判断。
更にこの近くの街道で、旅人が姿を消す等の事件があったとの噂も広まり、
怯えた行商人達が村へ来なくなってしまった。
食料の蓄えはあるが、行商が来ないと日用品等の面で困る。
そのうえ国軍が動くには情報が少なすぎる、という理由から村長が探索者のギルドへ依頼。
今日の昼、2つの探索者クランがここへ訪れた。
これって、何か問題が起こるんじゃないのと思うんだが、
ガミディアさん曰く、こういうのは獲物を早く狩った者勝ちだそうだ。
それに一定以上のクランが依頼に殺到しない程度には、ギルドが調整するという。
さて、そんな余談は置いておいて。
自称『ジェレイソン』のメンバーは、本当に魔風狼を狩りに来たんだろうか?
ちょっと疑いすぎ?
あんな所属や職業を見せられて、疑わないほどおめでたくはなれそうも無い。
魔風狼の出現が関係あるかはわからない。
だが、それに乗じて何かをしに来たのかもしれない。
羽振り良さそうだしね、この村。
ただ、あるとしてもお金や食料だけな気がしないでもない。
邪神の信徒さんが来る理由とかあるの?
職業上の付き合い? 邪神様へ献金とか?
あるいは単に、食わなきゃ生きてけないよって事だろうか?
ともかく、誰かに危険を伝えておいたほうがいいかな。
いや、その前に『紅蓮疾駆』と『喰らう腕の従僕』について聞いておこうか?
ああ、難しい事考えすぎて眠くなってきた。
もういいや、明日、考えよ。
ノック音が聞こえる。
無視無視、俺はもう寝るの。
コンコンコン。
しつこいな、誰だよ。
面倒くさいけど、出るしかないかな、人の家だし。
それに、マーサちゃんが来たのかもしれない。
テプタちゃんなら……ノックしないだろう。
眠る体勢に入っていた体と頭を無理矢理起こし、扉へ向かう。
はいはい、今行きますよと。
自室のドアを開けると、そこにはチンピラ風の男が一人立っていた。
えっと、誰?