声を大にして言いたい、俺はロリコンじゃない!
「この度は、私共の為にお出で頂き、誠にありがとうございます」
村長と名乗った中年男性は、椅子から立ち上がるとそう言った。
自己紹介を終えた後。
マーサちゃんからの誘いを受けて、俺達は村長の家へと移動していた。
綺麗に磨かれた食卓を眺めながら一息吐く。
誘われた瞬間、嫌な予感をバリバリと覚えたので遠慮しようとしたんだが、
断る間もなくあれよあれよと、食卓の一席に座らされたのだ。
面倒事に巻き込まれたかもしれない。
だがまあ、断りきれなかったのは仕方が無いと思考を切り替え、周囲を観察する。
上座にはマーサちゃんとジョアンさんのお父さんだという、クレーユ村の村長。
その左隣の太目の小男が、村長の長男で跡継ぎのミゲルさん。
そこから時計回りに副村長という男性と女性が1名づつ、ジョアンさん、ガミディアさん。
そして俺、『ジェレイソン』の構成メンバー3名、自称アウルスの計11名が食卓を囲んでいた。
マーサちゃんは彼女のお母さん、それから数名の女性と一緒に夕飯の準備で忙しそうにしている。
更に何が珍しいのか食卓の窓、外から何人もの人間が家の中を覗き込んでいた。
そんなに俺達が気になるんだろうか?
それとももしかして、そこのソファーで寝てる幼女目当てか?
そう考えるとなかなか犯罪チックだが、もちろん違うだろうな。
で、アウルス御一行なのだが。
『ジェレイソン』のメンバーを名乗る、他3名を『鑑定』したのだが意外な結果が出ていた。
もちろん3名ともそれぞれ偽名を名乗っており、『紅蓮疾駆』の構成員ではある。
だが『喰らう腕の従僕』という組織名や『邪神の信徒』といった、ステータス表記はなかったのだ。
うーん、これはどう判断するべきなんだろうか。
アウルスが他を騙してる?
それとも、残りのメンバーを邪教へ勧誘中?
まだ判断はつけられない。
なんて、ガラでもない難しい事を考えていると、パンとスープが食卓に出て来た。
うん、考えてても答えが出るはずないし。夕食を楽しむ事にしよう。
そうと決まれば早速、白い丸パンに齧り付く。
あ、パン柔らかいな。
見た目はメロンパンから皮をとった感じで、すごく甘いのかなと思ったけれど、そんな事は無い。
ふわふわしてて、日本の食パンと殆ど変わらない味と食感だ。
一緒に出されたスープも、また美味しい。
野菜のポタージュかと思ったけど、汁の中に団子のような塊が沈んでいる。
どうやら、スイトンのようなものらしい。
中に入った根菜のような物も、柔らかくなるまで煮込まれていて食べやすい。
スープに溶け出した野菜の旨みに、適度に塩味が団子に染み込み味わい深い。
ガミディアさんが、パンをスープに浸けて食べていたので真似してみる。
うん、スープが良く染み込んで最高だ。
まだありますからねといった感じで、マーサちゃんと彼女のお母さんが皿を運んでくる。
大皿に乗ったそれは、動物の丸焼きだろうか。
だいたい人間の子供位の大きさで、見た目カンガルーっぽく見える。
みんなが大皿から切り取っているのを見て、恐る恐る俺も食べてみる。
旨い!
肉の感じは豚に近いだろうか?
脂が乗っていて、噛むと口の中にジューシーな旨みが広がる。
コショウ等の香辛料がかかっているのか、ピリリとした刺激がまた旨さを増している。
何だろう、日本でも似たような物を食ってただろうに。
妙に感動するのは、やっぱり記憶が無いからだろうか?
そうだとしたら、その点は記憶喪失に感謝だな。
「しかし、結構な量の料理ですね。やはり蓄えには余裕が?」
次々出てくる料理に笑みを浮かべながら、アウルスが村長に尋ねる。
その視線は一瞬、テプタちゃんの方に注がれていた。
「ええ、最初は単なる伝説だと思っていたのですが、こう毎年豊作が続くとは。
これも皆、テプタ様のお力です」
「確かに。表のムジャナも嘘のような豊作具合でしたからな!」
「はい、ムジャナが多すぎて、保管の為に村共同で最新冷蔵保管庫を買った位ですからね。
ついこの間、共同火葬炉も新調したばかりだって言うのに。
それに最近なんて、帝都の月吼族から……ガフッ!」
急に雄弁に語りだしたミゲルさんの頭を、村長さんが拳骨で止める。
何かマズイ事でも言ったんだろうか?
まあともかく、話をまとめると幼女のお陰で、村は豊作続きの小金持ちになったらしい。
うわ、幼女スゴイ。
幸福を呼ぶ壷みたいで胡散臭いが、魔法とかロボが存在するのだ真実でもおかしくない。
「……ママー」
噂をすれば何とやら、幼女がソファーからムクリと起き上がる。
「ああ、テプタ様。すぐにお夕飯を準備しますから、ソファーで待っていてくださいね」
マーサちゃんのお母さんの言葉を聞いているのかいないのか。
寝ぼけ眼を擦りながらテプタちゃんは、こちらへやってくる。
そして、極々自然な動作で、俺の膝にヒョイっと座った。
膝の上に感じる柔らかな感触。
上半身にもたれ掛かる幼女の高い体温。
微かに感じる甘い匂い。
そして凍りつく場の空気。
見れば、村長さん達はもちろん、自称アウルスのチーム、
料理を運んでいたはずの女性達や、窓から覗く連中まで。
みんな、俺と幼女を見詰めヒソヒソと何事かを囁きあっている。
この光景を見慣れてしまったのか、マーサちゃんだけは苦笑してるけど何の救いにもならない。
「ハハハッ、そうしていると仲の良い兄妹みたいだな!」
あ、ありがとうございます、ガミディアさん!
あなたは、やっぱり最高の筋肉だ!
「いやあ、お恥ずかしい。どうやら懐かれてしまったみたいで」
そう言って笑って誤魔化す。
……なんか周囲の視線が痛い気がする。
やばい、そんな目で見ないでくれ。
俺はロリコンじゃないんだ!
そう心で叫びつつ、俺は笑い続けた。あはは。