ファンタジーかと思ったらロボットものだった
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さて、巨大ロボである。
平屋ぐらいの高さだし、ロボットとは正確には違うのかもしれないけど、
現代っ子の感覚からすれば、これは巨大ロボとしか言いようが無い。
しかし、ロボかー。
確かによく見ると、他の2機も変なパーツがくっ付いてるからな。
緑の奴なんて、背中から柱みたいなのが2本出てるし。
あれはビームキャノンか何かだったりするんだろうか?
そんな事を考えながら『鑑定』する。
結果、灰の機体は【ヒルクレイブ】で巨腕の機体と同じく【銀の陽光】所属。
緑の騎士は【アウンネイール】で所属は【紅蓮疾駆】となっていた。
すごいな、3機とも違う種類なのか?
これ自分で組み上げてんのかな?
それとも市販されたりする?
俺でも買えて、乗れたら嬉しいな。
やばい、少しワクワクしてきた。
仕方ないよな男だもの。
そんな事を考えていると、灰の騎士と緑の柱持ちが訓練を止めるのが見えた。
直後に3機とも身を屈め、片膝付きの状態へと姿勢を変える。
胸辺りから煙が噴出し、胸部アーマーが下へ下ろされた。
やばい、鼻血出そうなくらい興奮する。
やがて内側の装甲らしき物が開かれると、それぞれのコクピットから人が出てきた。
そのうちの一人、灰のヒルクレイブから降りてきた赤毛の青年が、汗を拭きながら近づいてくる。
「マーサ、いったい何処に行ってたんだ?」
それにその男は誰だ?
といった感じで、彼は俺にジロリと目線を向けた。
うーん、何だか嫌な感じの視線だな。
ちなみに、この短髪青年の名はジョアン、とヒルクレイブ『鑑定』時の搭乗者名では出ていた。
「テプタ様を探しに、森に行ってたのよ。彼とはそこで出会って」
「何考えてるんだよ!」
「兄さん、怒鳴らないで。テプタ様が起きちゃう」
ほうほう、どうやら彼はマーサちゃんのお兄さんらしい。
ジョアンさんは小さく、すまんと言った後、再びマーサちゃんを睨む。
「今、この辺りは危険だって、お前も分かってるだろう?」
「だってテプタ様、急に居なくなっちゃって心配だったんだもの」
「だからって魔風狼がうろついてる中、一人で森に入るなんて……」
「あいつらは草原にしか出ないじゃない。森はまだ安全よ。
いざという時は、紋章札だってあるし」
そう言って、彼女は首から下がったペンダントを持ち上げ示す。
んー? あのペンダント、よく見たら魔法陣が描かれてるな。
なんか見た事ある魔法陣だなと思ったら、あの憎き水妖だった。
で、魔法陣の中心には魔焔石が一つと。
あれは多分マジックアイテムだろうな。
彼女の技能にもあったしね、『魔道具作成』が。
「うむ、兄妹喧嘩の最中すまんが、彼を紹介してはくれんのか?」
二人の言い争いを遮り、厳ついおっさんが声をかけてくる。
黒っぽいシャツを汗で濡らした、筋肉質で茶髪の男。
クラン・ウォーランから降りてきた彼が、ガミディア=センブレップなのだろう。
第一印象は筋肉! 第二印象は筋肉! 第三印象は髭! な感じのおっさんである。
ナイス筋肉! と賞賛したい気持ちを抑え、俺は自己紹介をした。
「あ、すみません。俺は、ナナスって言います。えっと……旅人です」
嘘は言ってない。名前以外。
本当は、記憶喪失の事とか言うべきなんだろうけど。
マーサちゃんに適当な事言うんじゃなかったな。
けどまあ、少しだけ残ってる小説とかの記憶でも、主役はこんな感じの言動だったしな。
「おう、よろしく頼む! 俺はガミディア。ガミディア=センブレップだ。
探索者クラン、銀の陽光のリーダーをやらせてもらってる。
家名なんざ持ってるが気にするな。今は単なる一探索者だ」
「俺はジョアン。マーサの兄だ」
2人から自己紹介を受ける。
探索者って何だ? 冒険者みたいな物か?
あと、家名って苗字だよね? あるとやっぱり偉かったりする?
色々尋ねてみたいが、なんか常識っぽい感じなんで訊き難い。
やっぱ、嘘なんて吐くもんじゃないね。
「しかし、魔風狼がうろつく中、よく武器も無しに村へ辿り着けましたね」
そう声をかけてきた長髪男はアウンネイールのパイロット。
たしか搭乗者名は『クレダリウス』さんだったかな?
「ああ、自己紹介もなしに申し訳ありません、私は『アウルス』
探索者クラン、ジェレイソンのリーダーです」
くすんだ金髪を揺らして、アウルスと名乗った男はさわやかに微笑んだ。
ん? あれ?
アウルス? クレダリウスじゃなくて?
なにか仕様を勘違いしてたかと、改めて『鑑定』をする。
対象はもちろん、自称アウルスさんだ。
名前:クレダリウス 種族:人間
所属:『紅蓮疾駆』、『喰らう腕の従僕』
職業:傭兵、騎乗手、野盗、邪神の信徒 年齢:23
筋力:B 体力:B↑ 速度:C
精神:B 知性:C 知識:B
魅力:B↑ 体格:B
才能:バランス、騎乗
技能:体力自動回復・小、悪食、生存術、言いくるめ、
格闘、短剣術、紋章学初級、剣術、槍術、魔導槍術
呪文:火弾
やっぱり『クレダリウス』じゃん。
そして、どうみても真っ黒だ。
っていうか黒過ぎるだろ!
何だよ邪神の信徒って!
『喰らう腕の従僕』とか不穏以外の何者でもないよ!
今のさわやかな笑顔は何だったんだよ!
心の内でツッコミを繰り返す俺を他所に、話は穏やかに進む。
「それが彼、魔風狼に襲われたみたいなの。
何とか逃げ出して、助かったみたいなんだけど」
今、なんか聞き捨てならない言葉が聞こえた気がする。
あれ? マーサちゃんに魔風狼とやらの事、説明しなかったっけ?
「そりゃ、災難だったな。いや逃げ出せた事を聖女様に感謝すべきか」
「いえ、魔風狼は倒しましたよ」
そう言って、丸めた状態で抱えていた『風狼の毛皮』を広げる。
毛皮を見て目を丸くするマーサちゃん。
気付いてなかったんだろうか?
「わ、わたし、それてっきり草原狼の毛皮だと……」
「これは確かに、魔風狼の物ですね。お見事です」
粘液に触りながら自称アウルスが呟く。
いや、あんたに褒められても嬉しくないなー。
「……それに、テプタ様がそんな風に背負われてるのは、始めて見た」
「そうだよね、わたしもビックリしちゃった」
そう言ってこちらをチラチラみる兄妹。
そしてガハハといった感じで笑うガミディアさん。
「とりあえず、ようこそクレーユ村へ!
ここのモンじゃない俺が言うのもなんだが、歓迎するよ少年。
……歓迎してもいいんだよな? マーサ嬢ちゃん」
「大丈夫だと思いますよ? うちの村は基本、お客様大歓迎ですから」
「まあ、戦力は少しでも欲しいとこだしな」
なんか、ジョアンさんが不穏な事呟いてるんだが。
邪神の信徒さんとやらも変な目で俺を見てるし。
てか、マジでどうしよう、この状況。