31話
とある門番の視点から
昼も過ぎ、そろそろおやつの時間にさしかかろうかとしているニノマエの町。
東西南北それぞれに有る門には様々な人々の姿が見える。
その大半が、ここ最近どこからか急に増えた者達である。
東の門を守る彼――守ると言っても、町の周りにはモンスターが来ることなどほぼ無いので見守ると言ったほうが正しいのだが――はそんな人々を見ながらボーっとしていた。
多少変わった者達も多いが基本的に礼儀正しい人々が多く今も昼飯を終えて少し眠いのを堪え、立っているだけの彼に挨拶をして草原に向かういく奇特な若者を見送ったところだ。
最近増えた『プレイヤー』だの、外の世界から来た人と言う意味で『外来人』だのと会議で言われていた物達だろう。
彼らは見た目こそ自分達と変わらないのだが年齢の幅がなかなかに広く、そして酷かった。
それこそ今の時間、母親からもらうおやつを楽しみにしていてもいいような子供から自分よりも年上の者達も居るのだが、それが誰も彼も剣を振り回したり魔法を撃ったりしているのだ。
世も末である。
『プレイヤー』とやらが来た外の世界とやらは修羅の国か何かなのだろうか。
自分は確かに人に語れるほどの面白い人生は生きてきてはいないが、子供のうちから戦い、自分よりも歳をくってもまだ戦っているよりはましだろう。
そう自分に言い聞かせるように納得していると草原の奥の方から音が聞こえた。
何事かとそちらに向けた視線の先には
誰もが見惚れる様な良い笑顔のまま、ドドドドドと連続して地面を叩くように此方に走る綺麗な女の子と
「「いぃぃぃぃぃぃぃぃぃやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」」
その女の子の両脇に抱えられた二人の女性の悲鳴だった。
――――――――――――――――――――
「とっうっちゃぁぁぁぁぁぁぁく!」
ズシャアッ!と急ブレーキを掛け私はニノマエ東門の手前で止まることに成功する。
その際に右手側のアヤが「うげぇっ」っとあまり女の子が出してはいけない声をあげた気がするが気にしないでおこう。
私は両脇の荷物をその場に投げ……ゲフンゲフン、その場に下ろす。
「いやー無事に着いたわね」
いつものことながら汗なんかちっともかいてなんかいないのだが額をスッと袖で拭うジェスチャーをしつつ二人に話しかける。
「無事じゃな……う……うえぇぇぇぇ」
「あ゛あ゛ぁぁぁぁ……出るです……今ならシステムの壁を越えて何か出せる気がするですよ」
片やリバース、片やシステムの壁を越えようとしている二人を見つつ少しばかりやっちゃったかな? とは思うものの、まぁ仕方が無いだろう。
「だーってしゃーないでしょ? クリエさんはとっとと帰りたいって言うし私もアヤもリアルでご飯食べないと駄目だし」
そう、尻の人あらためクリエさんが「早く帰らないとアカン」私たちもこっちではご飯食べたけどリアルで食べてないから「帰らないとアカン」だったので急いで帰って来た結果なのだ。
クリエさんは帰らないと心配されるから、私たちはリアルでお腹が空き過ぎるとログアウトした後結構キツイからである。
廃人の方々はなにやら24時間やっていても問題無い――問題しかない気がするが――状態でプレイしようと画策しているらしいが私たちはそこまではしたくは無いしね。
何が悲しくて病気でもないのに点滴打ちつつゲームせにゃならんのか。
さておき。
「それに行きもそうだけど、実際早かったでしょ?」
「……何度か蛇行してたです」
「いや、だってモンスターが居たからさぁ?」
「そこで避けてるんなら良いのです。 問題はむしろ嬉々として向かってた事なのですよ?」
ソレさえなければこうはならなかったのです、と若干回復したのか先程よりはしっかりした口調で横でいまだ立ち直れていないクリエさんを見つめている。
ビシビシとアヤからこちらに対する非難が伝わってくるが、手もとい脚が届く範囲にモンスターが有ったのだからしょーがない。
まぁ、若干調子に乗りすぎた気もするので多少反省しつつ私もクリエさんを見つめる。
というかこっちの人だと吐けるんだね、と若干感動――良い意味ではないが感情は動いているし間違っちゃいないだろう――しつつ尻の人からマーライオンにジョブチェンジしたクリエさんを見ていると。
門のほうからこちらに向かって来ている人がいることに気づいた。
「ナギハさんナギハさん、なんかすげー顔して結構な勢いで門に居た人がこっち来てるですよ」
「本当ね」
先程までの私のダッシュ程ではないけどそれなりに、しかし確かな速度でこちらに向かってくる門番の方。
ものすごく面倒そうな匂いがする。
あと後ろからするクリエさんの匂いも。
「ここで全力で逃げたら怒られるかねぇ」
「ぜってぇ怒られるですよ」
「だよねぇ」
リアルでのご飯が遅れるのを心配しつつ、私たちは門番の人が来るのを待つのだった。




