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30話

草むらから尻が生えているという世にも不思議な現状を前にして、私の中のファンタジーさんの株がガクッと下がった訳だが。


こんなファンタジーはいらねぇ。


何でもありにも程があるよファンタジーさん、もっと仕事選べ。


「これはアレですかね?」


私が世知辛さに一人心の中で泣いていると、アヤが「尻」の周りをうろうろとしながらしゃべりだした。


「パンツという蕾を開くことにより内部の花が開花しますよっていう的な――」


そこで何かを考えるかの様に言葉を切り、少し溜めてから。



「深いですね」


「いや浅いよ」


私がそう言ったタイミングで少しだけ、だが確実に尻が揺れた。


あらためてよく見てみればこの尻は捲れ上がったスカート、白いショーツ、そして健康的な色をした二本の足で構成されている。


まぁ、どうみても女性が頭から草むらに突っ込んでいるのだ。


先程少し揺れたところからまだ生きていて――その後動かないのは気絶か何かのバッドステータスかもしれないが―― 一応無事なのだろう。


ただこの森のモンスターの特性上毒のバッドステータスの可能性もあるため、問題の無い人であればすぐにでも助けるべきなのかもしれないが。


「しかしあれですねー、新種の採取スポットですかね」


「え、何。パンツを剥いで?」


アヤがボケを続行したのでもう少しだけ付き合うことにする。


それにまだこの尻が罠ではないと決まったわけでもないし。


「はいです、パンツを剥いで出てきた花から採取をするですよ」


「なるほど」


私が努めて真面目そうに答えると、また尻がピクリと動いたが気づかない振りを続行する。


大丈夫、まだ行ける。


私の中の何かが自信を持ってそう言った気がした。


無論まったく根拠は無いのだが。


その間にも尻がまたピクリピクリと動いている。


もしかしたら私達が手を下す(採取)するまでもなく開花するかもしれない。


そう、ほのかな期待を持って尻を見守っていると。


「そろそろ突っ込み入れてくれても良いんですよ?」


と、少し恥ずかしげにアヤがこちらを見て言った。


この子の恥ずかしがるポイントがよく分からないのだが、それを見て私は。


「何処に突っ込むの?」


ボケを続行することにした。


アヤが一瞬怪訝な顔をした後、何か得心いったのか、頬を上気させながら。


「わ……私の、ココに入れて欲しいです」


と、言うか言わないかのタイミングで。


「……いい加減助けてくれる?」


私達がボケ続けているとまさかの尻からのツッコミがあった。


突っ込まれるのではなく、自ら突っ込みをするという尻の新たな可能性を目の当たりにしつつ、私はアヤと目を合わせ、互いにうなずいた後尻を助けることにした。



--------------------



「まぁ・・・色々言いたいことはあるけれど、とりあえず助けてもらってどーも」


草むらから引き抜いた『尻』・・・もとい女の人は解毒薬を飲み少し落ち着いたのか、そうお礼を言ってきた。


正直私たちがした事とかイモムシについて来て尻・・・いや、彼女の前――いや後ろか?――でボケていた位で後はせいぜい引っこ抜いて薬を飲むのを手伝ったくらいで正直礼を言われても困る。


「いやいや、気にしないで下さい・・・ねぇ?」


「はっはいです!当たり前のことをしただけですよ」


できれば本当に気にしないで欲しい、『色々』の部分が気になってしまってしょうがないので。


「そう・・・わかった、できるだけ気にしない様にするわ」


彼女はそう言いつつもぶつぶつと。


「話してみた感じ最近急に増えた人達みたいだしそういう文化なのかもしれないし・・・いやでも人のおしり見ながら雑談に興じる文化って何?・・・」


とか聞こえてくる。


そんな文化とかもちろん無いのだが私たちに聞こえないように言っている彼女にわざわざ突っ込む気にもなれず。


こちらの人の最近増えた人達(プレイヤー)に対する認識に『尻を見て雑談する』と言うたいへん不名誉なものが追加されるのを止められなかったのに気づいたのはその後しばらくしてからだった。


ただひとつ言わせてもらえるならば、草むらから尻が生えているのを見たらだいたいの人が訳がわからなくて混乱するとは思うんだけどね・・・。


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