29話
「私、思うんですけどね?」
「んー?」
アヤが急に何か悟ったかのように喋り出す。
少なくとも今時の中学生が『我思う、ゆえに我あり』なんか流行らないだろうから本当に何か今思った事を喋ろうとしているんだろうけれど。
ここ何日か彼女と行動をともにしてみてわかったことがあって。
だいたいアヤがこういう風に話を切り出すときは、どーでも良い話かろくでもない話か――
「普通ご飯ってセーフティエリアで食べますよね?」
――ダメ出しというかそんな感じである。
私はアヤの質問を聞いてからたっぷりと3秒ほど使い、右手に持っているサンドイッチを片付けるのを先にするべきかアヤの質問に答えるかを天秤にかけて。
「あむ」
食べることにした。
うむ、おいしいな。
「まさかの食事続行ですか!」
と、アヤのツッコミを聞きつつサンドイッチを口の中に放り込みお茶で流し込む。
あ、このお茶結構おいしい。
また買おうと、心に決めた後。 いい加減にこちらに向けてくる目線がうざいので私はアヤに反応を返すことにした。
「アヤ、食事中は静かにしなきゃダメよ?」
「え、あ、はいごめんなさいです……ってそーじゃねーですよ!!」
さも当然であるかの様に言えばいけると思ったのだが無理だったらしい。
「ちっ」
「舌打ち!舌打ちですか!?」
「あの頃のアヤは可愛かったのに……」
「まだ会ってから一週間もたってねーですよ!」
「時間は関係無いでしょ?」
「その言葉はもっと別のシチュエーションで言って欲しかったですよ! ってかあの頃っていつですか!」
「会ってすぐから……その日の夕方ぐらいまで?」
「短いっ!私の可愛かった期間ものすっごく短いですよ!」
「ピキーッ!」
「イモムシはうるせーですよ! ってかまだ居たんですか!」
何故かまだ居るイモムシ――むしろ接近してきてる――にアヤがキレる。
冷静に考えたらコイツまだ逃げてないのか。
「まぁ、落ち着きなさいよ……食べる?」
「ピキッ!」
半分冗談でサンドイッチを差し出してみたら手ずからモリモリと食べだした。
これ食べて大丈夫なんだろうか?
大丈夫なのかな?
大丈夫だと良いな、ファンタジーだし。
ファンタジーさん、マジ万能過ぎてヤバイ。
私がファンタジーさんの凄さに一人感動していると。
「ずるいです! 私もナギハさんに手ずから食べさせて欲しいです! 口移しでも良いです、むしろそっちで!」
私はものすごい真剣な目をして相変わらず意味の分かりたくない事を言うアヤに対して。
首を傾げつつ一言。
「セーフティエリアじゃないのに何アホなこと言ってるの?」
「理っ不っ尽でーーーーーーす!!」
うっさいなぁもう。
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いまだにグチグチとうるさいアヤはほおって置くとして。
ご飯も食べて腹もふくれたところでそろそろ移動しようかと思ったところ。
イモムシ(まだ居たのか)がサンドイッチをあげたことで気を良くしたのか、ものすごく近くに居た。
地味に怖いから困る。
好きにさせていると何やら私のスカートを咥えて引っ張っている。
「何? サンドイッチならもう無いけど?」
ていうか、本当に食ったのかサンドイッチ。
「キピッ!」
「なんとなふでふけどひがうってひってるひがしまふね」
「……そうね」
サンドイッチが無いと言った瞬間若干だが触覚が垂れ下がったのは気づかなかったことにして。
「……で?」
「ふぁい?」
「何してるの? アヤ」
イモムシが咥えてるスカートの反対側を、真剣な顔でアヤが咥えている。
唯一違いが有るとすれば大きさの違いがあるために、イモムシは下に向かって。 アヤは上に向かって引っ張るために全力でスカートが捲れてしまっている事だろうか。
アヤはスカートから口をはなし――スカートは下ろさずに手に持ち替えただけだが――真剣な顔のまま。
「咥えてみてわかったんですけど」
「おう」
「私が咥えてたくし上げても中身見えないからあんまり意味ないですね……」
「……そっか」
「はい……はむ」
そう言って私のスカートを咥えなおすアヤに対し思うことは多々有るのだが、「いや、しかしこれはこれで……」となにやら幸せそうなのでほおって置く事にする。
最近の女子中学生のレベルの高さに若干日本の未来に不安を感じつつ。
いまだに何かを訴える様な表情で――イモムシの表情なんかよくわからんけれど――スカートを引っ張り続けているイモムシの話? を聞くことにしよう。
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さて、話を聞いて? みたところ、イモムシが先導する方向に進む私達。
こっちゃ来い、こっちゃ来いとこちらをちらちら見ながら進んでいくイモムシ。
一応【索敵】をしつつついて行っているが、どうやら他のモンスターの索敵範囲を上手くかいくぐって移動しているようだ。
移動中ちょこちょことイモムシが立ち止まっては「キピッ!」と採取ポイントを教えてくれるため、アヤが嬉々として採取している。
まぁ、アヤのインベントリが少ないせいで、採った片っ端から私のインベントリに消えていくんですけどね。
そうやって当初の目的の半分を達成しつつ――まったく戦闘ができてない――イモムシの後をついていくと。
「キピピッ!」
と、イモムシが次の反応をした。
「おぉ! 次の採取ポイントですか……って、は?」
アヤが目を輝かせて走っていって、何故か固まった。
「ナギハさん、ナギハさん、アレ! アレ!」
「はいはい……って、何アレ」
自信満々に「キピッ」っとやっているイモムシの横にソレは草むらから生えていた。
「お尻ですかね?」
「お尻だねぇ」
私たちが見つめる先には、草から尻が生えていた。
「なんでや」




