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28話

「帰りのことはそのときに考えるとして」


何かいつも言っている気がするけど。


『何をしようか?』


そうデンジャの森に来たは良いが、毎度のごとく特に何をするかは――情報も出揃っていない最新のゲームでやることが決まっている方が珍しいかもしれないが――決めていない。


ここに来たのだってたまたま『クリエ』の店主が不在だったからだしなぁ。


生産関連の店主がわざわざ来るくらいなのだから、少なくとも草原レベルの素材よりは良いものか別の種類のものが取れる『可能性』があるだろう。


「なら、とりあえずブラブラしながら草原のときみたいに採取でもするです?」


「そうしよっか。じゃあアヤ、草原のときみたいに私が戦うから」


「はいです、採取は任せるですよ」


「うん、頼むわね。それと採取したやつは渡してくれれば私が持つから早めに言うようにね」


「うぃうぃですよ」


「よし、じゃあ【索敵】」


以前使ったときの様に軽い脱力感を感じながら脳裏にモブの位置がうかぶ。


最初に使ったときよりも多少ではあるが範囲や精度が上昇している気がする。


気がするだけかもしれないけど。


上がってるよね?


なんとなく【索敵】の使用に慣れてきただけなのではないか? と思い始めたのをグッと我慢し【索敵】に集中する。


「あれ? ナギハさんスキル持ってたんですね?」


「んー……あ?そりゃ持ってるでしょ?」


「へぇ……攻撃スキルは?」


「【闇弾】ができるようになったよ?」


「前衛ですよね?」


前衛だよ、遠距離攻撃スキルしかないけど。


「……いや、ほらスキル無くても勝てるし」


「……」


「……」


「あ、あっちの方にモブが1体だけ居るみたいだからそっち行ってみましょう? 試しに戦ってみたいし」


「……」


「せめてまともな反応返してくれませんかねぇ!?」


アヤのジト目を背中に感じつつ私は最初のモブに向かうのだった。



――――――――――



「キーキー」


【索敵】を頼りに進み、私たちはデンジャの森で初めてモブに遭遇していた……のだが。


「コレは何て言うか……」


「拍子抜けと言いますか」


掲示板にてなかなかに難易度が高いという話だったので多少期待というか警戒していたのだが。


「キピー!」


何やらこちらを睨みつけ体を少しでも大きく見せようと縦に持ち上げて全力で威嚇しているようなのだが


「「ぜんっぜん怖くない(です)な」」


私たちの視線の先には赤ん坊くらいの大きさの芋虫がいた。


いるんだけど。


「キ、キピー!」


「・・・敵ですよね?」


「敵だよねぇ?」


敵であるはずの私達に攻撃してくるわけでも無くただ威嚇をするだけの芋虫。


このままこの芋虫と睨み合って、某有名ポケットなモンスターのアニメ初期の様に次週に行くのもアリかと思うが。


残念ながら私達は同じポーズを一週間どころか5分続けるのもだるく、そもそも現実で『また来週』などと言うものは私の16年という人生の中でまともに使われたことは中学のころの担任――今の担任(ハゲ)はそもそもそんな事言わない――くらいではなかろうか。


中学のころの担任と言えばとても生徒思いの優しい女性教師だったのだが。


その担任が行った抜き打ちの漢字テストで「読心術」と書くところを何をトチ狂ったのか「独身術」と書いたアホ(マナ)のせいで一悶着あったのは昨日の事のように思い出せるが。


はたしてこれは間違ったマナ(アホ)が悪いのかこんなテストを作った担任が悪かったのか。


あの時の担任(当時28歳独身)はまだ元気にやっているのだろうか。


いい加減白馬の王子様を待つ歳でも無いと気づいて適当なところで見切りをつけていると良いのだが。


まぁ、つかなかったらつかなかったで白馬の王子様が白髪の玉子(おっさん)に変わるだけだから別に良いか。


マナの国語の成績が「5」からトランスフォームして「2」のアヒルになるという事があったのだから、王子が玉子になるくらいたいした事ではないだろう。


さておき。


自分も将来あんな大人になるのだろうか? と考えていたところで隣にいるアヤに袖をひかれ思考の海から帰還をする。


「あぁ、ごめん。 将来について考えてたわ、何?」


「色々とツッコミどころが満載ですが後にしましょう……将来については私も非常に興味がありますので。 それで『アレ』どうするんです?」


「いや、どうするって言っても……ねぇ?」


アヤの指差す方には当然ながらイモムシ(アレ)が先程と変わらず――いや、むしろ少し遠ざかってないか?――居る訳なのだが。


「キ、キピー!」


あ、慌ててまた威嚇しなおしてるし。


「いやまぁ……向かって来ないなら放置でも私はいっこうに構わないんだけど?」


「はぁ、てっきり私は見敵必殺(サーチ&デストロイ)するものかと思ってましたが」


いや、そんな人を戦闘狂いみたいに言わんでほしい。


まぁ。


「ドロップアイテムには非常に興味があるけれどさ?流石にデンジャ(ココ)の様子見で戦うのにやる気の無いのと戦ってもね?」


「まぁ、それもそうですね」と返すアヤから視線を再びイモムシに戻すと、いまだにがんばって威嚇を続けていた。


「よし、アヤ。 ここはほら、エルフ(森の人)的な何かアレやソレ的な感じで同じ森の住人であるイモムシに戦う気が無い旨を伝えてみよ?」


「何ですかそのエルフ的な何かって。 できませんよそんなの」


「え、できないの?」


「いや、普通できませんよね? 相手イモムシですよ?」


「ちっ、エルフって使えないわね」


「うえぇっ、流石に理不尽です!?」


「ったく、仕方が無いエルフ。 私が何とかするエルフ」


「まさかの語尾!?」


となりで煩いアヤを軽くスルーした私は。


レイピアを鞘にしまい。


しゃがみ込み目線を下げ。


まだこちらを警戒しているイモムシにできるだけ優しく話しかけてみることにする。


「キミを攻撃する気は無いから威嚇をといてくれないかな? それにもしキミが逃げても私達は追わないからさ?」


「いや、ナギハさん……モンスター相手にそんな話し合いなんて通じるはずがな――」


「キピッ」


「って通じるんですかいっ!」


アヤの言葉が終わらない内にイモムシは威嚇を解いてくれた。


驚いているアヤに対し私は一言。


「やっぱ、話し合いって大事だね」


「いや、その結論はぜってーおかしいです」


イモムシ(異種族)との対話には成功したというのに同じ人類――今は吸血鬼とエルフだけどね――とは分かり合うことが難しいことに若干の悔しさを覚えつつ。


戦争が無くならないのはきっとこのせいなんだろうなぁ。 という結論が私の中で出たあたりで。


お腹が空いた。


よし。


「ご飯にしよう」

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