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26話

「ですからね?けして私はそのですね、邪な思いで口移しといったわけではなくてですね。 そのゲームの仕様といいますかなんといいますか・・・そう!仕方なく、仕方ないんです!」


「つまりポーションのビンを口に無理やり突っ込んでこぼさない様に注意して飲ませれば良いんでしょ?」


「愛がないです!」


「私は常識が有る方が大事だと思うんだけどね・・・っとこれも買っとく?」


アヤによる熱いポーショントークを交えつつ私達はデンジャに行くためにギルドで準備をしていた。


ただまぁ準備とはいえ一番お世話になるであろうポーションの類はアヤが作成したものがあるため、その他のこまごまとしたものを買い込むだけなのだが。


「むぅ・・・それにしても現実でもお腹がすくのにゲーム内部でも空腹のシステムがあるのはどうにかならないものなんですかね」


私が手にもっているリンゴを見つつアヤは話題をそらされたせいなのかシステムの不親切さなのかはたまた両方なのかもしれない不満をこぼしている。


私たちが現在居るのは生産ギルド内部にある食料を扱う部門だ。


色とりどりの食材がひしめき合って陳列されている様は圧巻の一言である。


何故このような施設があるのかといえば、この箱庭の世界の住人はゲームの中の存在とはいえ普通に生活しているのだから衣食住が必要不可欠なため。


普通に生きてりゃ腹も減るだろ? としか言えないのだ。


ただまぁ『この世界の住人』の枠に私たちプレイヤーも含まれているのは多少面倒ではあるのは確かではあるのだが。


「まぁ仕方が無いんじゃないかな。 それにこの空腹……もとい味覚のシステムも売りの1つらしいじゃない?」


「あぁ感覚共有システムでしたっけ?」


「そ、もともとVRのシステムって医療用目的で作られたものを娯楽にまわしているだけだからね。 まぁぶっちゃけ今このゲームをしているのも広い目で見れば実験の内なんじゃないの?」


このVR技術というものは目の見えない人や耳の聞こえない人等体に障害を持つ人向けに作られたものである。


たとえば目の見えない人に目の前にある風景を説明してあげてくださいと言われても普通の人には無理な話であろう。


たしかに目の見える人と目の見えない人は同じ人間であるが両者の立ち位置はまったく別物なのだ。


何故ならそもそも常識からして違うのだから。


こんなことを言うと差別だ何だとうるさい団体も多いのだが差別と区別は違うって事を理解していない団体さんの方が正直よっぽど差別をしていると思うのはなんなんだろうね。


話を戻そう。


目の見える人は色や形といった様々なものを使いかつ、それがあるのが『普通』なのだから『普通』の事を説明するにはその相手も『普通』でなければならないのだから。


この問題に一石を投じたのがVR技術であり感覚共有システムであった。


このシステムの開発者いわく。


「今私が『見えている』と感じているのは結局のところ脳がそう認識しているに過ぎない。ならば脳が認識しているものを解析して人工的に『それ』を行うことが出来れば目の見える人も見える人と『同じ人』になるんじゃないか?」


との事である。


そう、その開発者は普通を作ってしまったのだ。


……とまぁ医学的にも科学的にもものごっつい事をした人が居た訳なのだが。


「ようは今嗅いでいるナギハさんの匂いはこのVR上にいる誰かが嗅いだ本物のナギハさんの匂いのデータを解析してできていて……非常にとてももの凄く遺憾ではあるんですがそのおかげでデータとはいえ私はナギハさんの匂いを嗅げているということでいいんですよね? それは確かにものごっつい発明です」


「うん、まぁ。色々と言いたいことはあるけれど大体あってるからむかつくわね」


もの凄い発明のはずなのにすげー低俗なものに感じてきたわ。


「……っは! ナギハさん、1つ……いや2つ3つお聞きしたい事があるのですが!」


「あぁうん……良いけど?」


アヤは何やらもの凄く真剣な顔をしている。


「ナギハさんは――」


「うん?」


私はトマトを手に取りつつ話を聞いていると。


「ナギハさんは誰かとキスしたりベロチューしたり、あとその胸を揉まれたり吸われたり挟んだりした事はあるんですか!?」


ブシャアッ!


「……は?」


あまりにも意味がわからない、いや意味はわかるけど意図のわからない質問の為に何の罪も無いトマトが犠牲になった。


もったいない。


「重要なことなんです!」


「私はトマトまみれの手と汚した床の方が重要だよ。 あ、すみません。」


売り子の方に説明をし、会計のときにトマト代も追加してもらえれば問題ないようで安心した。


「……んで、なんだって?」


「かくかくしかじか」


「まるまるうまうまっと……それ聞いて何かあるんですかね」


「今後のためにも是非知っておきたいのです! それに知っておいても損は無いじゃないですか!」


一体どんな今後の為に必要になるのかは私にはまったくわからないが。


どうやらトマトの尊い犠牲は無駄では無かった――いや無駄なんだけどね?――事は確かのようで私の耳に聞こえたアヤの言葉に間違いは無く、別の国の言葉とかではなかった様だ。


冷静に考えれば感覚共有システムが働いているのだから意味のわからない言葉を使われることなどまず無いのだから当然なのだが。


システムに責任は無いのはわかってはいるのだが感覚共有システムに八つ当たりをしたくなった。


まぁ、同じ日本人だからシステム関係なく言葉はわかるんですけどね。


「さいで」


私がどうでもよさそうな反応をしている間もアヤは私をじっと見ている。


あっれ、これ何か答えなきゃならない感じだわね。


どう言ったものかと少しだけ悩み。


「……無いわね、興味無いし」


私がそう答えるとアヤは少し驚いた顔をする。


何だその意外そうな顔は、まったく……。


「ほら、答えたんだからとっとと買うもの買って行くわよ? そろそろリアルで昼になるからログアウトしなきゃだし」


「あ、はいです」


驚いた顔のあと何かニヤニヤしだしたアヤを放置して私は会計を済ますことにする。


いったいなんなんだか。

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