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12話

さてと。


気をつけて、とは言ったものの『吸血姫』は夜目が利くらしく昼間と同じかそれ以上に視界は良好である。


そのせいで、さっきから何故か赤くなっているアヤの顔も見えている。


むむ、もしかして。


敵を狩っているだけで良かった私は問題なかったが、採取をしているアヤはいつ私をすり抜けて敵が来るかわからないために常に緊張してる必要があったのだろう。

そのために通常よりも疲労が蓄積してしまったのかもしれない。


思えば採取している時に何度か私の方を見ていた時があったのも疲れていたのを言い出せなかったのだろうか。


私は周りに敵がいないことを確認してアヤの顔覗き込みつつ尋ねることにする。


「アヤ、顔が赤いけど…大丈夫? 疲れちゃった?」


「なっ、なんでもないでふ!らいじょうぶです!」


なんか覗き込んだら余計に顔が赤くなって息も荒く呂律も回らなくなったんだけど本当に大丈夫なんですかね。


アヤが全然問題無いです!無いのです! と、言うのであまりしつこくするのも悪いので様子を見ることにする。



□□□□□□□□□□□□□□□



うーむ、おかしい。 


いや、アヤもおかしいけどそうじゃなくてフィールドの様子がおかしい。


夜間で敵モブの沸き方や出現するモブが多少変化している位であれば問題ないのだが。


モンスターが全く出てこないのだ。


いくらなんでも夜間になるとモンスターも寝ます! なーんてことはあるまいし。


何かのイベントでも発生しているのだろうか、なんというかまるで……よーし、落ち着け私、これ以上考えるのは何かいけない気がする。


そんな『ボス部屋っぽいな』とか『特殊モブでも出そうじゃん』なんて考えはいらないのだ。


今日だけでもなかなかにイベント盛り沢山だったんだ、流石にもうお腹いっぱいである。


可及的速やかに何か別の事を考えようと思っていたら。


「あ、【半月の夜にニノマエの草原で怪物が出る】って掲示板に情報があったんですけど。何か特殊な条件が必要なのかβの時からその情報自体はあるのに誰もそのイベントを起こしたプレイヤーはいないらしいです。」


復活したのかアヤが何気なく振ってきた雑談なのだが、アヤは何故そのこと(掲示板)を思い出したのか。


私は何か嫌な予感がして立ち止まり空を見上げると、そこには綺麗な半月が浮かんでいた。


私が半月を確認したと同時に無慈悲なアナウンスが流れる。


『【ニノマエ東】にてユニークモンスターの出現条件が満たされました。』


『今より【ニノマエ東】には【隻眼の人狼】が出現します。』


『また、【隻眼の人狼】から逃走することはできません。討伐もしくは敗北するまでこのフィールドからの脱出はできません。』


だからもうお腹いっぱいだってば!


そう思った瞬間、私の身体は宙に浮かんでいた。


何者かにぶっ飛ばされたのだと理解する前に、目の前が真っ暗になった。



□□□□□□□□□□□□□□□



「んん?」


気づけば私は何故かあの暗い部屋に立っていた。


周りを見るがアヤの姿は無く私だけのようだ。


「また、お会いしましたな、ナギハ様でしたかな?」


そこには昼の時と同じように……いや、同じではない。


老人の隣にもう一つ椅子が追加され、そこには上等なビスクドールのような少女が腰掛けてこちらを見つめていた。


色々と気にはなるが、そんなことよりアヤが心配である。私はすぐにでも戻れるなら戻らなければならないのだが。


「心配されなくとも少しばかりお話をしたくらいで外での時間は進みはせんよ。ココと外では時間の流れが違いますのでな。」


そりゃまた都合の良い空間ですね……。


ならとっとと話を聞こう。問題が無いとわかっても心情的に落ち着かないものなのだ。


またいつの間にか出現していた私用の椅子に腰掛け老人に視線を向ける。


「では早速。と、言いたいのですが話をするのは私ではなく、ほらご挨拶なさい。」


「はじめまして、リリィと申します。」


少女はスッと立ち上がると両手でスカートの裾をつまみ、軽くスカートを持ち上げて礼をした。


微妙に面食らってしまい「どうも、ナギハです。」しか言えなかった。


「それでは、私からナギハ様にお伝えしたいことは吸血姫の力と眷属についてです。」



□□□□□□□□□□□□□□□



「【吸血姫】は普通の吸血鬼と同じく【眷属】を持つことができます。眷族は【吸血鬼化】し肉体が強化されるだけではなく、ナギハ様の【夜天の主】の恩恵を受けることもできさらに能力が上昇します。ただし普通の吸血鬼と違って吸血姫にはお気づきかと思いますが【牙】がありません。」


今気づいたとはなんか言える空気じゃないので頷いておく、そういや無いな牙。


「そのため吸血姫には吸血によって相手を支配、眷属化をすることはできないのです。」


「つまりそれ以外の方法がある、と?」


リリィは、はい と頷いて。


「眷属化の方法ですが体液の交換によって相手を支配することが可能です。」


体液…って言うと。


「簡単に言ってしまえばセック『ストップ』失礼しました、性交渉ですね。」


言い方の問題じゃないんすけどね。それにストップって言っちゃったせいで結局意味の無い感じになったし。


「それ以外だとキスでも一応大丈夫ですよ唾液も体液ですからね。まぁ、性交渉に比べたら効果は低いですけどね。」


つまりなんですか、吸血姫ってその。


「はい、相手を誘惑しその気にさせてキスなり性交渉なりして眷族を増やせますよ。幸いなことにナギハ様は恵まれた容姿ですので簡単に好きなだけ増やせると思われます。」


うん、容姿を褒められている筈なのに全然うれしくない。


もう、簡単にまとめると私とキスすると強くなるよって事でいいですか、いいですよね。


「はい、補足しますとキスであれば唾液の交換ができるくらいに激しく、性交渉ならより対象は強くなります。」


後半はもうええっちゅーねん!



□□□□□□□□□□□□□□□



リリィが『それではまたお会いしましょう。』と言い終わると同時に視界が切り替わる。


「ぅ…。」


草が風になびく音と半月が見える、どうやら草原に戻ってきたらしい。


「ナギハさん!大丈夫ですか!」


アヤが駆け寄ってきて私の顔を心配そうに覗き込んでくる。


大丈夫だ、と伝えようとしたのに声が出ない。そういえばなんで私は草原に転がっているんだろうか?


「あいつがいきなりナギハさんをふっ飛ばしたんです。」


アヤが私の疑問を読んで答えてくれた、指差す方向に視線を向けると。


片目が潰れた狼男がいた、アレが【隻眼の人狼】か。


いきなり人のことふっ飛ばしたってことは戦闘は始まっているはずなのに様子を伺っているのか追撃してこない。


まぁ来ないならそれはそれで都合がいいので今のうちに立って構えなければって…あれ?


(動けない?)


慌てて自分のステータスを見るとそこには【麻痺】の二文字があった。


くっそ!私が麻痺してるなら焦って追撃する必要が無いって訳か!


(どうする?どうしたらいい!?)


焦る私の頭にまるでお告げのように誰かの言葉が響いた。



□□□□□□□□□□□□□□□



(ナギハ様…眷属化を…眷属化を使用するのです。)


横でリリィが何かやってた。なにしてるんですかね。


(大丈夫です、私の姿はナギハ様にしか見えませんし触れることもできませんので。)


何が大丈夫なのか全然わからないんだけど?あとなんで麻痺で動けない私をさらに押さえつけてるのかな?あとその手に持ってる薬は!?


(心配要りません、任せてください。)


心配だよ畜生!


「ナギハさん今の声ってなんです?、眷属化ってなんですか?」


ちょっと待ってそれどころじゃない! っておいこらリリィ!ステータスに【沈黙】追加されたぞ何をした!


リリィは良い笑顔で笑い。


(アヤよ…今ナギハ様は麻痺によって動くことができない…あのモンスターから救うことができるのはアヤ、貴女だけです。)


「どうしたらいいんです!」


(ナギハ様とキスをしなさい、激しく、唾液を交換するほどに激しいキスを。そうすれば貴女は一時的ですが力を得ることができるでしょう。)


おいコラ人が動けないのをいいことに何言ってんのこの子!?


「わかりました!」


わかっちゃったよこの子!少しは疑問にもとうよ!


私がアヤに視線を向けると。


「これはナギハさんのためこれはナギハさんのためこれはナギハさんのため……。」


と、ぶつぶつと独り言を繰り返していた。 あ、アカンやつだこれ。


「…よしっ!ナギハさん!」


なんでしょうか。


「キスしましょう!すぐしましょう!今しましょう!失礼します!」


顔を真っ赤にしながらアヤの顔が近づいてくる、ちょっまっ



ちゅっ



世界が止まった気がした。


目の前いっぱいにアヤの顔が広がり、睫毛の触れそうな距離、で止まらずに密着したのだ。


私とアヤの唇同士が。


ゆっくりと私の唇を割ってアヤの舌が口内に入ってくる。


「んちゅっ、んっ…んっ。」


麻痺で動けずさらにはリリィのせいで沈黙も付加された私には文句も言う暇も無く。


「んっ…ちゅっ、ぷはぁっナギハ…さん。」


恍惚とした表情で私の名前を呼び また私の口内を貪る様に犯してくる。


「んっ…んっちゅるっ…はぁっん。」


アヤの唾液で私を満たして。


「んっちゅるっ、あまぁぃ。」


そしてまた私から奪っていき、コクリコクリとアヤの喉が私の唾液を嚥下するためにそっと離れた。


二人の唇を銀の糸が結んでいた。


(うぅ……やっと開放された。)


(どうやら成功ですね。無事に眷属化しましたよ。)


成功ですねじゃねーですよ畜生…動けない喋れないで好き勝手されたこっちとしては洒落になってないわ!


と言う気力も無い、もう好きにしてくれ私は疲れた。


『グォォォォォォ!』


あぁ、いまさらながら思い出したけどそういえば戦闘中でしたね。と、言うか今の今まで待っててくれたのかよコイツ何なの紳士なの?変身シーンは襲わない協定でもあるの?


私がそんなどうでもいい事を考えているとアヤがすっと立ち上がり向かってくる人狼を。


「邪魔しないでください!」


と、言ってゴキャリと人狼の首をへし折った。


ええええええええええ!?


『たったいま【隻眼の人狼】が討伐されました。これにより…』


システムアナウンスが流れているが正直目の前で起こった光景が信じられなくて頭に入ってこない。流石に強すぎるんじゃないでしょうかアヤさん。


人狼を倒したアヤがこちらに向き直りニッコリ笑って。


「さぁナギハさん!続きをしましょう!」


え?いや、待って?人狼倒したよね?


(言い忘れてましたが【吸血姫】の唾液には強力な媚薬と同じ効果がありますから注意してくださいね。)


その情報おせーよ!待ってアヤ!?アヤさーん?ちょおま…やめ…


暗い草原で半月だけが二人を見ていた。

おかしい、構想段階ではアヤってこんなキャラじゃなかったはずなんですが。


どうしてこうなった。

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